とある有名ブランドショップ。
アルバイト店員で大学生の浅沼毅は、社員の榎戸さゆりに好意を寄せていた。
「榎戸さん、今夜食事行きません?」
「ん?浅沼君と?」
「はい!」
「ごめんねー、あたし歳下に興味ないんだ。」
榎戸は浅沼より3つ上の25歳で、スレンダーな色白のハーフっぽい顔立ちの美人だった。
これまでも何度か食事に誘っているのだが、毎回軽くあしらわれていた。
「榎戸さん彼氏いるんですか?」
「特にいないかな。」
「じゃあ今度の土曜日はどうですか?」
「だからあ、歳下には興味ないし、あなたはバイトでしょ?まだ学生だし。」
「学生ですけど車くらいは持ってますよ!」
「そうなの?何乗ってんの?」
「いやあ、まあ、白いちっこいのですけど。」
「そうなんだ。」
「榎戸さんはどういう男性がタイプなんですか?」
「タイプねぇ・・・そりゃイケメンでしょう!あと余裕がある男ね。」
「余裕ですか・・・。」
「男はやっぱり社長でしょ!」
「はあ・・・。」
「ね?だからあなたみたいな学生は無理なのよ!」
「そうですか。」
他の男性社員に対しても上から目線の榎戸さゆりに対して、他の男達は彼女は近寄りがたい女だった。
でも浅沼はなぜかそんな彼女に惹かれていたのだが、誘うたびに鼻につく言葉を浴びせられているうちに恋心は冷めていった。
数日後、店が終わって浅沼が帰ろうとした時、外は集中豪雨で店から出れないでいる榎戸がいた。
「榎戸さん傘は?」
「あるけど、この雨じゃあ意味ないでしょう。駅に行くまでにびしょ濡れになっちゃうわよ。」
「あ、あの、もし良かったら家まで送りましょうか?榎戸さん都立大ですよね?通り道なんで乗って行きます?」
「えっ?あなた車で来てたの?」
「はい。裏のパーキングにありますから、良かったらどうぞ。」
「えー、どうしようかなぁ・・・。」
「まだ弱まりそうもないですよ。」
「あぁ、そうね。じゃあお願いしようかな。」
「どうぞ!じゃ、行きましょう。」
パーキングに着くと、浅沼が白い車に走って行く。
そして榎戸は立ち止まってキョトンとなった。
「榎戸さん、早く乗ってください!」
「え、ええ・・・。」
「凄い雨ですね。これじゃあ駅まで行くのも大変でしたね。」
「浅沼君、この車ってあなたの?」
「はい、中古ですけどね。父が新しいの買ったんで売ってもらったんですよ。息子から金取るなんて酷い父親だと思いません?」
「えっ?い、いやあ、浅沼君どこに住んでるの?」
「田園調布です。」
「そうなんだあ。お父様は何してる人なの?」
「父ですか?貿易会社をやってます。」
「貿易会社?もしかして、浅沼貿易?」
「あ、知ってるんですか?」
「えっ?そうなの?知ってるに決まってるじゃない!」
「へえ、そうですか。あ、もうすぐ都立大ですけど、目黒通りから誘導してもらえます?」
「ええ、2つ目の信号を左に曲がってもらえる?
そしたら三つ目の路地を右に。」
「はい。」
「浅沼君って大学どこだっけ?」
「慶應ですよ。」
「へえ、凄いじゃない。」
「全然そんな事ないですよ!祖父も父も慶應ですから。」
「へ、そうなんだ・・・。」
「どの辺ですか?」
「あ、あの茶色いマンションなの。」
「あ、はい!」
車をマンションの前に止める浅沼。
「どうもありがとう!助かりました。」
「いえいえ、通り道ですから。」
「今度お礼に食事でも奢りますね。」
「いえ、大丈夫です!じゃ、お疲れ様でした。」
マンションの前に立ったままの榎戸さゆりは、暗闇の中、白いポルシェが見えなくなるまで呆然と見送っていたのだった。
〜終わり〜
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