「砂時計のクロニクル #4」
朝が来ないということ。
それがなにを意味するかなんて、そのときの私たちにはまだ分からなかった。いつまでも続いてくれるとばかり思っていた、当たり前だと思っていたことがぷつんと途切れてなくなってゆくってこと。
古い映画……そう、古い映画のフィルムが切れて、その先の続きが永遠にお預けにされてしまうのに少し似てるのかもしれない。
夜だけになった私たちの街は、やがて、悲しく淋しく様変わりしてゆく。
開けた窓に飛び込んでくる光や、通りを歩いたときのパン屋の匂い、乾いたばかりの洗濯物や、朝焼けをゆく鳥たち、そんなすべてが姿を消してゆく。
花は枯れ、樹から葉が散り、イヌやネコは死んだように眠ったままで、私たち人も夜に溶け込むように暗く沈んでゆく。
変わらないものなんてなにもなかった。
「動いてる?」
いくら目を凝らしても、砂時計はあまりに遠くて、暗がりのなかでは輪郭だって黒く消えてしまってた。
「分からない。でも、きっと動いてないと思う」
君が言う。ほんとは私にも分かってる。
私は彼に身を寄せてみる。なんだか冷たくなってきているような気がした。きっと私も同じなんだと思う。
夜に慣れた体温と体温の間を、それより冷たい風が通り抜けていく。
慣れられない私たちと慣れようとする人たちがいて、街を離れる人もいた、砂時計を直そうとする人たちもいたけれど、それは人にはムリなことみたいだった。
そう、この街の砂時計は神様がつくったんだと聞いて育った。人は朝や昼や夜をつくったりはできない。
動かなくなった砂時計は『神様のため息』と言われるようになって、それはまるで私たち人に愛想をつかせた神様が世界を終わらせようとしているみたいだった。
ひどい。私は思う。
この世界にはたくさんの人がいて、憎しみ合ったり妬み合ったり、争ったりばかりしているように見えるかもしれない。
だけど。だけど、毎日を懸命に生きている人だって、動物や植物だって生きているのに……どうして朝を、太陽の光を奪ってしまうんだろう……。
【つづく】
⇒砂時計のクロニクル #1
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