『チョコレート』(邦題・チョコレート・ファイター) | リュウセイグン

リュウセイグン

なんか色々趣味について書いています。

長文多し。

話の通じないドラゴンほど恐ろしい奴はいない。




結局映画館では観られなかった『チョコレート』
漸くDVDで発売されたのでお目見え。

ぶっちゃけアクションシーンがyoutubeにいくつか上がっていたので待ちきれなくて観ちゃったりもしたんだけど、やはり圧倒的の一言。映画館で観ればもっと凄かったんだろうなぁ。

ストーリーは暗いけど単純。

「お母さんの病気を治す為、闇金やってたころの不良債権を回収します」

こんだけ。
でも他のブログ で色々書かれていると、なるほどなぁと得心する部分も多い。
流石、色々と観ている人は違うね。

主人公のゼン(禅)は、自閉症の少女という事になっている。
僕は当初、主演女優であるジャージャーの演技力のせいかなぁ……などと考えていたのだが、どうも違うようだ。
上記のリンクもその理由が書いてはあるのだが、僕が「単に演技の問題じゃないのか」と気付いたのは障害者としての演技が物凄く上手かったから(僕は基本的に演技力を観る目が無いので見当違いなのかもしれないけど)

体当たりというか、本気でこの少女に入れ込んでるなという感じがして、「大人の事情」なんてもの以外の理由を感じた。

テーマ的にも色々あるとは思うが、一つには作劇上の問題がある。
先にも簡単に書いたように、彼女の目的は「お母さんの為にお金を稼ぐ」こと

しかしお母さんは闇金をやっていた経歴を捨てて生きている。
そして借金を返さない客との口論からトラブルに発展するのが大半なのだが……これは普通の人間の発想をしてしまうと色々と疑問が湧き起こってくるシチュエーションだ。

「お母さんは、何故こんなに人に金を貸しているのか?」

「何故柄の悪い業者ばかりなのか?」


「いくら横柄でも無理矢理金を取り立てていいもんだろうか?」

ちょっと考えただけでもこんなに浮かんでくる。
実際、劇中でもゼンと共に行動するピザ(ムン)が疑問に思っている。
が、ムンもちょっとアホの子だしお母さんを救う事のが重要なのであまり気にしない。

これは当然、観客にもツッコまれ得る点だろう。
そこら辺を解消するのに、尺を消費してしまう上にアクションのカタルシスは損なわれる。

しかしゼンのキャラクターは違う。

お母さんを助けるにはお金が必要→お金を返せ!

これだけだ。彼女には社会的な塩梅とか交渉とか回りくどい事はしない。
一直線に目標に向かうだけだ。

物語をスムーズにすると同時に、しがらみに執われないゼンのキャラクターに爽快感すら与えている。

更にはこの作品、非常に過激なアクションが多い。
人が死んだんじゃないか、というようなシーンも沢山出てくる。(結果的には回避されている)
しかしながら柄が悪くても借金をした業者とその従業員であるから、過度な暴力をやっていいのか?
なんて気持ちにもなる、普通なら。


しかしそれまた相手から攻撃してくる事と計算のない(出来ない)ゼンが中心になる事で、解消されているのだ。


で、やはりメインデッシュは細身の身体から繰り出される見事なアクションの数々!
監督と喧嘩別れしたトニー・ジャーと比べると多少繊細というか、(当然ながら)女性的だが、動きの華麗さと言ったらない。信じられない角度からの打撃技は笑うしかないレベル。

業者にあるギミックを利用して縦横無尽に動き回り、更に敵が可哀想になるくらいの決定打を与えまくる。
立ち直ってくる敵もまたソマリアの民兵みたいだが、それをまた叩きのめすという徹底ぶり。
逃げ回っているように見えて複数にダウン攻撃を与えていたり、『マッハ!』もそうだったがピンゲーオ監督は本当に容赦ない。

特に終盤のジャージ君との決戦は凄すぎる。
ちょっと残念なのが尺が短い事で、あんだけ強くてキャラが立ってるんだから、もし出来る事ならジャージ君に一回敗北してから再戦で勝つ! みたいにして欲しかったかもしれない。

感心したのがEDのメイキングシーン集。
ジャッキー映画なんかにもNGシーン集はある。それに準拠した物なのだがラスボス格の人がビルの三階くらいから落ちるシーンで「あれ?」と思った。
落ちてメッチャいたがってる俳優

でも落ち方が本編と一緒だ。
こんな場面は何回も取り直せるはずもなく、落ちるだけと言えば落ちるだけなのでアクション・リアクションが悪いという事も無い。

そう、これは恐らくNGシーンじゃなくてOKシーンなのだ!

格闘のNGシーンで当たり所が悪くて痛がる、というのは分かる。
しかしOKシーンで本当にダメージを負ってしまうというのはあまり聞かない。
マジで三回から落ちる前提で撮っているのだ(構図的にマットを敷くのも難しい)

俳優にせよ、普通はやりたがらないだろう。
監督だってカットで誤魔化せなかった訳じゃないだろう。
でもこの作品ではそれを選ばない。

ここに見られる本気こそ、『チョコレート』を支えている何よりの大黒柱だと思う。


なお、何故かこの映画には阿部寛が結構重要な役どころで出ている。

僕は『TRICK』ファンなので阿部ちゃんの殺陣で大笑いしてしまったのだが、無名なら兎も角、またネームバリューだけはでかいハリウッド映画なら兎も角、母国でもいい仕事している阿部ちゃんがタイのこういう映画に出てくれるというのは日本としても誇らしい気持ちになる

あんたこそホントの役者だよ!