「少年ゾンビ高橋。#9」
「いつまで待たせるつもりかしらね……」
いまだインフラ整備がなされていないこの村は、日に二度しか来ないバスが村で唯一の公共交通機関である。
間に合わせに用意したとしか思えない、掘っ立て小屋がバス停としてあるが、陽に焼けた時刻表は文字がかすみ、好きに伸びた雑草がそれを隠してしまっている。
解読できるのは「杯地」と記された地名だけだ。
「過疎化を憂いても、こーゆーところを改善していかない限りは人は住まないって分からないのかしら……」
ぽつんと立ち尽くしていた少女がつぶやく。
年の頃は十代の始め、小学校高学年といったところだろうか、ドクロを模した髪飾りが目立つが、それ以外は特筆すべき部分はないが、青白い顔色だけが真夏の風景に相応しくはなかった。
「まったく。血税って言葉を濫用するわりには使い方がなってないわね」
納税者には到底見えない少女が憂う様子もなく世事を愚痴る。単純に自分への不都合が不愉快なだけだろう。
細い手を伸ばす、そして手を広げる。空に向けて広げられた手、その先の爪は長く、赤や黒に滲んでいた。不透明の雫が少女自身の髪や痩せた肩に落ちる。
突然、少女は手首を回転させ始めた、それはすでに人体の構造上、不可能な動作であった、肘や肩の稼働域を無視し、手首だけがスクリューのように回転している。
「こんなもの要らないわ」
感情らしい感情もなく、彼女はチェーンソーと化した手首を振り回して雑草を刈り取ってゆく、そしてポールまでも根元から斬り折り、落ちた標識を踏みつけた。
彼女は高橋くん同様、この世ならざる存在であり、肉体こそ存在するがそれはすでに代謝することのない屍である。
生きる屍。
つまりゾンビであった。
「本人多忙につき、コメントはしばらく閉じさせてくださいやで」
<新キャラ出しちゃったよ……回収できんのかよ……的に続かざるを得ない>
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⇒前回までのゆるいゾンビのお話。
あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた