「20XX ボールゲーム」
「なにして遊ぶ?」
八月を直前にした炎天、貨物列車は西から東へ叫びながら駆け抜けてゆく。
「ボールある? 大きいのでも小さいのでも?」
カーリーヘアを刈り込んだ褐色の少年が問う。
「今日は両方あるよ」
片袖がないTシャツを着た少年はその腕に一周のタトゥーが覗く、肌の色は灼けた黄色で伸ばした髪は編み込まれている。
「じゃあ行こうか。誰かいるだろ」
生温い風が汗をかいた肌を滑る、ふたりの横をトラックが追い抜いてゆく。舗装が剥がれて割れた悪路、荷台が何度もバウンドする。
だが何が落ちるでもない。
ふたりはマーケットの前を過ぎた、割れたガラスはテープで補修されているがそのうえをさらに割られたらしい。もちろん店内は暗く人もいない。
「昨日は何か食べた?」
「トマトひとつ。君は?」
「鳥……たぶん。ハトかカラスか知らないけど。父ちゃんが獲ったんだ」
「……いいなあ……。肉なんていつ食べたかな」
「今度、父ちゃんに頼んでみるよ。ジェンにも食べさせたいって」
「ほんとに⁈ ありがとうトラウト」
彼らにはファミリー・ネームがない。かつては誰もが持っていた、だが、いまはそれを持つのは旧世代のみになる。
「結構集まってるね」
倒された鉄柵を軽々と飛び越えて、ふたりは空き地の中央へと歩いてゆく。真上からの太陽だった、影は足元で縮んでいる。
陽炎。視界に小さな背中たちが揺れていた。
「フットとベース、どっちやる?」
子供たちの遊びは限定されていた、何をやるにも足りることはなく、そしていつも誰かがいない。その誰かは明日また会えるかもしれないが、もう二度と会わないかもしれない。
<to be 2nd half.>
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた