いつか神父に聞いたのは、あの鉄塔には神様の次に偉い人が住んでいるってことだった。
僕には神父の言うことがいまひとつ理解できなかった、なぜならいくら祈りと懺悔を積み重ねたところで、僕らの生きる環境が好転する気配すらなかったし、なにより、その神様って存在を実感したことがなかったからだ。
目に見えず、手にすることもできない。
それを信じることができるほど僕らは報われた状況には生きていない。
アンダーグラウンドにはすがるように鉄塔に祈りを捧げる人々の姿を目にするときがある、それはどこか不自然で奇妙だ。
その行為によって何がもたらされるのか、彼らがそれをイメージできていないように映るからだ。
信じてさえいれば、無条件に救われることなんてないだろうと思う。
状況を変えたいのなら、自ら行動しないと何も変わらないだろう、それは僕とガゼルの共通した意見でもあった。
食べ物も飲み水も、拾われるのをじっと待ってなんていない、取りに行く気がないのなら、何も手にはできないだろう。
リスクを負う覚悟がなければ、僕らは何も手にはできない。
それはきっと、この場所だけには限らないはずだ。
鉄塔の先端は今日も霞みがかり、その頂は雲のなかに紛れて見えない、だけど、僕は凝視する。
「何か見えるか」
背中から届くガゼルの声、踵をこするような独特の足音、それからチェーンに繋いだジャックナイフをじゃらじゃらと人差し指で回す癖。
「見えない、見えないことが今日もよく分かる」
「なあディータ、上空まで空気が汚れてきたような気がしないか」
ああ、僕は曖昧に応えたけれど、そのことはよく分かっていた。
……続劇