トルコ軍によるロシア爆撃機の撃墜の背景 | 岐路に立つ日本を考える

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トルコ軍によるロシア爆撃機の撃墜について、輪郭がおおよそ掴めてきました。

 トルコ領には天狗の鼻のような形でシリア領の中に突き出ている箇所があります。今回ロシア機が領空侵犯を行ったのはこの天狗の鼻を横切ったタイミングで、秒数にしてわずか17秒だったようです。英国紙のテレグラフがわかりやすい画像を公開してくれていましたので、それを転載しておきます。



 わずか17秒とはいえロシア軍機がトルコの領空を侵犯したのは事実のようですが、トルコ領内を脅かそうとする飛行ではなく、むしろ最短距離でトルコ領内から外に出ようとする飛行経路であったと言えるので、トルコによる撃墜は明らかに過剰反応といえるでしょう。

ではなぜ、トルコは過剰反応とも思える反応を見せたのでしょうか。シリア領内にいるトルクメン人は名前からわかるようにトルコ人とも近い関係にある民族ですが、シリアにあっては反体制派、つまり反アサド派です。そしてアルカイダ系のヌスラ戦線とは反アサド派ということで協力関係にあります。ロシアはトルクメン人の武装組織とヌスラ戦線の支配地域に対する空爆を行っており、この事態をトルコとしては黙認できなかったと思われます。ただ、これらの組織は確かにISではないものの、反アサド派という点では共通の敵を有しており、反目し合うところもありながら融和的に動いているところもあるわけです。IS以外も攻撃対象にするのはけしからんとアメリカやトルコはロシアを非難しますが、ロシアからすればISを助ける役割をする組織はIS同様に叩き潰す必要があるということになります。

 別の観点からも見てみましょう。2015年5月22日付けのISの活動領域を示す図をご覧下さい。以下の図の濃い赤の部分がISの支配領域で、薄いピンクのところが影響力を保持している地域です。



 ISは支配地域で算出する石油を輸出することで戦闘資金を稼いでいると見られていますが、この輸出はどこの国を通じて行うことができるのでしょうか。ISはシリア政府ともヨルダン政府ともイラク政府ともイラン政府ともクルド人勢力とも対立関係にあることを考えると、購入先はトルコ以外には考えられないのです。ロシアがトルコを「テロリストの共犯者」と強く批判するのは、この意味では過剰反応ともいえないわけです。

 ロシアが一気にISの資金源潰しを行っているため、ISは急速に勢力を弱めていると思われます。トルコ・シリア国境がシリア政府軍によって完全制圧されると、石油の販売が不可能になる上にトルコ側から反アサド派への武器供与も不可能になるので、ISの壊滅も視野の中に入ってきます。

 しかしこの事態は、トルコのエルドアン大統領一家にとっては大きな打撃になります。というのは、エルドアン大統領の息子のビラル・エルドアンがISから密輸した石油の販売の利権を保持しているからです。さらにエルドアンの一族はシリア政府の支配が及ばなくなったシリア領内の工場の機械を取り外してはトルコに持ち出して売りさばくといったビジネスにも手を染めているようです。こうした経済的利益をできるかぎり失いたくないという思惑も、ロシア爆撃機撃墜の背景にはあったのではないかと推測できます。

 これに対してロシアのプーチン大統領はいかなる手で反撃に出てくるでしょうか。トルコがISの石油の購入を行ってISを支えてきた事実を暴露するなどして、NATOの中でトルコを孤立化させる作戦に向かうのではないかと思います。トルコがISの石油を購入することでISを助け、それによって強大化したISがフランスでテロを引き起こしたという図式が見えたとき、トルコはNATO内で生きていけないことになると思われます。そしてその方向性が見えてくると、アメリカがロシアに同調してくる可能性も高いのではないかと思います。アメリカがまじめにIS潰しをやってこなかったことを覆い隠してすべてをトルコのせいに責任転嫁できるからです。ロシアはアメリカに恩を売るためにアメリカの過去の行状を隠蔽し、全てをトルコのせいにするアメリカの戦略に乗ることで、トルコを四面楚歌の状態に追い込もうと考えるのではないでしょうか。


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