『帝都東京 殺しの万華鏡』 | リュウセイグン

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なんか色々趣味について書いています。

長文多し。

乱歩もビックリのエログロナンセンス犯罪實話!!!!!


帝都東京 殺しの万華鏡―昭和モダンノンフィクション 事件編 (新潮文庫)/著者不明
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犯罪モノが好きで、本屋行って気になってしまうとついつい買っちゃう。
そうなると必然並びが

でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相 (新潮文庫)/福田 ますみ
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隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)/ジャック ケッチャム
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少年リンチ殺人―ムカついたから、やっただけ―《増補改訂版》 (新潮文庫)/日垣 隆
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とかになってしまって店員の目が気になったりする訳です(この三冊は実際同時チョイスでした)
あぁ俺犯罪者になったら絶対やり玉に挙げられるな……とか。
GTAもやってるしね!


で、買ったら読んでるハズなんだけど、最近は積ん読も多くて読書メーターを付けることすら煩わしい不精者としてはどれがどれだか把握していない。
そんななか「前読んだよな~」と思いながらも拾い上げたのが、この


『帝都東京 殺しの万華鏡』


如何にもなタイトル。
新潮関連では他にも『新潮45』に載った面白い犯罪實話ものがあってなかなか信用が置けるのです。
昭和初期の犯罪を(元)刑事自身が思い出しながら書くという形式で、実際当時の雑誌に載ったモノを拾い上げている模様。

そしてその個別事件ラインナップ



情痴の片腕事件
湯上がりの死美人
屋根裏の殺人鬼
女装の殺人魔
母殺し涙の裁判
津田沼の生首事件
旋風殺人事件
樽漬の生美人



どうです、タイトルだけでwktkしてくるでしょう。


湯上がりの死美人
樽漬の生美人


対句みたいになっているのが心憎い。
ていうか樽漬で生美人て何よ!? って感じです。

旋風殺人事件なんて本陣殺人事件よりもカッコイイ題名じゃない!
厨二っぽいけど。



まぁそんな訳で、どれもタイトルに違わず面白いんだけれども取り敢えずはですね、
乱歩を彷彿とさせる

屋根裏の殺人鬼


を紹介してみたいと思います。

犯行現場はイキナリ衝撃的で伏せ字化しています。
ただ妊婦だったことから恐らくは名古屋のアレ (グロ注意)とか最終話が放送禁止になったアレ みたいな状況だったんじゃないかと思われます。

この殺された女はすぎという有名な美人で、芸妓や料亭に於いて浮き名を流し、現在も囲われて不倫の身だった。ただ現在の愛人である竹本は、自身が刑務所入りしてしまっていたそうで、こうなってくると他の情愛絡みかという事で聞き込みが始まる。
そこで樋口という男が浮上、どうやらすぎと心中しようとした過去もあるらしく、更に殺される直前に痴話喧嘩をしていたという。
そこで樋口の愛人もろともしょっぴいて(まぁ戦前ですから)尋問したところ、どうやら小遣いをせびりに来た程度で犯人とは違うらしいと分かった。
しかし樋口が釈放される時、思い出したように言う事は……



「ひょっと今思い出したのですが、私がすぎの宅で小遣銭をもらって帰ろうとしたとき、あの家の天井の隅から妙な男が顔を出していたような気がしますが……。気の迷いかもしれませんが、たしか、あの隅っこの額の蔭から誰かが覗いていたようですよ」
(帝都東京 殺しの万華鏡 81頁)


な に そ れ こ わ い



もちろん刑事さんは

「そんな馬鹿なことがあるか」
(同)

と笑い飛ばしてしまったそうですが、これはむしろ普通のリアクション。

しかしながら更に奇妙な証言が



それはおすぎのお通夜の晩、親戚も身身寄りもないので、近所の人たちが寄り集まって、心ばかりのお通夜をしていると、真夜中ごろ、すぎの棺を置いてある真上の天井裏から突然、
「おすぎ許してくれ! 俺はお前が………心から好きだったんだ! 殺す気なんかなかったんだ……ああ苦しい! 俺の首を絞めてどうするんだ。ああ! 行こう。どうせ地獄へ墜ちるんだ。一緒に行こう、おすぎ……」
と、まるで地獄で悶え苦しむような薄気味の悪い声が、杜絶えがちに洩れてきたので、お通夜の人たちは、ゾッと冷水を浴びたように寒気を覚えながら、天井を見詰めたが、それきり何の異変とてなく、皆は気味が悪くて黙っていたとのことであった。
(同 82~83頁)

気味が悪いってレベルじゃねーぞ!!!!!

絶対怪談話だよそれ!!!



俺が近所の人だったら適当に理由付けて退散するね。
偉いわー、気合入ってるわー、恐るべし昭和初期のご近所付き合い

流石に刑事さんも不審がって屋根裏に上がると、そこには布団や食器類が。
どうやらこの家の屋根裏には、マジで人が住んでいた模様。

で、調べを勧めるとすぎが甥と称していた梶川久太郎なる男じゃないかと判明したが、その後の捜査は遅々として進まない。

そんな中、連行したかっぱらいの少女がモルヒネ中毒で、中国人窃盗団と関係があったらしく、窃盗団をしょっぴきに阿片窟(!)へと赴いた。
そこへ居たのが久太郎とすぎという名の入れ墨を施した謎の美女(!)



「何か変わったことがあるの……」
「いや、俺の知った男と女に同じ名前の人間があるんだ」
「そうなの? 久太郎という人が妾のいい人なのよ。が、わたしはすぎというんじゃあないの……本当はみさという名前なんだが、あの人がすぎという名にしろというので、名前を変えちゃったの
(同 88~89頁)



みささん……あんた完全に騙されてますよ。
ともあれ、そいつはきっと探している久太郎だという事でみさに詰問しようとしたところ、カーテンの蔭から脱兎の如く駆け出す人影が!

「うぬ、久太郎待て――」
(同 90頁)

と、時代劇調の台詞を吐く刑事!
『チェイサー』ばりの疾走劇は海によって遮られる。
久太郎は小舟に乗って逃げ出した、同じく船を漕ぐ刑事だが、久太郎は船頭を生業としていて、到底追いつけない。
これまでか……と諦めた時

「危ないぞ! 早く帰らなけりあ(原文ママ)、暴風雨が来るかも知れんぞ!」
(同 92頁)

とやって来たのがモーターボートに乗った水上署の顔馴染み、伊波巡査!

しめたとばかりに追い掛けるが、案の定の大時化で、岸に退避せざるを得ない。
しかしふと思う。

(ひょっとすると久太郎の奴も、ここに非難して来るのではないだろうか……)
(同 93頁)

予想は見事的中で、久太郎が上陸しようとしたところに捕縄を投げ、ドスを持った久太郎とのとっくみあい。
久太郎自力で捕縄を振り切り逃げ出すも、飛び込んだ海が大時化では流石に溺れてあえなく逮捕とあいなった。



逮捕した久太郎を尋問すると、すぎ殺しを自白した。
どうやら二人は幼馴染みで、永遠の愛を誓い合った仲だという。

しかしすぎの家は落ちぶれて、芸妓として売られてしまう羽目になる。
毎夜男を相手にしながらも、想うは久太郎のことばかり。
いつしか久太郎を天井裏に隠して、逢瀬を楽しむようになったという
(恐らく芸妓を抜けた後の事だろうと思われる)

樋口との心中騒ぎも、狂言だったらしい。

久太郎は、屋根裏に居ながらもすぎと愛人の様子を見ていた。
当初は身を切られる思いだったが、その内、愛人が身上食いつぶす程すぎに入れ込むので愉快になって、気にしなくなったそうな。

まぁ……なんか目覚めちゃったのかという感じがしないでもない。

しかし、すぎの最後の愛人竹本が彼女を囲って子供を孕ませた事で久太郎の心に疑念が生じ、更にかつての心中相手樋口が訪ねて来たことでそれが加速、すぎを問いつめた挙げ句口論となって殺害(絞殺)してしまったという。
その後に彼女の白い肌が気になって斬り下げたところ、件の状況になった……という話だが、それはまぁ色々と考えようもあるだろう。




ともあれ、徹頭徹尾怒濤の展開に加えて被害者と加害者の悲しい関係、そして信じられなくなったことによっての陰惨な破局。
犯罪實話だからこういう事を言うのは不謹慎かも分からんが、話としても「お前絶対脚色してるだろ」と思っちゃうほど面白かった。

他の話もメチャメチャ凄いのばっかり。
一つ一つ紹介していきたいが、長くなりすぎてしまうので当座はコレくらいにしておこう。
別にウチのでアフィらなくても良いから、興味が有れば是非とも買って頂きたい一冊。