風が鳴り止んだ午前4時らしき時間は、
時計の長針が折れているから正確さは分からない、
焼けて爛れた汚れ風が吹き込んでくる、
半分破れたムービースターのピンナップ、枯れ葉が地を走るような音ではためく、
昨日の夜の食べ残し、
油の浮くフライドチキンに火を点けたばかりのタバコを押しつけ、
赤か黒か見分けのつかない薄暗い半地下の窓、
格子を突き抜けたのか、あるいはそれに刻まれたのか、
黄色い光が斜め48度から射し込んで、
朝が近づいてることだけをアジトに知らせている、
深海を泳ぐような日々だ、
そこには道標なんかない、目を閉じようが見開こうが、
映るものは変わらない、海面に顔を出した初めての生き物は、
そのまばゆさに何をどう思ったろう?
驚き、一度深海へ逃げ込んだかもしれないし、
その神々しさに急速な進化を決意したのかもしれない、
“お前は何を手にしたんだ?”
そう問い掛ける声が地下室に反響する、
掠れてはいるけれど、どこか落ち着く静かな話し方だ、
その問いにはこたえられなかった、
何を手にしたわけでもない、スタートがゼロなら、やがてまたゼロに還るだけだ、
ならなぜ、執拗にも求め続けようとする?
“そしていま、何を手にしようとしているんだ?
あるいは何を手放そうとしているんだ?”
深海だ、ごく端的に思いつきを応える、
そうか深海か、声は語尾に苦笑いさえ含めている、
生温い感触が身体にまとわりつく、
そう、骨を持たない軟体が呼吸を途絶えさせようと這い回る、
ナイフを突き立て、その身を切り落とすよう、
体中に切っ先を向ける、
そいつをようやく寸断しきり、
再び暗くなりゆく外へ足を向ける、
地上には人工の星が夜を塗り潰し、
吸血鬼は居場所をなくす、どこに夜行性は居場所を探す?
ここがゼロなら、向かうもゼロだ、
それはそれでかまわないとスーツケースからピストルを出し、
思いつく限りの顔を浮かべて、それが笑う虚空になんども撃ち続ける、
なんどもなんども撃ち続ける、
ゼロにするために、