『マジック・イン・ムーンライト』感想。本当にあったマジシャンと霊媒師の対決。 | まじさんの映画自由研究帳

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ウッディ・アレン作品に登場するマジッシャンで思い出すのは『タロットカード殺人事件』だ。探偵の亡霊から「捜査していた事件を解決して欲しい」と依頼される事から始まる、奇想天外なラブストーリーだ。その中で、ウッディ・アレン自身が冴えないマジシャンに扮し、狂言回しとして登場する。
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『タロットカード殺人事件』のウッディ・アレン

ウッディは「オカルト」と「マジック」という、相容れない存在を同居させている。
「オカルト」は、トリックを使っている「マジック」をインチキと言い、「マジック」は「オカルト」こそがトリックを使ったインチキだと言う。どう考えても共存不可能である。だが、どう考えても共存不可能な存在を同居させるのが、ウッディ・アレンの魔法なのである。

さて、今回の『マジック・イン・ムーンライト』は、20世紀初頭を舞台にし、まさに「マジック」と「オカルト」の対決を描きつつ、ウッディ・アレンが魔法をかけて、素敵なラブストーリーに昇華させている。

マジック愛好家のオイラにとっては、極めて「俺得」な作品だった。


あらすじ
舞台は20世紀初頭。マジックが、エンターテイメントの頂点に君臨したボードビル時代。ウェイ・リン・スーという芸名で、中国人に扮装し大魔術を行う英国出身の人気マジシャンがいた。ある日、彼の元に、友人のマジシャンが訪ねて来て「自分が見破れなかった霊媒師のトリックを暴いて欲しい」と依頼され、霊媒師と対決にする事になる…。

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一見、荒唐無稽にも思えるようなストーリーだが、この話にはモデルとなった実話が存在する。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、マジックはエンターテイメントの頂点だった。その時代には、多くの偉大なマジシャンがいた。その中でも、最も有名だったのが、ハリー・フーディーニである。
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[ハリー・フーディーニ 1874-1926]

コリン・ファース演じるスタンリーは、明らかにフーディーニをモデルとしている。脱出マジックを得意としたフーディーニだが、多くの霊媒師たちに恐れられたサイキック・ハンターとしての顔を持つ。

19世紀末、多くの死者が出た第一次世界大戦後、家族の死を受け入れられず霊媒師にすがる者たちが殺到し、降霊会が大ブームとなっていた。フーディーニは、彼の妻が引くほどのマザコンだったので、母親の死は彼を苦しめた。なかなか受け入れられず、人の勧めもあって、降霊会に通った。しかし、一流のマジシャンであるフーディーニには、霊媒師が行うトリックが見えてしまう。霊媒師もマジックを見せる同業者だった事が、彼にはわかってしまったのだ。人に楽しんでもらう為のトリックを、人の弱みに付け込む為に使う「同業者」を、彼は許せなかったのだ。こうして彼は、霊媒師たちのトリックを暴いて回るようになった。

ある時、科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」が、本物の超常現象に懸賞金をかけた。フーディーニは「科学者ばかりでは騙されやすい」と、自ら審査員に参加した。勿論、彼が審査員となった期間に、懸賞金が支払われる事はなかった。ただ、一度だけ支払いを宣言して、後に取り消された例がある。

それが、フーディーニが最も苦戦したと言われる、霊媒師マージェリー・クランドンだ。
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[フーディーニ(右)とマージェリー(左)]

フーディーニですら、そのトリックを見破るまでに、何度も降霊会に赴いたという。彼女は、特別なトリックを使っていた訳ではないが、誰一人として客観的な視点で見る事を許さず、降霊術の輪に参加させ、完全な暗闇の中で不思議な現象を見せた。一時、サイエンティフィック・アメリカンは、彼女が本物であると発表するが、すぐに取り消しの会見が開かれ、彼女の行ったトリックが、そこでフーディーニによって暴かれた。
フーディーニが見破った後も、彼女を本物だとの主張する声もあった。「フーディーニが証拠を捏造した」とか「調子が悪い時に、たまたまトリックを使ったのがバレただけで、彼女の能力は本物である事は間違いない」などの、苦しい弁護論が記録に残っている。まぁ、真偽はさて置き、ここから彼女も相当な人気者だった事がわかる。

さて、この歴史に残るマジシャンvs霊媒師の対決を、ウッディ・アレンはなんと、素敵なロマンティック・コメディに仕立て上げてしまった!

コリン・ファースが演じる主人公のスタンリーは、いかにも英国人らしいカタブツのマジシャンだ。
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論理的で目に見えないものを信じない。口を開けば、呆れるほど流暢な皮肉が次から次へと出てくる。実在のフーディーニはドイツ系ハンガリー人だったのだが、皮肉屋であった点は共通している。
また、ウェイ・リン・スーという名の中国人に扮装しているのは、フーディーニのスタイルではないが、これは、同時代に活躍した別のマジシャン、チャン・リン・スーの名前に由来する。だが、ステージで彼が演じた「象を消す」マジックと「人体切断」は、紛れもなくフーディーニが考案し、演じていたネタである。
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現代風なアレンジを加えず、当時のトリックを再現していた所にも、ウッディ・アレンのこだわりがわかる。
(実在したチャン・リン・スーについては『プレステージ』の感想で詳しく触れているので参考にして欲しい。この映画がいかに当時のマジックを研究しているかがわかる筈だ)
ショーのラストで演じた「瞬間移動」は、映画オリジナルのネタだが、コレが見事な伏線となっている。

このように、フーディーニを崇拝するオイラにとって、霊媒師マージェリーは、憎っくき悪役なのだが、それをエマ・ストーンで演られたら…
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もう、憎めないじゃないですかぁ~♡
ずるいよウッディ~!

彼女の吸い込まれるような大きな眼は、何でも見透かす霊媒師の様にも見えるが、純真な少女の輝く瞳にも見えてくるから不思議だ。あんな瞳に一瞬でも見つめられたら、誰だってウクレレ弾いて歌とか捧げちゃうって!
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カタブツのマジシャンと、純真無垢な霊媒少女という、可笑しなアレンジは、ラブコメの天才ウッディ・アレン
独特の世界を見せてくれる。
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そんな二人が対決の中で、お互いの影響を受けていくうちに、価値観が逆転してしまうのが面白い。恋とは、理論もトリックもない不思議な現象である事を描いている。

当て馬のウクレレ御曹子くんも、とてもコミカルで憐れだ。こういう三枚目って、なぜか憎めないんだよね。金持ちのボンボン以外に何の取り柄もないんだけど、一途な思いだけは本物だ。
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馬鹿だけど、悪人じゃない。一瞬でも、ソフィーの心を動かしただけ、立派だと褒めてあげたい。この俳優さんは知らない人だけど、ジェフ・ゴールドブラムの演技にそっくりだ。彼の生徒だったのかな?

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何にせよ、南仏のロケーションは素晴らしく、衣装もゴージャス。素敵なクラシック・カーも出てきて、さすがオシャレ映画のトップ・デザイナー!ウッディも、もうすぐ80歳だけどが、まだまだ元気に映画を撮ってくれている。
いつまでも、愛のマジックを語って下さい!