例えば僕は
周りの人達が朗らかな笑みをこっちに向けて
ルンルンしながら語りかけてくると
頬がほころぶ

例えば僕は
夕暮れ時、暗い部屋の隅で眉を落とし
一人窓の外に視線を送っている女の人を見ると
胸がしめつけられる

例えば僕は
満員電車、金髪の青年のヘッドフォンから
漏れる音を聞いて
おじさんがチッと舌打ちする音を聞くと
頭がガンガンする

例えば僕は
公園でお父さんと男の子が
ワイワイキャッキャッ言いながら
ボールをけり合っているのを見ると
ふわっと口角があがる

例えば僕は
横断歩道をよろよろと歩いている
おじいさんをみると
同じように後ろを
よろよろと寄り添ってしまう

例えば僕は
なんどもなんども同じ話を
同じように話すおばあさんをみると
鼻がずずっとなる

例えば僕は
お乳をあげているお母さんをみると
心臓がトクントクンとやわらかく脈打つ

例えば僕は
その赤ちゃん
例えば僕は
満員電車のお兄ちゃん
例えば僕は
黄昏れる女の人
例えば僕は
舌打ちをするおじさん
例えば僕は
まわるまわるおばあさん
例えば僕は
優しくボールをけるお父さん
例えば僕は
揺れながら進むおじいさん
例えば僕は
たわむれる男の子
例えば僕は
いつくしむお母さん

それらは僕の歴史
それらは僕の一部
出逢いが一つ一つ
僕の糧になり
力になり道をさし示す

どんどんと
書き記され広がっていく

笑ったり、怒ったり
泣いたり、哀しんだり
喜んだり、楽しんだり

何が良いことで
何が悪いことで

そんなこっちゃわからない

色々あって
それでもいいかなと

例えば僕は
空にむかって胸いっぱい
例えば僕は
両手をひろげて
例えば僕は
抱きしめる

抱きしめる
人間のほとんどが水で出来ているのなら
人が熱くなったり冷たくなったり
怒りに震えたり心が鎮まったりは
その中の水がそうなっているからと考えるのが自然ではないかと頭によぎる

それはあの人の言葉の響きや
かの女の強い抱擁や
あなたのまばたきが振動や波動となって
私の水を揺らしたり、熱したりするのではないかと

ならば、よく揺れる澄んだ水でありたいものだ
にごっていたり、ドロドロになっていたりでは
感じられるものも感じられない

自分の中の水を綺麗にするとはどういうことなのか今一度考えてみたいと思う
たわけ者の血潮
東京、福岡全公演

お陰様で無事に幕をおろすことが出来ました

今回はトラッシュマスターズ初の地方公演ということもあり

果たして福岡の、九州の方々に
受け入れられるのかと
不安に思うところが多々あったのですが

ふたをあけてみれば
皆さんとても喜んで頂いて

終演後、お客さんたちと飲みにいったりしたのですが
勇気をもらったとか
明日もがんばろうという気になったとか
笑顔で話されている様子をみて

僕自身が
勇気や活力をもらったような気がして
ほんと涙が出そうなくらい嬉しかったです

毎度、毎度客席の反応が違って
面白い体験

舞台は本と役者と観客がつくるって
昔、言われた覚えがありますが

その意味が少しわかったような気がします

役者の体はお客さんに伝染するものですが
そのお客さんの体が感じているものも
他のお客さんに

その空間全体に伝染していくものなのですね

そういった稀有な経験ができるのも
舞台にたってるおかげ
見に来てくださる皆さんのおかげだなと

本当に感謝。

次回のトラッシュマスターズは7月。
次はどんな出会いが待っているのでしょう。

その機会を楽しみに

みなさん、また会う日までごきげんよう

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森下庸之