the sunshine underground -13(end chapter 1/2) | ワールズエンド・ツアー

ワールズエンド・ツアー

田中ビリー、完全自作自演。

完全自作、アンチダウンロード主義の劇場型ブログ。
ロックンロールと放浪の旅、ロマンとリアルの発火点、
マシンガンをぶっ放せ!!



「やめよう、もうやめてくれ、もう……」
 言葉を探す、次に繋がる何かを手繰る、僕らを掬いあげるための言葉、それを叫びたい。

 聞こえるか、ガゼル。
聞こえるだろう、いま、僕はある場所から声をあげている、そして、この声にほんの少しでも関心のある人は、あなたに少しの時間があるのなら、僕の言葉を聞いて欲しい。
 僕は名を持たず生まれた、国籍も持たずに生まれたんだ、食べるものもろくになかった、棄てられたバンのなかで寝起きしてきた、日常的に窃盗があり、殺人があり、そして場合によっては僕らはそれに加担せずには生き残ることができなかった……もう気づいた人もいるかもしれない、僕が生まれたのはサンシャイン・アンダーグラウンドだ、この国で言うところの棄民の島だ、そうだ、あの放棄され、現在は無法の地になり、暴徒化した民衆と軍が衝突している、あの小さな国に生まれた、いま、わけあって僕はアンダーグラウンドを離れ、それを所有する国にいる、そして……ある人の「協力」で、こんなふうに発言する機会を得た。

 もう、争うのはやめてくれ。
 生きているかガゼル、聞こえてるかガゼル、僕だ、ディータだ、君がくれた名前を捨ててまで生き延びる手段を模索した、だけど、僕にはそれができなかった、ニュースで見た、僕らの故郷はもう焦土と化している、もうアンダーグラウンドにはいられない、逃げろガゼル、逃げてくれ……。

「もういい、時間の無駄だった」
 こめかみにピストルを突き付けられたまま、唐突に発言を終了させられ、僕はマイクを奪われた。男はため息まじりに首を振った、やれやれ、そう言わんばかりの表情だった。
話すべきならいくらでもあるはずなんだ。
限られた時間と限られた言葉でも、伝えるべきはもっとあった。


☆☆☆


 ディータの声が途切れたあと、俺たちがいつか頂を目指したあの鉄塔は突然に折れて崩れた。
蓄積疲労か、銃撃のせいかは分からない。
ディータの声を乗せたスピーカーが割れた悲鳴をあげただけで、鉄塔はその根元を残しただけで崩落していた。
戦意をなくした者たちは連行されて、無謀に攻撃を仕掛けた者は躊躇なく銃撃された。
どちらにしても。
どちらにしても、俺たちは敗北したんだ。
眼前には疲弊と絶望が横たわる。
ひたすらに、渇いた。
もう、何の一滴も残ってなんていないくらいに渇ききった。

 あのとき。
俺は育ての親である神父を殺害した。なぜかと自分に問う。いまさらながら答を見つける。
 俺は嘘が嫌いなだけだった、それだけなんだ。
祈りさえ捧げれば神によって導かれる、そんなふうにあいつは言った。
 なあ、ディータ。
俺たちはあの鉄塔を見上げることで、あの頂に達することを思い描いた、それはたぶん、この現実から逃れたかっただけなんだよな。
それは祈りにも近い想いがあったんだろう。

 崩れた鉄塔、その頂には何もなかった。
神なんて、いない。少なくとも俺はそう思う。正しいのかどうか、そんなことは知らないし、知りようもない。
神は語るものによって姿を変える。俺たちが抱える現実を凌駕しようと、あるいは跳躍しようとすれば、必ず新たな神が牙を剥く。
いま、眼前にはライフルを構えた兵がいる。
 ディータ、俺は降伏する。重ねた罪のぶんだけ、俺は罰を受けないとならないだろう。
お前の帰るべき故郷を守れなかった。そして、逃げる気にはなれない。裁きがあるなら、それを受け入れる。


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……続劇