飽くなき妄想の果て -712ページ目

本編5 「鼠を仕留める猫」

独自妄想トータルでその6。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで?(>_<)

あんまり面白くなくて申し訳ないというか、静かに勝手にやっているので許してください(j_j)

では、いってらっさいまし!
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「猫 意識を放すな」
「わかってイる…」

斉藤は、沖田の要領を得ているのかいないかの説明の中、調書を見ながら何度も猫の意識を確認していた。

「沖田君… 少し猫と話しておけ しばらくは眠らせるな 俺は、この先の聴取の内容を確認する。」
「わかった…」

そう答えた沖田の目が、猫に落とされ、痛く飽きれた顔をしたが、次の瞬間には猫の身体を包み込むように抱き、よしよしと背中を撫でていた。

「君ってさ 本当にすごいよね~」
「何が… すごい」
「何って… 何もかもだよ 普通無いよね、そんなに血を流して痛い思いしたら死ぬし」
「痛みに耐える訓練はしていた」
「それって… いわゆるアレだね 拷問みたい」
「ああ… 拷問の訓練だ…」

息を音もなく吐く猫に寒気を覚えて、沖田は背中を撫でていた手を止めた。

「た… 例えば?」
「まず… 内股をかすめえぐられるように銃で撃たれる… 訓練でなければ膝を撃ち抜かれるだろう」
「…」
「膝そのものを撃ち抜くと、使い物にならなくなるからな… しかし 恐らくその痛みは撃ち抜かれるより強い 柔らかい部分は、肉が弾力で細かく飛ぶし、血も沢山流れる。 視覚でそれを確認すれば、より痛みが増強される…」

地の底から湧き出るような低い猫の台詞に、沖田はその身体を放して硬直させていた。

「そこまでだ」

調書に恐るべき速さで目を落としていた斉藤が、会話に割りいった。

「ここからは俺が質問する。沖田くんはそろそろ外回りの頃合いだ」
「ああ~ そうだね」

助け船だったのか、斉藤の言葉に沖田はゆらりと起ち上がった。
しかし、それにすがるような呼びかけがあった。

「ソウジ?」
「うん?」
「いつでもいいから、私のサバイバルナイフを… 落ちていったんだ…」
「ん? 鯖ない??」
「私が左手に持っていた… 相棒… ソウジとあった晩…」
「あ~ぁ! あの包丁みたいなやつ?」
「それだ… 何とか見つけて欲しい…」
「川の底をこの僕が探せって? それにさ、あれから何日も経ってて使い物になってないんじゃないかなぁ~ 価値はないね」
「ソウジ… 頼む」
「…。 あ~ そうだ 君が無いって 言ってるもう一つ わかるよ~ 「サムライ」でしょ~」
「!」
「土方さんの事だから、隠しものは目に届く所だねぇ 床の間の下とか上とかっ んっと… 後は、戸袋とかって~? いやいや灯台下暗しってのを見越して机の裏っ! あ~やっぱり何か貼り付いてる… ほら あった」

総司は部屋の中をくるくると飛び回った揚げ句、隠し主をあざ笑うかのように、黒い塊を見つけ出した。

「「侍」って名前なんだっけ?これ」
「ああ サムライだ… 返せ!」

意地悪な目線が猫に落ちた。

「これ、本当に大切なんだね どうしよっかなぁ~」
「よせ… ヘタをすればお前の手首から先がキレイに無くなる…」
「…」
「ソウジ… お前をアブナイ目に遭わせたくない… 仕込んである…」

沖田の目がカッと見開いた。
サムライを丁寧に… ゴトリと、静かに猫の目の前の床へ… それを取れとばかりに落とし、ゆらりと自分の刀に手をかけた。 

「馬鹿にしてるの?」
「バカになどしてない… むしろお前の力を… 尊敬さえしているがな…」
「嘘だね」

その刹那、沖田の刀が鞘を滑った!

ギンッ!

合わさる刹那に、お互いの気持ちが失速し、豪快ではあるが高温ではない火花を散らして、二つの刃が重なった。
沖田が、刀を合わせた相手は斉藤だった。

「そうだったね 居合は、斉藤さんには敵わないよね~ やると思ったってのは内緒っ」
「これ以上の問題は願い下げる…」

そのまま鍔迫りをするにも馬鹿らしく、沖田は力をゆっくりと落とした。
斉藤も、それに合わせて刃を引いていく。

「言い方が悪かったのだな… ごめんなさい… 勉強しないとだな…」

猫は沈んだ言葉を紡ぎながら、やっとサムライへと手を伸ばした。
そして、カチリと音を鳴らした後、震える手でガチャリと更に力を込めて、鉄の上部を横へ滑らせた。
それを力がこもらない両手で支えて持ち、ぐるぐると揺れる瞳で天井の一点を見定めた。

ドーン!!

彼女が銃の引き金を引いた刹那、「きゅっ」という獣の呻きが聞こえた。
小さな火薬の匂いを嗅いだ後、彼女は静かに語りながら、銃の弾倉を抜きその中身をバラバラとぶちまけた。

「少し外したが… ヒジカタが追う敵を殺った… これで中身はカラだ… サムライを元あった場所に返してやってくれ… 安全になった…」

そう言って、猫は空になったサムライをゴトリと床に置き、沖田に差し出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
声も出せなくなっている沖田と斉藤に少しだけ言葉を補足したのは猫だった。

「この弾はそこの大きな袋に入れておいてくれ…」

ばらまいた銃弾と袋を順番に顎で示し、猫は左の腰を守るように、疲れた身体をゆっくりと畳へ沈めた。

「い… 今… 何をした…」
「鼠… 殺したんだよねぇ~ さすが猫だね」
「ヒジカタが夜な夜な天井をつついていた… 俺も気になっ て イタ…」

斉藤が目をむいて言う。

「目に見えていないものをも仕留めたというのかっ!?」

その言葉に、猫は目を細める。

「サイト… ソウジ… 二人トモ ちゃんと”見てた”ヨ ワタシの獲物 ワタシトオナジモノヲミテイタ……… ハズ…… キミラニモフツウ ニ ミエテイタダロ」

猫の言葉の最後は、難解な呪文に聞こえて、斉藤も沖田も背中に寒いものを感じた。
それと同時に、銃弾が突き刺さった天井からじわりとすこしばかりの血が滲み、猫は眠るように意識を手放していた。

「お… 俺の名は…「さいとう」だ…」

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第6回目だったっけかは、ここまで

今回も短かったような…

次回は、土方さんと沖田さんがチキン肌さらすかもっ! チェ~ケラァッ!

本編4 「失笑する猫」

独自妄想トータルでその5。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで?(>_<)

銀魂読んでて、ひっくりころがりまわって笑いすぎて上げるの忘れてたやwww

では、いってらっさいまし!
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「沖田君… これはどういう事なのか説明してもらおう…」
「斉藤さんが早くって言うからさ 酒の事なら永倉さん達に聞くのが一番早いかなって思って…」
「いや、そこの障子を閉めるのが先だ!早く閉めろ!」


斉藤は、沖田を待っている間に、落ち着き無く猫をしばらく見守っていたが、ふと気がついて「押し入れの中のモノ」を極力の配慮を持って猫の前へ丁寧に並べていた矢先の事だった。
一番強い酒を持ってきたという沖田が携えていたものは、厄介なもので、ついでの男三人だった…。
そのついでの男三人は、ついぞやの斉藤同様の反応を示していた。

「こ ここここっ ここってぇ 土方さんの部屋だよなぁっ!」
「あ~… ああ~っと… 俺の記憶を確かめてみてもそうだ…」
「いやいやっ 俺たちゃぁ 夢を見てるんだぜ! こりゃきっと見ちゃいけねぇもんだ! 夢だっ 夢だと思って立ち去るのがいい… そうしよ~…」

苛立った斉藤は、再度静かな声で殺気を含みながら言う。

「聞こえなかったか?全員中に入ってそこを閉めろ」

すると、沖田以外の三人は、怒られた子供のようにしゅんとうなだれて、部屋を一歩入ったところで正座をした。
障子を閉めたのは、いたずらっこのようにクスクスと笑う沖田だった。

「沖田君 再度問う… 何故こうなった」
「えっとね 一番強い酒を早く持って来いって言われたけど…」
「!っ とにかく早くかせっ!」
「あ~ 原田さんが持ってるよ?」

沖田の最初の言葉が終わる前に、原田は酒を差し出していた。
斉藤は、それを掴むと懐の中にしたためていた木綿を取り出し、それに酒を浸した。

「猫っ 滲みるぞ…」

そう忠告した後に、それを彼女の傷口にびしゃりとあてがった。
苦悶の顔を作るが、そこから悲鳴や嗚咽などの言葉はなかった。

「沖田君 続けろ」

「ん? あ~」と、血が噎せるその様子に、さすがの沖田も眉をひそめていたが続けた。

「だから、強い酒って言われても、僕はあまり呑まないからさ… わからなくて、藤堂君に聞いたら、原田さんが持ってるって聞いて、原田さんの所に行ってみて… そこに、永倉さんもいて… 「原田さんの強い酒頂戴」って言ったんだけどさ なかなか出してくんなくて…」

自主的に正座をしていた三人が、黙ってうんうんとうなずいていた。

「しょうがないから正直に「土方さんの部屋に、強い酒を持ってくるようにって斉藤さんに命令された」って、言ったんだ。 そしたらこうなった」

「っ!!!!」

丸投げした雰囲気で沖田の説明が終わってしまい、正座の三人が青ざめた。

「ひ… 土方さんが つぇ~酒を欲しがってるなんて、よっぽどの事かと おらぁ~心配してついてきたんだ」
「俺も…」
「俺もさっ」

・・・・・・・・・・・・・・・。

「って てぇかお前! 平助っ! 何で俺がとっておきの焼酎隠してんの知ってやがったぁ!」
「へへ~んだっ 左之さんの隠し事なんざ 霞を破るよりも薄いってぇんだ!」
「左之! 俺に黙って、こんないい酒隠してやがったとは! 俺とお前の仲はそんなもんかっ!」
「っち 違うって新八ぃ~~」

三人の中で小競り合いが始まった。

「あ 笑ったぁ…」

沖田が猫を指で指した。
そこには、力なく口の端だけをあげる彼女。
笑ったのではなく、呆れているのではないかと悟った斉藤は、静かに言う。

「コレの説明は追ってする。 我らが密会しているなどの誤解を招かぬように、各々気取られぬように立ち去って欲しい…」

昨今の状況、「それはそうだな」とばかりに、三人は小競り合いをやめて起ち上がった。

「何だか土方さんは、厄介者を背負い込む性分らしいな」

その原田の言葉を最後に、部屋は静かになった。
立ち去りゆく足音を聞きながら、やがて部屋は更に静かになった。

「無い これで全部か??」

静かな部屋で、彼女は、目の前に置かれた自分の私物に目を落とし、瞳をグルグル動かし狼狽している。

「無い? これで全部だ」
「そんな はずは!!! うっ ぁ あ 押さえてっっ!」
「斉藤さん! そいつの足押さえてっ!!」

言うが速いか、沖田は彼女の上体を羽交い締めにしてその身体を引きずった!
沖田の素早い行動の視界の中に、見た事もない狂気の瞳がぐるぐると蠢いている。
斉藤はそくざに土方の言葉を思い出し、沖田に従ってその身体を束縛する。
しかし、身構えて力を加減することなく状況を確認しようと目を彼女に向けたが… 寸とも経たぬすぐにその拘束された身体からは力が抜けていき、開きかけていた瞳孔が暗くなった。
まさか死んでしまったのではないかと、手をゆるめた斉藤に、ゆらぐ暗い視線が落ちた。

「ヒジカタ… アリガトウ…」
「猫ちゃん? 僕もいるんだけど?」
「ソウジ…? もう… 俺… コロしてもイイぞ…」

泣きそうになっている猫に、普段通りの口調で沖田は答える。

「ヤダ それは土方さんに頼んでよ」
「そうカ…」
「沖田君… 話が長くなりそうだな…」

混乱しつつも意識を留めようとする彼女の上で、詮議する視線が沖田に突き刺さった。


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第5回目だったっけかは、ここまで

ちょっと今回短かったような… ま いっか…

次回は、いや 次回もあんまり話が進みまへんわ(-_-;)
「俺が尋問してやるぅっ!」(←バウアー風に斉藤さんが叫んだ)

本編3 「裁縫する猫」

独自妄想その4。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで?(>_<)

いやぁ ちょっと随分先も書き進めて行ってるんすけど、こりゃ薄桜鬼じゃないわ(>_<)
プロットにSF的なモノが入ってきちゃったよぅ というか、もうすでにそうだけんど-_-;)

では、いってらっさいまし!
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「あ あのさぁ! 土方さんッ その手ぇ どうしたのさっ!何か問題あった?」

土方が箸を持つ手に、木綿が巻かれているのをここ二日見ていて、同士の面々はどうしても聞き出せずにいていたのだが、とうとう声に出して問えたのは藤堂だった。
その背中を、「よくやった!」とばかりに、両側にいた永倉と原田の手が同時に痛みを伴う平手打ちが見舞われる。
そして、当の藤堂が背中の痛みに抗議する目を双方に向けている頃合い。その先程の質問に周囲全員が息を呑んで答えを待っていた。
しかし、それに答えたのは、笑いをかみ殺せなくなった総司だった。

「猫に ガブーッ!って噛みつかれたんだよねぇ~ クスクスクス」
「総司!」

その様子に、色男に起こった”何か”を悟った一同は、目を上に「あ~」とあげて黙り、朝げの続きをいつものように黙々とむさぼった。
その中で、気まずそうになりながら、ものすごい勢いで膳を一番先にさらえたのは土方だった。
終いに茶をすすり すっと起ち上がると、いつもの不機嫌そうな顔で言い放った。

「斉藤さん! 後で手が空いたら俺の部屋へ来てくれ… 用件がある」
「わかりました…」

静かに答える斉藤の向こうで、それをニコニコと見ていた総司が付け加えるように言い放った。

「僕も 土方さん”とこ”に用があるんだけど後で行っていい?」
「……ああ 勝手にしろぃ」

そこで、斉藤も膳を済ませて起ち上がり、朝げを供にした面々を確認しながら、土方のそばにささっと近寄り、耳打ちする。

「膳を全て片づけたらすぐに伺う事にします」

その目に何かが仕込まれているのを見て、土方も「ああ」と、うなずいた。

                 **

自室にたどり着いた土方は、部屋の中を見られまいと、そそくさと障子を閉め深いため息をついた。これでは間男のようではないかと、自分自身へのため息だった。
部屋の中で一番に確認するのは、猫がここ2日どおり寝息を立てて眠っている姿だった。
だが、今朝に限っては様子が違った。

「なにしてやがる!」

土方が見たものは、異様な光景だった!
脇腹に出来た血の固まりを、苦悶の表情でまさぐっている猫がいた。

「死にてぇのか!」

フーフーと息を吐く猫は、答えた。

「たぶん…私は死んでる… 死んで尚も生きようとする… 力がアルなら… 生きるしかないだろう」
「わからねえよ!」
「縫い合わせる」
「はぁ?」
「縫い合わせれば… 二・三日ほどでふさがるはず…」

見れば、傍らに縫い針と絹の糸が無造作に置かれ、寒気を覚える光景が彼女の脇腹からしたたっていた。

「じっ… 自分で縫ってやがんのか!」
「他に誰がいる?」
「どっから針と糸持ってきた!?」
「ソウジに頼んだ… こうでもしないと、何度も傷が開いてカラダが持たない」

驚愕にもほどがある光景に、さすがの土方も意識を遠のきかけた。
割れた傷口をしばるように、彼女は自分で自分の皮と肉に針を刺して縫っていこうとしていたのだった。

「マズイ… 事なのか?」

息耐えそうな呼吸を漏らしているくせに不安の表情で問うてくる言葉に、土方は痛い思いをしているだろう本人よりも痛そうな顔をしていた。
それを不思議そうに猫は、痛みによる苦悶の表情を押し殺して瞳を上げていた。

「見ている方が痛くて辛い…」
「…じゃぁ 見るな…」

その命令口調に、土方はそのまま動けず、どれだけの長い時を過ごしたのだろうか。
猫の激しい呼吸がおさまりかけた頃合いに静かな声が部屋の外に落ちた。

「副長… 斉藤です。遅くなりました。」
「あ? あ~ あー… ちょっと待ってくれ」
「御意」

土方は、柄にもなく声をひっくり返しながら答えると、猫に着物を無造作に羽織らせた。

「入れ」

すると、障子がスラリと開けられ、斉藤が部屋に入ろうと顔を上げた瞬間、彼はぎょっとしたままの目で固まってしまった。

「あ~ もうその反応はいいからとっとと閉めやがれっ」
「わ わかりました」

いつもの彼の所作からおよそ見当も付かないような慌てぶりで、斉藤は音を立てないように気をつけながら素早く障子を閉めた。
そして、猫をちらちらと見ながら、聞いていいものかどうかと思案を巡らせているようだった。
その斉藤の様子を無視して、土方は語った。

「で?新見さんは相変わらずか…」
「あ… はい、調べたところ… 遊蕩甚だしく祇園新地にて… 昨夜で五日の連泊とのこと… 今朝方早くに… 屯所へ金子の細則が…」
「はぁ…… そうか で、芹沢さんは?」 
「別邸にて… おとなしく… 妾… と…」

フーフーと畳に両手をついて座ったままの猫が気になって、報告内容を紡ぐ言葉が途切れた。

「はっ」と、呆れ気味に短く息を吐いたのは土方。

「俺は、今からすぐに出掛けなきゃなんねぇ 近藤さんとな… 斉藤さん 今日確か非番だったよな?」
「確かにそうですが…?」
「斉藤さんなら適任だし好都合だ… こいつの面倒… あ~いや、調書の続きを頼んだ」
「調書…?」
「そこに俺が取った今までの分がある」

スクリと起ち上がった土方は、書きかけの書面を指し、身支度を整え始めた。

「いやしかし、どういった調書を…?それに、沖田君を待たなくても良いのですか?」
「総司は別に俺へ用事があるわけじゃねぇんだ こいつの事も総司に聞くといい… 素はアイツが蒔いた種だ」
「沖田君が?」
「そいつの名前は「猫」… おいっ それでいいのか?あん?」

フーフーとしていた息を飲んで、猫は答える。

「ただの個体名だ… ネコでもいい…」
「だそうだ 歳は18~20 定かじゃねぇ」
「…」

突然押し付けられた使命に困惑を隠せないでいる斉藤に、土方は更に付け加えた。

「こいつが瞳孔開いて苦しみだしたら、遠慮はいらねぇ 手足を縛り上げろ 斉藤さんの方が痛い目を見る」

そう言って、土方は木綿に巻かれた右手の親指の付け根を擦った。
斉藤は、「あ」と小さな文字を漏らして合点した。
「では 行ってくる」と言いかけた土方に猫が待ったをかけた。

「俺の持ち物を出しておいてくれ 大事なものが… やっておかなければならない事が… 悪い事は… 絶対しない」
「…ん~」
「どうせ、抜糸するまでちょっとも動けない…」
「あー… そうだな… いい子にしとけよ お前の私物は、そこのお仕入れん中だ 斉藤さん 出してやってくれ 妙なモノばかりで面食らっちまうかもしれねぇがな と、後… 調書は、さっきこいつが何してたか?から始めてくれ」 
「はい わかりました…」

足早に部屋を出ていく土方を、残される二人は無表情に見送った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「わかった」と言った手前、実際どこから手をつければ良いものか、どうすれば事がうまく運ぶのか、そう考える事に斉藤は時間を長く使ってしまい、余計に手をつけられなくなっていく。
ふぃと、猫に目を向けてすぐに目をそらした。
彼女は、斉藤が始めに目にした時と同じ状態でじっと動かない。

「(ど… どうする… あれは、どう見ても女子の ぐっ ぅぅん ち ちち乳房の膨らみ(決して大きくは無いようだが)、晒しがそこかしこに巻かれていると言えども、は はは 裸同然… 着物などただお粗末にかぶさっているだけではないか… まずはそこから指摘すれば良いのか? いやいや、それとも気付かぬふりをして、早急に調書へ移るべきか… ええっと 押し入れにあるというモノを…)」
「サ… サイト…?」
「!?」
「名前…」
「あ いや ”さいとう”だ」
「サイトウ…」
「…」

彼女は、名前をあまりにも無機質な発音で言葉にするのが不思議で、斉藤は訝しんだ。

「何かしゃっべってくれ 意識が… 落ちそうだ」
「意識?」
「糸が馴染むまで… 血が止まるまで… 眠るわけにはいかない…」 
「血!」

はっと気付いた斉藤はそうだとばかりに目をむいた。

「(この部屋に入った時の違和感は、彼女にまとわりつく血の臭いおも含んだものだったではないか!?)」
「傷口を縫い合わせたばかりだ 動けない…」
「傷口だと!?見せろ!」

すると、猫は、すこしばかり左に首をかしげて指した。
それを確認すると、斉藤は着物の左側をめくった。

「っ!!」

声にならない驚愕の悲鳴。
斉藤が見た、彼女の腰には、古い血に新しい血が折り重なるように、横一列無数に流れていた!

「土方さんっっ!!」

呼び戻しに行こうと起ち上がった斉藤の着物の裾を、猫は弱く掴んで止める。

「行かないで… ダメだ… ヒジカタは知ってる…」
「副長がこれをっ!?」
「いや 自分で… やった」
「不可能だ!」
「ヒジカタは… 見てただけ…」

あまりの状況に、斉藤は信じられないという表情で青ざめたが、すぐに思考を戻した。

「兎に角!消毒せねばなるまいっ… 少しだけ待っていろ…」

そう言い捨てて、足早に障子を開ける斉藤の視界に、沖田が廊下を渡ってくる姿をとらえた。
それを見て、一足飛びに駆け寄った斉藤は、沖田の胸ぐらを静かに掴んで、努めて小さな声を出した。

「屯所内でいい 一番強い酒を急いで持ってくるんだ」
「え?え? 何かあったの~?」
「早くしろ!」
「承知した~」
「急げ!」
「はいはい…」

足早に去っていく沖田を見て、斉藤はきびすを返し土方の自室へと戻った。

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第4回目だったっけかは、ここまで

次は、あの某漫才トリオにも見つかっちまうかもww
でわっ

本編2 「静かに語る猫」

独自妄想その3。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで(>_<)

しかし、時間軸が進まない… 
まだ冒頭なので、しょうがないかっ

では、いってらっさいまし!

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「俺の背中がそんなにおもしろいか?」
「!?」

たよりない明かりの中で書をしたためていた土方は、コトリと筆を置き、その背中をゆらめかせた。
そして、部屋の隅でじっと瞳をこらしているモノに向かってやってくる。

「手荒なマネだとは思うがなぁ… 勘弁してくれよ」

両手両足を縛られ、その上猿轡を噛まされたモノがゴソリと身を引く。

「気分はどうだ… 血は今んとこ止まってるみてぇだが…」
「ふぅ~ ぅん」
「おっとすまね そのまんまじゃしゃべれねぇな」

暴れる様子はないその瞳が、ゆっくりと閉じられた。
それを見て、土方はゆっくりと頭の後ろに手を回し猿轡を取り去ってやる。
すると、弱い灯火が映る、深く沈んだ翠の瞳が、大きく2度ほど瞬き見開く。

「夜中に何度も呻きながら暴れまわりやがって… さすがのこっちも寝不足でいい迷惑だ…」

沖田の部屋で起きたようなひどい暴れ方ではないが、あれから彼女は何度も覚醒しては、苦しんでいた。その度に土方は、傷口を押さえて締め上げ何度も止血していた。

「ヒジカタ? トシ?」

かすれてはいたが、確かにその翠の暗い瞳は言葉を紡いだ。
それを聞いて土方は、目を見開く。
こんなに落ち着いて言葉を紡いでいるのを、始めて見たからだ。

「あ ああ 俺は土方だ…」
「ヒジカタ…」

片言で力なくしゃべる口元はひどく扱けていた。

「そういや お前ここ何日も食ってねぇだろ…」
「クッテネェ…?」
「そう 食う」

そう言って、口元で箸を動かすような動作をしてみせるが、相手に反応は無い。
本当に、まるで猫に話しかけているようだ。
そのまましばらく止まったような時間が続く。

「あ~~… 一体どうなっちまってるんだか」
「…」

そこで、「あ」という小さな文字を口に漏らし、土方はゴソゴソと私物を漁りはじめた。
そして、ほどなく小さな紙包みをとり出した。

「そうして起きてて意識あるんなら、薬くらい飲めるだろう」
「クスリっ!?」
「そうっ この薬はな、石田散薬と言って、傷!打ち身!どんな怪我でもたちどころに… っ!?」
「ア… ァァ…」
「おい どうした? またか?」

実家で作っている薬の効能を、小慣れた口調で得意げに口上をあげた矢先、彼女が顔をしかめた。涙を滲ませるその瞳には、いつものような狂気は宿っていない。
それを見て、土方は少しばかりホッとした。

「クスリはダメ…」
「ああ? なぁ~に言ってやがる すこ~し苦いくらいで嫌がるんじゃねぇ ガキがっ!」
「もう少し もう少しで抜ける…」

「抜ける」という意味は到底理解し得なかったが、土方はあきれ顔の後に、ニヤリと口の端をあげた。

「本当に、ここでお前に死なれちゃぁ 寝覚めが悪すぎるってぇもんだ 飲まねぇよりはマシだ!無理にでも飲んでもらう!」

言うが速いか、土方はさ湯が入った自分の湯飲みを引っ掴み、小さな紙包みの中身を自分の口に含み、さらにすばやくさ湯を口に含んだ。
そして、けが人を扱うという気遣いは一切なく、素早く馬乗りになって、彼女の肩を抱きかかえるとその鼻柱を力いっぱいつまんで、自分の口を彼女の口へグイと押し付けた。

「うっ ぅぅぅっ!」

しばらく彼女の身体は抵抗をしていたが、どうにもならない束縛に観念したのか、力を抜き口に含まれたモノをゴクリと身体へ流し込んだ。
それを確認して、土方は掴んでいた鼻柱を開放した。
そこで、すぐに唇も開放するはずだったが、触れた唇の柔らかさに少しばかり名残惜しくなったというのは、心に留めておこうと思った。

「土方さん 何やってんのさ…」

その声にハッと顔を離した頬に追い討ちがあった。
無表情の漆黒に近い翠の瞳が、ギロリと動き、その唾が土方の頬にぺたりと張り付いた。

「欲求不満?」
「…だとしたら、お前のせいだ総司…」
「クスクスクス」

土方は、頬の唾をぬぐいながらゆっくりと起き上がった。

「こいつに薬をやってただけだ」
「ふぅ~ん…」

総司は、ニヤリとした口を作った。

「最終手段でああなったって事で、勘弁しとくよ クスクス」
「それにしても 総司! 部屋に入るなら声くらいかけやがれ! 俺は、大事な書面やっつけてる最中なんだ!」
「あれ~? 声かけたけどな~」
「一日に何度も俺の部屋に来やがって!しかも、今ぁ夜中じゃねぇか!」
「その猫拾ってきたのは僕だもの~ それにさっ 土方さん言ったじゃない?「返せって言っても返さない!」って、でも会いに来ちゃいけないなんて言われてないし~」
「お前… 狙ってやっただろぅ…」
「さぁね~ でさぁ 何かシャクじゃない? この子の笑顔とか一番に見るのが土方さんだったりってさ」

あまりにも悪たれる沖田に、土方は「勝手にしろ」とばかりに肩を落とし、最初の位置に戻って、墨をギリギリと音を立てて磨り始めた。

「気分どう?」

変わり身の速さは彼の特徴なのだろう。
総司は、じぃ~~っと彼女の様子を窺うように、深い翠の瞳に飛びついていた。

「…大丈夫」
「君の名前聞かせてよ まだ聞いてないし」
「猫」
「……本当に猫なの? 気を使って僕の冗談に付き合わなくていいのに クスクス」
「…」
「ちゃんと名前を聞かせてよ 名前がわからなきゃ話も楽しくない」

彼女は、「number zero」と言いかけて思いとどまり、言い直した。

「零番」
「へ? 「ぜろ ばん」? それ名前なの? 変わってるねぇ…」
「そう呼ばれてた」

腕を組んで頭をかしげながら総司は、続けた。

「じゃぁさ 君 いくつ?」
「…?」
「歳だよっ 年齢っ 17?18?19?」
「12で拉致されてから数えてないからわからない」
「ら… ち?」

総司の質問が始まってから、手元に集中しきれなくなっていた土方も、思わず振り返った。

「12で、組織に入ってからすぐに訓練が始まって… 実動したのはたぶん2年」
「ん~~ と ちょっとよくわからないんだけど、どういう事になるのかなぁ」

辛そうに薄く開かれた瞳に更なる影が落とされて、聞き手の二人は次の言葉をじっと待っていた。

「訓練中に、5回か6回ほど冬を見たんだと思う。本当の冬を見ていたかどうか知らない… けど… だから19か20か…」

沖田は少し考えてから言った。

「じゃぁ 19でいいよね 僕より1個下ってことでさ!」
「お… おめぇなぁ…」

安易な決めつけに、土方は今回の件で何度落としたかわからない肩を、疲れ気味に落とした。

「どこ出身?」
「しゅっしん?」
「え~と どこで生まれたのかって事だよ」
「あまり… 記憶がしっかり無い… 冬は、激しく重たい雪が降り積もった、夏は、湿気の多いじっとりとした暑さ…」
「ふ~ん その表現、今、まさに感じるよね こんなに夏が長いなんてさぁ… 湿気が多くてとっても暑いよ 不快だ~  こ~んなに暑いのにさ、土方さんは絶対いっつも障子を開けっぱなしにはしないんだよね~」

沖田は、抗議めいた口ぶりで、わざとらしくパタパタと手で首筋を扇ぐ。

「あ~ そうそう 何で君女の子なのにさ 傷だらけだし、そんな身体してるの?」
「女… ノコ?」
「女の子ってこうさぁ もっと華奢で柔らかいもんだって思ってたからさぁ」
「性別か?」
「あ~ うん そういうことなのかな?」
「女じゃない」
「え~ でも、男の子じゃないよね」

わずかな躊躇いを見せながら、彼女は静かに言った。

「子宮がない…」
「ん~?? シキュウ?」
「…」

どう説明すればよいものかと、彼女は眉間にしわを寄せ、考えあぐねた末に何かを言いかけ、また言いよどんだ。
土方は嫌な予感がして、止めようと腰をあげかけたが彼女の声の方が先だった。

「女が子供を宿す場所が奪われた 俺の腹の一番下にまだ傷が残っているはずだ」 

彼女が言う内容を理解しきったわけではないが、話に起ち上がりかけていた土方が息を呑んだ後に問うた。

「にわかには信じ硬てぇが… 臓物の何とやらが取られてるってことか?」
「…臓物っていうのか?内臓の一部だ」
「そんなことが出来るものか! そんなことしたら、死んぢまうだろうがよ普通!」
「だ… だよねぇ~」
「でも 生きてる、そのおかげかどうかはわからないが、女の子?では出し切れなかったかもしれない身体能力を得た…」

半信半疑で彼女を観察する目が身体に向かう。
そして、総司の脳裏に始めて会った時の… 目に、追いきれなかった彼女の身体の動きがよみがえった。

「あ~~ ねぇ あれっ 何て技だったの?あんな流儀初めて見たよ」
「技?リュウギ?」
「僕の目の前でさ、君… 六人も殺したんだよね~」

すると、彼女は目を伏せ…。

「…”技”という意味も”リュウギ”という言葉もわからない… それに、あまり覚えていない…」
「あれ… もう一回見たいなぁ~」
「…それは… つまり、また俺が人を殺す所を見せろという事か?」

成り行きに、いつしか突っ立ったままになっていた土方が、聞こえるようにため息を漏らした。

「総司… それに、あ~ん… 猫ぉ? 零番だったっけか? 何て物騒な事をぬけぬけと言いやがる」
「僕は、別にひどい事言ってないよ」
「同じだろ!こいつにこんな言葉吐かせるような質問したのはお前だ!」

怒られて、しゅんとしたのは、総司だけでなく彼女も同じだった。

「とにかく、総司は自分の部屋に戻って寝ろ お前、明日早番だろっ! 白猫!お前も!とっとと寝やがれ!」

土方は、そう怒鳴ると更に何かの文句を小さく口にしながら、先程よりも激しく墨をギリギリと磨り始めた。

「しょうがないな~ 副長にそう言われちゃったらそうするしかないよね おやすみっ 僕の猫ちゃんっ」
「俺の猫だろがっ! 今んところは!」

ああ そうでしたと、大げさなしぐさを残して、総司は部屋を去っていった。
それを見届け、また土方は熱心に書の続きに熱中しようとしたのだが… 視線が未だ背中にあるのが気になって、声を荒げた。

「ああん? 何だ? まだ何かあんのか?」
「ヒジカタ…? ヒジカタ…」
「何だっ!」

振り返った土方の顔を二つの瞳が捕らえ

「ここは、ニホン?」
「ああ? 何言ってやがる 日本以外のどこだってぇんだ!」

すると、静かに返ってきた言葉と見たものに、土方は吸いはじめていた息を呑んだ。

「はぁ… 良かった…」
「………」

今までに聞かなかった女っぽい声色とともに…

「こいつ… 今… 微笑みやがったか…?」

声色の後には、もうその微笑みは消えていたが、確かに安堵した微笑みを見た。
そして、その主はもう眠りに落ちている。

「たくさんしゃべったからな… ゆっくり安め…」

土方も、つられて久しぶりの微笑みを浮かべた。


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第3回目だったっけか?はここまで

次は、土方さんお漏らししちゃうかもねっ!(嘘)
でわっ

蛇足という名のプロローグ 【迷い猫】

独自妄想その2。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで(>_<)
では、いってらっさいまし!

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まぶたに温かい温度が落とされた。
しかし、身体が思うように動かない俺は、人の気配に向けて殺気と共に目を見開き睨んだ。

「あ… やっと起きたの?」

本当は、もうずっと前から何度か覚醒はしていたが、目を開かずにいたのだ。

「ねっ 君 いくつ? 何て名前? どこから来たの? 女の子だよねっ」

矢継ぎ早に降り注ぐ言葉に、どことなく違和感はあるが懐かしさを覚えた。
俺がいつも憧れていた言語。懐かしい生きている「ニホンゴ」。
俺に語りかけている青年は、じっと俺の瞳をらんらんとした表情で覗き込んで尚も続ける。

「声が聞きたいんだけど?」

どこかでゆらめく小さな火の明かりが細々と感じ取られつつ
彼の言葉の意味は解ったが、俺には状況を確認するのが先だった…
どうやら、この青年は俺を危険に犯す… 例えば拷問するなどの意図は無いようだ。
俺は、無表情を保って屈服しない意気で目を見開いたのだが、その時の力をいつしか収めていた。
そして、俺は妙な安心を覚えてまた目を閉じ、記憶を振り返った…

                    **


充分な武装と自分の武器弾薬を確認した後に、輸送ヘリに押し込められ、今回のターゲット… 暗殺する相手のいる場所に運ばれて行く。
暗殺を実行するプランは、現地到着予定時間の5分前に行われ、ターゲットの顔や特徴は、そこで告げられる。
今回、俺はどうやら単独での暗殺なのだろう… 操縦士 副操縦士 それに、容姿を一様に揃えた黒づくめの男3人。どう見ても俺のように実動するような風体ではない。
珍しくはない状況ではあったが、ドラッグ漬けで思考が衰え始めたこの身体に、じっとりとした汗が滲むのとは他の嫌な何かがまとわりついてくる。
輸送ヘリが低空飛行に入ってほどなく… 黒い男の一人が振り返る。

「『零番』 今回のミッションだ」

俺は、不意に語りかけてきた相手に返事の言葉を発する事も無く目だけを向ける。そして、膝に書類の束をバサリと落とされた。

「5分で理解しろ」

いつもの言葉だ。
それを上の空で聞きながら、俺は書類に目を通しながら添えられていたターゲットの写真を何度も確認し、特徴を頭に植え付けた。
「(ふんっ スーパーイケメン…)」
暗殺プランを確認する最後の1分で、書類の内容を脳にたたきこみながら、書類の束を男に突き返した。そして、機械的な手慣れた動きで降下の準備を整える。

「30分内でターゲットをアウトした後、20分で戻れ!」
「…」

30分以内を越える時間で銃撃が確認された時点で、逃げ場も無く戦うことになる。
暗殺が完了しても、20分経てば逃げ道は無い。無茶苦茶な話だ。
大丈夫、地の理は頭に入っている。
「(いつも通りにこなせば鼻くそほどの仕事だがな!)」
そんな言葉を頭の中で叫びながら俺は、ヘリから一気に降下していった。

俺の今のコードネームは『sneaking cat』
そう…
音もなく相手に近づく猫。
感情も動かさず近づく猫。

降り立った地面の上で、ぎゅっと目を閉じ1分待った。今降りたった場所に、肌を馴染ませる…。
その後、地面と目標地点を何度も視点をうごかしながら、つま先だけで疾走していった。

(いつも通り、撃つだけだ。例え相手が誰であれ…)

しかし…
そこからの記憶が欠落していた…
思い出せない…

何故自分が水の中にいるのか?
何故自分が誰かの肩にすがって移動しているのか…
ただ、その時、左手のサバイバルナイフだけが指から抜け落ちていったのを覚えている。

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「総司!!てめぇまた迷い猫や迷い犬をココへ連れ込んだのか!!」
「え~? 何の事ですかぁ?」
「じゃ~ そこをどけ 部屋の中見せやがれっ!」

怒号と、幾度か聞いたような声色を聞いて、俺は眠りの束縛から一気に戻された。
みぞうちの深くから湧き上がってくる激しい吐き気を押さえ込みながら身を起こし、身体をこわばらせていた。
そして、ほどなく外の光が眩しく勢い良く部屋を照らした。

「…」
「っ!」
「あ~あ 見つかっちゃった~」

おそらく怒号をまき散らしていたのはこの人だろう。
俺は、その相手と目が合った。
怒号をまき散らした相手は、俺の存在を見て、目を見開き、明らかに驚いている様子。
俺は、次に起きるかもしれない最悪の事態に備えて体術で反撃をする用意をしていた
が…

「あれ? 君… 脇腹えぐれてんのに、もう起きれるんだ~ すごいな~」

知っている声と瞳がすぐに近寄ってきた。

(これは敵ではない)

何故そう思ったのか…
俺の身体から力が抜けてゆく…

「総司… これは何だ?」

怒りが抜け、呆れ顔の怒号の主が、後ろ手で陽光を締めて問うている。

「何って!? 猫だよ~ 猫っ ほら~」
「俺には『人』に見えるがなぁ」

言語の変換が追いつかないが、間違ってはいるが間違ってはいない…そんな気分で、俺は状況をしばらく見る。

「どこで拾ってきたっ!」
「ん~っと… 三日前だっけ~ 僕がさ、何だか寝つけない夜だったんで、何か面白いこと無いかなぁ~…って、お散歩してたらさ~ 僕の事がとっても気に入らないって感じの六人の浪士に追いかけられちゃってさ~」
「何っ!? お前!俺はそんな報告っ 聞いてないぞ!」
「だって 僕 夢だと思ってたもの~」
「はぁ??」
「1匹ずつ殺っちゃいながらの方が面倒じゃないかな~ どうしよっかな~って思った途端 タンタンターンって音が鳴ってさ、びっくりして振り返ってみたら、横あいの川からバシャーって黒猫が現れて~ ものすごくちっさい刀持って斬り込んできたんだよねっ 僕も死ぬかと思った フフフ」
「…何だそりゃ…」
「けどさ 僕以外の奴ら死んでから この猫~ 酔っ払いみたいに嗚咽しながら倒れちゃってね もう危なくないみたいだし、何か可愛いかなって連れて帰ってきた」
「なんでそうなるんだ… お前は…」

その話を聞いて、俺は記憶は無くは無いような気はしたが、まだ把握には達しない脳がくらりと意識を遠のきそうになり、折角起こした身体を床に落とした。

「で… そんな危険な雌猫と、この三日ねんごろしてたってぇのかぁっ! またお前が猫持って来たって聞いて、「もう 猫くらいならいいか」と思っていた矢先! 猫ごときにお粥を作ってやってるっていう話を聞いて来てみりゃ!女じゃねぇかっ!」
「黒猫なのになぁ~」
「丸裸の女がてめぇの布団にくるまっててまだ言いやがるのかっ!!!俺から見りゃ白い雌猫だっ」
「あ~ だって いっぱい怪我してたからさ!何だか脇腹からいっぱい血を出してたり、太ももの裏とかえぐれててさ~ 面倒だから全部脱がせて手当てしてあげたんだよっ 変な着物でさぁ 脱がせるのに苦労したんだよね~」
「な~んで真っ先に医者に連れて行かねぇんだ…」

(そうだ…
この束縛感は全部包帯みたいに痛い箇所を締めつけるものだ。
小さい傷にはきっとゆるく何か布を巻き付けてくれているんだろう…)

「土方さん お願いっ この子もうちょっとここに置いてやってよ」

(土方? 総司? そういえば何だろう?そもそも俺がいるココはどこだ?)

「こいつ… ただの女じゃねぇな…」
「だから 猫だって~」
「肉の付き方が尋常じゃねぇ そこそこ鍛練された男でもここまで見事な身体は作れねぇ」
「だって 猫だもの…」

そして、怒号の主の土方は、部屋を見渡して衝立の奥にたどり着いた。

「っっっ!!!???」

声にならないような土方の奇声が聞こえた。
そして、見慣れた俺の所有物が、衝立をどけられた影から見える。
そこには、俺の相棒が…
それに振れようとした土方を見て俺は必死に身を起こし叫んだ!

「触るな!!!!ソレに触るなっ…」

驚いて目を剥いた土方がいる。
そして、咄嗟に右手を出しながら起き上がったが、座りきれない俺の身体を支えた総司がいた。
そのまましばしの制止だった。

「君 やっと口をきいたね ちゃんとしゃべれるんじゃないか」

何の言語を叫んだのかはわからないが、俺は声を出せた事に安堵した。
もしも、これが拷問であったなら俺はここで、失格だったはずだが…。

「聞きたかったんだ~ 君の声…」

無邪気とも取れるその声に、眉間をひそめてしまう。

「これは、ピストルというヤツじゃねぇのか?」

土方は、「触るな」という私の台詞忠実に、相棒には触る事無く、動けない俺にニヤリとした目で問う。

「名は『サムライ』ただのハンドガンだ」と私用にカスタマイズされている相棒を助けようとして言おうとしたが、言葉になったかどうだかの辺りでハタリと考えが混乱し、周囲を大げさに状況監査してしまう。

総司という青年は、おかしな頭… まげ?というのか それでいて着物であり… 土方においても、ニホンにいたころよく歴史の何かで見た着物。

「ここは… いったいどこだ?」

かすれた言葉が自分にも聞こえた。二人に聞き取れたのだか、何語をしゃべったのかわからなかったが、ちゃんと俺はニホンゴをしゃべっているようで…

「僕の部屋~」

と、総司はあっけらかんと答えたのに対し、土方は…

「京」

と、一言だけ答えた。
「京?」その一言に浮かぶのは、日本の名前を持った在りし日の自分が一番幸せに過ごしていた頃の京都!?

「お前ら誰だ… 俺に拷問しても何も出ないぞ 神経系の薬を入れたかっ!?」

俺はそう叫んだのだと思う。それが彼らに伝わるであろうニホンゴだったのか、よくわからない。思考がうまく働かず、色々な経験が混同して視界までもがぐちゃぐちゃに潰れていった。

でもすぐその後に聞こえたのは、優しい声だった…

「今の君の瞳ってさ 限りなく暗い翠なんだね… 君はまだ起きちゃいけない 悪いようにはしないからお眠りよ…」

叫んだ途端に視界を無くしていっていた俺に、優しい言葉が降り注ぎ、ワタシはそのまま… また意識を遠のけた。

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第2回目はここまで