護国夢想日記さんより
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宮脇磊介  KEY WORD は “関数関係”
――国境線確定への「勝負」の要諦―― 2012.5.30




 日本の人と「北方領土問題」を話し合うとき、きまって出てくる返事は「プーチンは、“2島“しか考えていないのではないか」

 「断固“4島一括返還”要求を貫くべきだ」といったことばかりで、一定の固定化した落とし所がどこかを相手任せで選択するばかりである。

 それは、一般国民のみならず、高名な政治家・学者研究者・元外交官など「専門家」と言ってよい有識者も同様の傾向にある。

 こうした発想は、根本から誤りなのである。「勝負の本質」と「勝負の仕方」を心得ていないからだ。およそ「勝負事」は、「力」「チエ」とで戦って“勝ち“を制するものである。

 始めから「固定化」しているものでない。言われなくとも、誰しも分かっている理(ことわり)であろう。お互いの力量の優劣が、勝敗を決める。なかには「引き分け」もある。

 プーチンは3月1日に言った。「大統領になったら、ロシアと日本との双方の外交担当者に“(勝負)はじめ”の号令をかける。」「双方満足する“引き分け”が望ましい」。

 その決着点は、勝負の始めから決まった一点を指すのではない。双方の「力」と「チエ」との競い合いの中からおのずから見えてくる「流動的」なものなのである。

 すなわち、双方の「力量」の“関数関係”にあるのだ。「綱引き」の勝負の決着点は、双方全力を尽くして争う中で 決まるのである。「はじめ」の合図があった時にきまっているわけではない。

 その理(ことわり)が分かっていないでいて、偉そうに「プーチンの考えはここにある」などと、特定の落とし所を示すのは、「専門家」の名に値しない幼稚な発想である。

 かっての旧ソ連時代は、そうした考えが幅を利かせていても、おかしくなかった。専制国家ソ連は、首脳の一存であらゆることが決まった。逆らうものは「粛清」された。だが今は違う。

 専制国家ソ連は、曲がりなりにも民主主義国家ロシアとなった。そこには「民意」が生まれ「世論」が首脳の判断に影響力をもつようになった。

 その「影響力」は、年々より大きくなることはあっても、減少することはない。首脳は、「世論」を無視できなくなったのである。

 この点、日本は、「ロシア国民の世論」を日本に有利なように動かしてゆく「チエ」に欠けていた。

 殆どの日本人は、1875年のロシア政府との間で結んだ「樺太千島交換条約」で合法的に得た千島列島に、終戦決定後にソ連軍が侵攻して、国際法上も長年日本固有の領土とされていた四島まで実効支配するに至った事実、旧満州にいた日本軍の将兵や指導者層など60万人を極寒のシベリアに抑留し、うち6万人が亡くなった事実、満州に侵攻したソ連兵による夥しい日本人婦女暴行凌虐の事実、等々を知っている。

 だから、日本国民の世論はロシアに対して圧倒的にネガテイヴなのである。しかしながら、こうした事実は、一切ロシア国民に知らされていない。当然であろう。

 ソ連/ロシア政府がロシア国民に知らせる筈はない。ロシア国民に知らせるのは、いつにかかって日本/日本国民の努力によらねばならないのだ。

 それを日本は怠ってきた。ソ連がロシアに変わっても、「北方領土一括返還」などと叫ぶばかりで、「チエ」も「戦略的発想」のひとかけらも無いナイーヴな20年を無駄に過ごしてきた。

 強力かつ決定的な権力者であるプーチン大統領が「領有権確定問題」に意欲を燃やしている今、ここで日本に求められる発想は、二つある。

 一つは、プーチンが信頼し尊敬するに値する日本側の折衝責任者の存在である。日本文化を理解しサムライであるプーチンは、骨のある体育会系の人間に好意を寄せる。その眼鏡(めがね)に適った人物が、日本側にいなければならない。

 二つ目は、プーチンがその思い通りに国家戦略と諸施策を実施出来るような、選択肢の幅の広い「環境」を、日本側で設定・推進することである。

 ロシア国民の「世論の期待」「世論の動向」に応える環境作りである。また、日本の経済協力などがし易くなるための条件整備である。

 いずれも日本側のチエ(戦略的発想)と努力にかかっている。また、政策の内容面については、改革派であるプーチンが日本に求めるものは、冷戦終結を契機に世界各国が進めたグローバリゼーションへの「構造改革」を急ぐことである。

 日本のみが20年間乗り遅れたままになって、経済の沈下をもたらしてきた原因を取り除き、「成長路線」を採用して真剣に取り組むことである。日本の健全な成長とパートナーとしての力量向上と相まってこそ、「プーチンの国益」が実現できるからである。

 プーチンの期待に応え得る「日本側の外交当事者」は、厳選されなければならない。

 気をつけなければならない第一は、未熟なそして現在世界各国から「外交の当事者能力を欠いている」とされている民主党政権の外務大臣なり官邸を支えるべき外務省の役人ないしはそのOBである。

 第二には、官邸に売り込みに来る私利私欲の「思惑」に満ちた有象無象に引っ掛からないことである。また、逆に、私利私欲は無いがチエも無い「天下国家を考えるのは我にあり」とする独りよがりの連中である。かって官邸に勤務した者が等しく痛感したことでもある。

 そうしたことを念頭に置きつつ人選をすると、次のような人たちが頭に浮かんでくる。
 
 第一の類型は、人間として好もしい信頼できうる人物である。サムライで「体育会系」のプーチンと気脈の通じる人間である。
 
 第二の類型は、政策面でプーチンが頼りにし/期待する人物である。改革派プーチンは、日本に成長をもたらし、プーチンの支えにもなってくれる日本の識者を求めているのである。

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「蘇れ美しい日本」  第1197号







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