「イケメン・ジョニーはスーパースター? #78 (完結編)」
晴れていたはずのステージは突然の豪雨に見舞われていた、色とりどりの雨具で土砂降りをしのいでいた聴衆は散り散りに姿を消してゆく。
海から鳴る風は真夏とは思えないほどに強く冷たい。吹きつける風がそこにいる人々の体温と体力を奪ってゆく。
髪もTシャツをずぶ濡れにされ、ゆくあてもなく彷徨う彼らはどこか捨て犬にさえ見えた。
「ヘイヘイヘイヘイ!」
濡れて光るステージには、その瞬間も彼らが限界などないとばかりにパフォーマンスを繰り広げていた、イベントのオーガナイザーであり、ヘッドライナーを務めるダーティ・スターズ・オーケストラ、そしてジョニー率いるパンクロック・バンド、ザ・シガレッツである。
参戦した多くのバンドが降雨による状態不良にてパフォーマンスを切り上げてしまったあと、その二組だけは観るものさえいなくなったステージにおいて孤独な戦いに身を投じていた。
聴いてるヤツがいなくてもいいじゃねえか、ヒラサワくんはそう言った。
お客がいなくても音楽なら何処かに届くよ、天野くんも笑顔だった。
「ユーたち、ほんとにサイコーですやん!」、ダーティ・スターズ・オーケストラのリーダー、チャベス・ヤマモト・ペドロはウインクの後、指を鳴らした。
男たちは旅芸人だ、ロックンロール・バンドをやっているのである。
麦わら帽にカットソー、そしてハーフパンツにラバーソール・シューズ。痩せた躯体から想像もできない嗄れた声でジョニーは叫ぶ。
「お前ら、みんなくたばっちまえ‼」
言葉とは裏腹にジョニーも笑顔だ、切れた弦も気にせずギターを鳴らす。
直撃した豪雨は彼らを貫く槍のように天から注ぐ。もはやステージを見つめる聴衆さえいない。
だが、それでも良かった、男たちは「誰かのために」などという思い上がった言い訳などしない。
自らが楽しみ、瞬間に生きる。それだけだ。シンプルな快楽を原則にした者だけが勝者になり得る。連中はそのことを本能的に知っていた。
「俺はジョニー‼ ロックンロールそのものだ‼」
無謀にも誇らしく、真夏の太陽さえも焦がす灼熱が彼の喉から放たれた。
ロックンロールは続いてゆくのだ。
「イケメン・ジョニーはスーパースター?」……終わり
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セットリスト
⇒左利きのテディ
⇒フリックスター
⇒クラクション・アディクター
⇒親愛なる機関銃
⇒アグレシオン
⇒灰とシエラレオネ
⇒勝手にしやがれ
⇒心臓
⇒ロックンロール ~俺たちは転がる意思だ
次回から新章「イケメン・ジョニーはロックスター?」へと続く
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた