THE CIGARETTES
マネージャー、まどかさん
「ジョニー・バンドが途方に暮れる。」
当然のことながら一億円どころではなかった、契約という甘い言葉に釣られ、のこのこと現れた三人の男たちを待っていたのは契約という言葉の側面にある義務だった、しかもそれは想像を超えて過酷なものだったのである。
『CIGARETTESは我がレーベルに対し、借金が存在することを忘れないように、それはイベントでのジョニーの暴走が招いた会場の修復費であり、メインアクトであるダーティー・スター・オーケストラが出演できなくなるという事態を招いた、その損失も君たちが負わなければならない』
『CDは制作する、だが、スタジオ録音ではなくレーベル側がブッキングしたライヴでの音源を使う』
『制作に必要な資金はレーベルが用意するが、あくまで貸金であり、売上金をもって回収しなくてはならない』
『販促はレーベルも手伝うが、生産枚数の7割が販売実績になるよう、バンドとしても各種イベントに出演してプロモーションを行うこと』
詳細は多岐に渡るが、基本的にはそれが契約条件として突き付けられ、それを了承しない限りは、彼らが大暴れしたライヴイベントによって発生した損失をすべて現金にて支払うこと、だった。
「だまされたような気が……しないでもない……」
夕焼けが乱反射する川の流れを見つめながらヒラサワくんが言う。三人は川沿いのベンチに座りこみ想像だにしなかった現実に打ちひしがれていた。
「すごいよねぇ……どのみち、俺たちが稼がないとどーにもならないんだもんね……社長さん……怖かったなぁ……」
「厳しいゲンジツってやつか……」
脱退するはずだった、なのにいまは借金さえも抱えてしまっているのである。ヒラサワくんはため息を混じらせる。
「お中元はなにがいいか、聞きそびれたねー」
「それどころじゃないよ、ジョニー……いくら支払わなきゃならないんのか分かってるのかよ……」
「……え? なにを支払うの?」
ジョニー、また話を聞いてなかったのか……。天野くんもヒラサワくんも変わらず事態を飲み込めないフロントマンを思った。
「よく分かんないんだけどさぁ……」
ジョニーは話し始める、『よく』ではなく、ほとんど分かっていないのだろう、彼には失意の色が見えない。
「まあ、頑張れってことじゃんね? バンド頑張ってスターになって……でいい?」
結論はあまりに漠然としていた、だが、結局のところそれ以外に方法はない、しかし、ゆく道はイバラの道であり、修羅が待ち構える鬼道のように思えた。
「ジョニー……おまえ……」
「どこまでプラス思考なんだ……」
「あー。引き算もできなくはないよ、二ケタならどーにかなる!!」
ジョニーは『算数』に自信をのぞかせた。得意げな笑顔が夕陽に赤く染まる。輝いていた、ジョニーはやはり輝いていたのだった。
そして、ジョニーは引き算よりも足し算が得意なようだった。
<ロックンロールはつづいてく……>
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