祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>
祈り火と過ぎる夏<7>
祈り火と過ぎる夏<8>
祈り火と過ぎる夏<9>
突堤には数多くが集まっていた、その多くは災害によって住む場を追われた人々だったが、それでも、彼ら彼女らは生きた土地を慈しむよう、そして慰めるよう、傷にまみれてこの地に集う。
この世界で最後の海岸、そんなふうにミズキには思えた。
彼女の傍らにはかつての父が松明を手に祈り続けていた。
彼にはすでに別の生活があり、そこにはミズキの知らない場所がある。
「〇〇さん、あなたはいま、何を祈るの?」
ミズキは父だった男に尋ねた。あの広く大きな背中はない、すでに老いを迎えはじめ、弱々しささえも漂わせている。
時間は止まることがない、ミズキはすでに父だった男よりも強く立つことができる。
「何を祈ればいいか、実はよく分からないんだ」
「それは私もおなじ、小さなころからそうだった、みんなが何を祈り、願うのかが分からなかった」
「そうか、祈り火なんて言っても、漠然としたもんだな」
男は自嘲気味に笑う、ミズキはそれには答えず、人々が持ち寄った花火の一本に火をつけた。
あたりは暗い。月の光、そしてそれを反射する海が微かに映る。
まるで世界の終わりだ、ミズキはそう思う。奇跡的に生き延びた私たちが最後の祝祭をするかのように、静かで誰の声も弱々しい。
「火を借りてもいいですか」
ソウスケはじっと光の行方を見守る女性に近づいた。
彼女の姿はこの田舎にそぐわない、きっと故郷を離れて生きているんだろう、でも、その視線には抱えた痛みを堪える強ささえ感じた。
どうぞ、ミズキはその男にライターを手渡した。それを掴む彼は力強く、盛り上がった筋肉が二の腕からうかがえた。
ソウスケはその火をもって、明け方近く、点り始めた空に祈りを託すよう、最後の花火に火をつけた。
photograph and story by Billy.