「ありふれた魔法でも」
名前はいらない、それは記号みたいに響く、
自分を名乗るも忘れそう、だから口を閉ざしてよう、
名前を忘れた、だからもう振り向かない、
そこらに咲いてる汚れたまんまの花と同じで、
あの娘の名前、それを決めたのころのこと、
その名になるまで彼女は別の記号で呼ばれてたんだ、
「なんでもいい」ってふて腐れ、
なのに名前を欲しがっていた、
絶海の孤島にて、小さな入江に迷い込む、
白い腹見せ呼吸する、シャチはもう幾許もなく、
海鳥たちはケンカをしてて、
くちばし、シャチを狙ってる、
その姿を見に行くから、
ねえ、それまで生きててよ、死にかけのシャチ、
助けてはやれないけれど、
名前がないから呼べやしないと彼女は言って、
じゃあ、新しい名前を欲しいとせがむ、
「ありふれたのでもいいでしょう?」
名前をつけて、何度も何度も僕を呼ぶ、
それはまるで秘密の呪文、僕を開く魔法のカギで、
暖かくってくすぐったい、
僕は生まれて初めて名前をもらう、
ありふれた魔法でも、それで僕はよみがえる、
僕はあの娘にふたりだけの名前をもらう、
ありふれた魔法でも、それで僕は生きられる、
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