壊滅に至る政治の劣化
No.734 平成24年 5月11日(金)

 

戦後体制からの脱却とは、戦後体制をつくった被占領時代とその体制からの脱却である。その被占領は、大東亜戦争の敗戦から生み出された。そして、占領軍は、戦争を遂行していた日本は悪い国家(悪の帝国)だったから戦に負けたという前提で被占領時代とその体制を構築した。
 

従って、戦後体制はこの「悪の帝国敗戦論」を前提として生み出されているので、戦後体制からの脱却とは、この「悪の帝国敗戦論」の点検から始めねばならない。
 

そこで、ここ数年、私は、何故大東亜戦争に負けたのか、ということに強い関心を持って過ごしてきた。

 
その結果、まず、日本が悪いから負けたのではないという確信を得た。
 

戦争の原因は、昭和十八年の「大東亜共同宣言」の言う通りで、イギリス、アメリカがつくった。さらに、ソビエトとコミンテルン(国際共産主義運動)の共産革命戦略を実践した中国共産党と、浙江財閥の入り婿として対日戦争を続ければ続けるほど浙江財閥が儲かる仕掛けに安住した蒋介石の中国国民党が戦争の元凶である。

 
では、何故、負けたのか。
 それは、まず第一に、国家戦略の崩壊と欠落によって負けた。
 そして、その国家戦略の崩壊をもたらしたものは、最高指揮官と統合幕僚本部が無いという国家体制の欠落である。

最高指揮官と統合幕僚本部がなければ国家戦略が構築されるはずがない。
 これが最大の敗因である。
 
 あれほどの大戦争を遂行する我が国家に、最高指揮官がいなかったのだ。
 具体的には、陸海軍は各々別々の統帥下で動いており、最高指揮官の下に統率される体制を欠落させていた。
 

陸軍は、ソビエトを「陸軍の仮想敵国」として長年「陸軍の戦略」を練り演習と訓練を重ねてきた。
 

海軍は、軍艦をアメリカの石油で動かし続けながら、アメリカを「海軍の仮想敵国」としていた。
 

従って、海軍は、「海軍の戦略」それ自体を構築できない。アメリカ様の石油で動いている軍艦でアメリカ様とどうして戦うのか。思いつくのは、連合艦隊レベルの奇襲攻撃くらいだ。
 

さらに、この陸海軍の統帥は両者対等並列で、戦時においても統合されることはない。
 

これでは、当然ながら、「国家の戦略」が構築できない。
 あるのは、陸軍と海軍のばらばらな「戦略」だけだ。
 そして、この軍の官僚組織の中で何が起こっていたのか。
 

それは、官僚組織の中の「出世のエリート」達の、陸軍こそ、海軍こそが、国家なり、という錯覚の蔓延だ。つまり、陸軍では、幼年学校から士官学校そして陸軍大学出身の参謀達、海軍では兵学校での試験の成績順位(ハンモックナンバー)で終生にわたって重要な役職を割り当てられていた。

 国家戦略無く陸海軍がばらばらになっている日本が、陸海空軍の統合運用で太平洋を攻め上ってきたアメリカ軍に勝てなかったことは当然であった。
 

しかし、これは、負けてから振り返っての話しであって、戦いの最中は陸海軍それぞれ別々にエリートどもが負けるはずがないと大まじめにやっていたのだ。まことに、振り返れば、馬鹿馬鹿しいほどの無能振りであった。特に、連合艦隊司令長官。

 そこで、この戦争遂行中の欠陥を念頭に置いて、今の政治を点検してみなければならない。
 

一体、国家戦略はあるのか。
 政治家そして政界が劣化していないか。
 組織のエリートどもが錯覚に陥っていないか。

 
 
この答えは、次の通りだ。
 国家戦略はない。
 政治家の劣化甚だしい。
 組織のエリートどもが錯覚している。

 

この三つが、複合汚染のように現在の我が国を蝕んでおり、かつての敗戦への道と同じように、我が国を壊滅へと引きずっている。

 政界、官界の状況を、具体的に指摘する。
 その前に、この状況の中で、長期にわたって小沢裁判を政治の大問題の如く扱っている政界それ自体が劣化のかたまりであること、当然、言わずもがなである。

1、領土領海、尖閣諸島を如何に護るかを明確にしえていない。 これこそ、国家戦略の欠落以外の何物でもない。

2、全原子力発電所の稼働停止が、どれほど日本の経済活動を縮小させていくのか、それに対して、如何なる対策をとるのか。
 このことを、一体、我が国国政の何処で誰が考えているのか。

3、消費税を引き上げれば、消費はどれほど落ち込み、消費税収はどれほど増収となり、法人税収と所得税収にどれほどの影響があり、国家の全税収は一体増えるのか減少するのか。
 さらに、日本経済は電力不足と消費税アップでどうなるのか。


 以上、三例を挙げただけだが、これらに関する総合的な検討と答えをを全て欠落させているにも係わらず、国家を背負う任務を日々果たしていると自己満足している状況は、かつて我が国を敗戦に至らしめた思い込みエリート達の姿と同じである。
 
 消費税が一番分かりやすい。
 財務省は、かつての陸海軍と同じように、消費税率を上げることが「国家の仕事」だと思い込んでいる。
 

そして、総理の野田を使うことに成功した。
 野田は、財務省のパーな、ペットだと言われている。
 

その通り、野田は馬鹿だから、この我が国が内外の厳しい危機に囲まれている中で、消費税増税問題に六ヶ月以上熱中することが総理の役割を果たすことだと思い込んでいる。それをみて、馬鹿とハサミは使いようで切れると財務省のエリートは思っている。
 
 その馬鹿さ加減は彼の繰り返す次の論理でよく分かる。
「消費税増税とは、福祉と税の一体改革のことです」
「福祉と税の一体改革とは、消費税増税のことです」

 

これをトートロジー、循環論という。実は、何も説明していないのだ。これとよく似た論理を使った総理がいた。

「郵政民営化とは、構造改革のことです」
「構造改革とは、郵政民営化のことです」

 一体、何を説明しているのか。全く説明になっていない。
 それで、どうなったか。
 郵政民営化で、前宣伝に見合って何かよくなったのか。
 さらにこの総理の時の極めつきを述べておく。

「自衛隊は(イラクの)非戦闘地域に、派遣されます」
「(イラクの)非戦闘地域とは、自衛隊が派遣されている地域です」


 このトートロジーに再度誤魔化されれば、止めどが無くなり幾らでも出てきて、ついに日本は崩壊する。
 その例、
「グローバリゼイションとは、TPPのことです」
「TPPとは、グローバリゼイションのことです」
「安全とは、脱原発のことです」
「脱原発とは、安全のことです」


 この循環論(トートロジー)を弄して押し切ろうとする者の共通点。
 結果について責任をとらないこと。
 

そして、この理屈に対抗するには、この循環から外に出ることだ。例えば、
「経済が崩壊して、福祉が成り立つとでも思っているのか、この馬鹿!」
「国が無くなって、何がグローバリゼイションだ(以後、この馬鹿、省略)」
「飢え死にしても、安全か」
「倒産一家離散も、安全か」
「車を廃止するほうが、もっと安全だ」


 切りがないので止めるが、この現在に繰り返されつつある壊滅にいたるプロセスから脱却するには、全体としての国家と民族の存続のための統合的思考を回復することである。
 

その為には、政界の再編の次元ではなく、
 真の保守による政界の創造が必要だ。
 それを、まさに為さんとする時期が迫ってきた。

 本日は、私の新著「国家の再興」の出版祝賀会を午後七時から開催していただくことになっている。
 

本書は、国家の生き残りをかけた危機克服の為の国家論として書かせていただいた。
 
従って、本日の会において与えられた答礼の機会に、ここで書いたような現在の危機と亡国の予兆を語らせていただくつもりだ。


西村真悟事務所





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