「少年ゾンビ高橋#8」
「お巡りさん、クーラー入れて……熱中症になっちゃうよー」
「……子供なんだから外で遊んでこいって……」
「それは古い。遊ぶような場所がないし、第一、僕には遊び相手がいない」
「場所はある……君、そもそもは都会の子か? ここはド田舎だぞ。それに遊び相手がいないって……悲しいことを堂々と言うなよ……」
「たぶん、昔はトモダチだっていたんじゃないかな……でも脳が腐ってきてるから記憶がイマイチね」
さて、ひとまず自宅アパートにてゾンビ少年を預かることになった青年巡査である。適応力があるらしく、ゾンビ少年は早々とソファを独占してしまっていた。
「なるべく汚さないようにしてくれよな……」
衛生面に問題はないのだろうか、細菌や害虫の発生源になってしまわないだろうか、そんな不安をよそに高橋くんはくつろいでいる。
「なるべく早く君が行くべき場所を探さないとなぁ」
その声には警察官としての責務ではなく高橋くんを面倒に思う本音が透けていた。
「僕、ここでいいよ」
「それは困る」
即座に答えた、迷う余地すらなかった。巡査にとってゾンビは招かれざる客なのだ、一刻も早く何処かに追い出したい。それが偽らざる思いだった。
「そんなこと言っても……だって行くところも働く場所もないよ?」
「就労は日本国民の義務だぞ、君……」
「国民として認可されたら、でしょ。てゆかゾンビなんだよ? 子供だよ? 義務なんてまだだし、これからも国民として認可されないから、そんな義務は発生しないよ」
高橋くんは躊躇もなく余裕さえもって論破する。常識的な意見が通用する相手ではないにせよ、一瞬にして粉砕される自らに苛立ちさえ覚えていた。
「高橋くん……じゃあ……土に還る……?」
「ちょ、僕を殺そうとしてるんじゃ……?」
「そもそも生きてないんだろ……?」
会話はいつも平行線をたどってしまう、意識と知恵は持つが彼は人間ではない。元人間なのだ。
「でさぁ……お巡りさんってなんて名前? なんとなく続きそうだし、名前くらい知っておいたほうがいいよね」
「なにが続きそうなんだ……?」
「や、ほら、いろいろだけど……」
「……。いろいろな都合上のことか……」
巡査は察するところがなくもなかった。
<……だから誰かオチ見つけてくれませんかね……的に続く>
⇒前回までの小利口なゾンビ少年のお話
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた