堀口慎太郎生誕祭ー三十二歳ー | 短篇集

短篇集

新潟県は中越地方、人口四千の港町・出雲崎町出身のシンガーソングライター「Mondeo」のブログ。
自身の日々の活動などを発信していきます。

昨日、私は遠方でライブをしてきた。
舞台は自身、初上陸となる地・三重県だ。



事の経緯はこうだ。

今年の5月、東京でお世話になっている「両国SUNRISE」というライブハウスに出演した時、意気投合した二人のアーティストがいた。
堀口慎太郎氏(三重県出身)と法橋ハジメ氏(大阪府出身)だ。

この二人の音楽性もさることながら、人間性にいたく惚れ込み「今度は新潟に呼ぶので是非ともまた一緒にやりましょう!」と約束をした。

そして今年の9月。
二人の東北ツアーに新潟を組み込み、長岡市のライブハウスで再会を果たす。
お客様にも二人の事を気に入って頂けて、呼んだ私としても実りのあるイベントになった。

ハジメ氏とはこの一日だけであったが、慎太郎氏とは翌日も新潟市のライブハウスで共演した。

その時に約束した。
「12月に地元で誕生日イベントをやるからMondeoも出てくれ!」
慎太郎氏からの熱いオファーに私は勿論、首を縦に振った。



そのような経緯があり私は昨日の12月9日(土)、慎太郎氏がオーナーを務める三重県は名張市のライブハウス「club ROCK UP」に出演してきたのだ。

慎太郎氏が北海道から沖縄県まで全国津々浦々旅をして出会ったミュージシャンたちが三重県に一堂に会し、この日のイベントが間違いなく素敵なものになるであろう事を始まる前から予感した。



そんなイベントの始まりは実に珍妙にして滑稽な出来事からだった。

この日の出演者である花垣亮志氏が慎太郎氏の誕生日プレゼントとして、なんとアップライトピアノを知人に会場まで送ってもらったのだ。しかも軽トラで。

この重量200㎏はあるという質も重さも特大のプレゼントを、出演者総出でビルの2階まで階段を経由しながら運んだ。
天井には穴が空き、階段には傷が付き、出演者たちはライブ前から呼吸を乱しながも、なんとか会場内まで運び入れる事が出来た。
怪我人が出なくて良かったと後になって思う。



イベントは30分ほど押して17時頃から始まった。

トップバッターは地元・三重県のアーティスト【優美】氏。
女性特有のポップセンスと柔らかなMCが印象的で、途中「歌詞を忘れた」と言って楽屋へ取りに行き、それがまた小さな小さな手帳で「視力1.5なので見えます!」と豪語しながらも結局読めずに出演者を譜面台にするという失敗も笑いに変えてしまうその機転はなかなか秀逸だった。

2番手は北海道から【シューイチ・ヴィシャス】氏。
入り時間に遅れながらも会場に到着し、その足ですぐにステージに立った革ジャンの男は正に名に違わぬパンクロックの塊のようなアーティストだった。
張ったばかりだというエリクサー(高価な弦)を歌い始めてすぐにぶち切り、出演者に弦交換をさせるという気の遣わせぶり。
飛び跳ねたり走り回ったり、半ば聞き取り難い歌い回しもピストルズの影響がモロに伺える。
やはりキャラの濃い人は好きだなぁと好感を持った。

3番手は地元・三重県の【優香】氏。
キーボードの弾き語りで、歌が上手かった。
慎太郎氏が路上ライブをしていた彼女に目をつけライブハウスに引っ張り込んだという経緯を聞かせてもらった。

4番手はこれまた北海道から【亀岡寛明】氏。
時にブルース、時にロックな楽曲を聴かせ、小気味良いギターフレーズの刻み方とシャウトがとても気持ち良かった。
後に分かった事だが、同い年であり、しかも同じ早生まれであったことから距離感が一気に縮まり、来年、北海道で絶対一緒にライブやろう!と約束をした。
やはり平成元年世代は格好良くて気の合う奴らが沢山いる。

5番手は地元・三重県の【ヨシト】氏。club ROCK UPのスタッフでもある。
まだ若いながらも良い曲を作りたいという気持ちが楽曲に滲み出ていて、アーティストとして成長期にいる事を伺わせてくれる人間だった。
後に打ち上げの席で少し話したが、現在、自分の音楽性について悩みの渦中にいるようだ。
頑張れ若者。悩む事は良いライブを生む肥やしだ。

そして6番手が私。セットリストは以下。

1.未來で待て
2.新潟慕情
3.主演男優賞
4.越後道中・味探訪
コント「視力検査」

初めての地で、しっかり自分のライブが出来た。
それも、慎太郎氏への感謝と祝福の気持ちがあったから出来たのだろうと思う。
やはり旅芸人とは合縁奇縁あってこその生活スタイルで、地元に呼んで地元に呼ばれて、そんな事の繰り返しが知らない土地へ、また更に知らない土地へと自分を運んでくれる。
慎太郎氏への想いを、しっかりとライブで伝える事が出来たと思う。

7番手は大阪の【法橋ハジメ】氏。
共演は9月に長岡で一緒にやって以来だったが、この日は出番前に少し酒を飲み過ぎたようで、いつものライブが出来ていないようだった。
しかしそういう酒に飲まれて歌う日も必用だなとは思う。手元は覚束なくなるが、失敗を恐れなくなる、感情が昂る事を私も知っている。
彼とはまた来週、13日と15日に新潟県は三条市で共演する。
「膿を出しきった」らしいハジメ氏との再共演が今から楽しみだ。

そして8番手。いよいよこの日の主役【堀口慎太郎】氏の登場。
彼がこの日集めたアーティストたちへの熱い想いがステージングに現れていた。
そして、地元のお客様たちに愛されるお店とその人柄に、見ているこちらも顔が綻んだ。
音楽をやる人間というのは、人に何かを伝えたいから、人に愛されたいからステージに立ち続けるんだなと、慎太郎氏のライブを見て自分の中で府に落ちた。

9番手は大阪のMinori氏。
ジャンルはガラリと変わり、マイク一本でレゲエを歌うアーティスト。
日本語で歌う人でここまで体が喜んだレゲエシンガーは初めてだった。
あまり精通していないジャンルだから、勝手なイメージでレゲエってもっと底抜けに明るくて一点の曇りもないような音楽だと思っていた。
もちろんそういう楽曲もあったが、Minori氏の楽曲には社会風刺のような重いテーマのものもあり、全ての人の全ての母への壮大なラブソングもあり、日本人独特のセンスや、日本人としての誇りをそのライブから感じた。
鳥肌が立つくらい格好良い音楽って、音量や音圧には比例しないんだなと思った。

10番手は地元・三重県の【バームクーヘンマン】。
バンドだったが、聴きやすいポップロック。
途中、慎太郎氏の楽曲をカバーしていた。
自分の曲をカバーしてもらえるって凄く嬉しいと思う。

11番手はお隣・伊賀市から【花垣亮志】氏。
とにかく声量があり、心に刺さるメロディセンスは抜群。
歌詞はとても率直で、家族愛に溢れていて、慎太郎氏が惚れ込んだのが良く分かるストレートな音楽性だった。

12番手は大阪の【FALL OFF】というバンド。
絵に描いたようなハードコアバンドだった。
この辺で私は長旅の疲労により寝落ちしてしまい、そっくり記憶が飛んでしまったので感想は割愛。非常に申し訳ない。

そしてトリは【BEAK】氏。
かの有名なNICOTINEというバンドのドラマーであり、ドラムのソロプレイで全国を回る一風変わった旅芸人。
ライブは初めて拝見させて頂いたが、あそこまで会場を沸かせられるドラマーには初めて出会ったかもしれない。
客席にドラムセットを置き、CD音源に合わせて叩くのだが、これがいわゆるネット動画などで見る「叩いてみた」的なプレイの比じゃない。
もちろんプロなのでそれは言わずもがななのだが、それを抜きにしてもあそこまで激情的で興奮するドラムプレイは正しく圧巻だった。
普段バンドの後ろで隠れがちなドラムという楽器が主役になれるという事を教えてもらえた。
あれはライブというか、ショーだった。



結局、時間は押しに押して終了したのは日付を跨いでからだった。
それでも、お客様たちが終始楽しんでいたのがとても印象的だった。
それもこれも、慎太郎氏が、club ROCK UPというライブハウスが、この地に根付き愛されているということの証明であるのだろうと思う。

旅先で出会ったアーティストの地元に訪れ、その人が自分の生まれた町でどのように育まれ、
どのような人たちに囲まれているのかを見ることが出来るのも、やはり旅の醍醐味である。

本当に来て良かったと思えた素敵な一夜だった。

ライブ後は打ち上げで出演者やお客様と楽しく酒を交わし、途中また寝落ちして、気付けば朝になっていて、残った人たちが何故かツイスターゲームに興じているという、まだ半分夢の中にいるかのように目覚めた私は、新潟へと帰るためclub ROCK UPを後にした。

慎太郎氏とは固い握手と抱擁を交わした。
「また近いうちに新潟行くわ!来年一緒にツアーしような!」
そんな言葉をもらえて、私は俄然、音楽への情熱をさらに燃やした。

「旅」自体ももちろん好きだ。
でもそこに「音楽」というひとつの大きな目的があることで、旅はより一層豊かなものになっていく。

音楽をやるという道を選択した自分を誉めてあげたい。
今、私の人生はこんなにも輝いているのだから。

堀口慎太郎氏はじめ、昨日出会ってくれたアーティスト、お客様すべてに感謝。

長い文章、読んでくれてありがとう。

Mondeoでした。