the sunshine underground -after life-
波は穏やかに光をたたえていた。
ハーバーは部分的に改修がなされていた、以前の、俺が知るアンダーグラウンドには、クルーザーやヨットを停泊させるような港はなかった。閉鎖された造船ドッグがあり、建造半ばに放置された生き場のない船が何隻も悲鳴をあげながらひしめき合い、亡霊のようにたゆたっていただけだった。
汚濁の海は変わらない。相変わらずの悪臭になぜか安堵さえ感じる。垂れたオイル、泡になって、半球をいくつも打際につくり、そのなかに爛れた虹が浮かんでいた。そのいくつもが重なり、ひとつの大きな半球になり、緩慢な速度で割れる。波紋は広がらず収縮して隅に泥として溜まってゆく。 何度もそれを繰り返す、それをしばらく眺めていた。
思えば、そんな風景ばかりを見てきた気がする。
美しい風景はどこにでもある。だが、それは瞬時に汚されてしまう宿命を併せ持つ。美は恒久的なものではなく、感じる一瞬にしかないと、俺はよく知っている。
水平の向こうからいまだにサイレンと銃声が風に乗せられてくる。あの水夫の名前はなんだっけな、よく聞く種類の名前だった、アジアの後進国のどこか、そのあたりのギャングあがりなんだろう。いくつもの国から、いまだ経済大国のような勘違いをした情報力のないチンピラがこの国に流入していると聞いた。
表層だけを捉えればそう見えるのも仕方ないのかもしれない。制度として機能しているわけではなく、厳密にはまだ民主主義を保ってはいる。だが、そんなものは俺がアンダーグラウンドにいたころから崩壊していたはずだ。
やつらはやつらで、幻想を追いかけてるんだ。
俺はなるべく姿勢を低くしたまま、ジャケットに忍ばせたナイフの柄を握って島内に向かう。
気配を感じる、この島は、生きている。
周囲を伺う、張り巡らされた有刺鉄線はそう古いものではない、南の岸壁にはテトラポットまである、あの日、すべてが焼き払われたはずなのに、葉をつけはじめた背の低い緑も視界にある。
そして、俺たちが睨み続けた鉄塔こそないが、何かが……そう、何かが煙を吐いている。鉛に似た色の、決して空には馴染まない人工的な呼吸がある。
俺たちはない誰かの手が、この島に及んでいる。
なあ、ディータ。
わけも分からないまま、俺たちはたったひとつの故郷を追われたんだ。黙ったままにはいかないだろう?
無駄に世界中を放浪してたわけじゃない、俺は俺なりに、ここへ戻るための準備はしていたんだ、お前とまた、ひと騒ぎを起こすため、それだけのためにな。
……続劇