夢に向かって!第1話(あるアマチュアバンドとの出会いⅠ) | SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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 あれは今から25年前・・・・・。



「はい・・・。」

「もしもし、野村ですけど・・・。」

「おう!久しぶりじゃん。」

「はい、元気ですか?」

「ああ、お前は今何してんの?」

野村は俺よりも3つ年下で、運送屋に勤務していた時に引っ越しのバイトに来ていたフリーターだった。

「今はレコーディングスタジオでバイトしてます!ヤナダさんは何してるんですか?」

「レコーディングスタジオ?すげ~じゃん!俺は宝石屋で営業してるよ。」

「実は今度バンドのライブやるんですけど、ヤナダさん観に来てもらえませんか?」

「ライブ?そういえばドラムやってるって言ってたな・・・。」

「はい、オリジナル曲がいくつか出来たんで、来月初ライブやることになったんですよ。」

「へ~、んじゃ行くよ。」

こうして翌月、俺はライブハウスという所に初めて足を踏み入れたのであった。

事前に送って貰っていたチケットを受付で渡すと、プログラムが渡された。

中へ入って行くと、俺より年下らしき若者達で客席はいっぱいだった。

俺は1人だったので、後ろの壁際から立って観ることにした。

プログラムを見ると、この日は5組のバンドが出演することが分かった。

そして、野村達のバンドは最後の5組目。

最初のバンドが登場するや否やステージ上だけが明るく照らされ、スピーカーからは鼓膜が振動しているのが分かるほどの大音響で演奏が始まった。

俺はビールを片手に、ボーっと後ろからそれを観ていた。

そう、ただボーっと観ているだけ。

所詮、アマチュアバンドなんてこんなものかと思うほど、俺の趣味には合わない音楽が終わるのをただひたすら眺めているだけだった。

 2時間近くが経過し、いよいよ野村達の出番だ。

これまでの4組のバンドはものの見事に俺には全く響かない、興味の持てない音楽だったので、野村達にも期待はしていなかったのだが、知り合いがドラムを叩く姿は観てみたいものである。

この日、俺はそれだけを楽しみに来ていたようなものだった。

「ホットスパイス!」

野村のバンドの名である。

ステージに照明が入ると同時に、野村がスティックを叩いてイントロが始まった。

と、その瞬間!俺の全身に電流が走ったような衝撃が!!

更に、腕には鳥肌が立っていくのも感じた。

いい!凄くいい!!

1曲目のイントロから、俺は目の前で演奏しているバンドに入り込んでいった。

そのバンドはキーボードを含む5人で結成されていて、真ん中の後方で野村がドラムを叩いていた。

ホットスパイスの演奏は5曲だったが、前の4組に比べたらあっという間に時間が過ぎたように感じた。

普通好きなアーティストのアルバムを聴いても、最初から全曲を気に入ることはない。

何回も聴いていくうちに段々と良さが分かっていくものだが、野村達の曲は今日初めて聴いたのに5曲全てが俺を夢中にさせるものだった。

これは知り合いのバンドだから?野村がドラムを叩いてる姿を観ながらだから?といったヒイキ的な感情は無い。

なぜなら、俺はこの帰りにデモテープを買って帰り、それから毎日聴き入っていたからである。

 ある日、会社のデスクで俺が野村達のデモテープを聴いている時だった。

「そのバンド知り合いか?」

突然、社長が聞いてきた。

「はい、友達がリーダーで、ドラムやってるんですよ。」

「ドラムは分からないけどギターは上手いな。」

「えっ?社長分かるんですか?」

「ああ、俺も昔ギターやってたからな。」

意外だった。

「そのバンド、デビュー目指してんの?」

「さあ・・・・・。」

そういえば、野村達はデビュー目指してバンドをやってるのか?

もし、今ホットスパイスがデビューしていたとしたら、俺はCD買って聴きまくるに違いない。

現に今、野村から買った3曲しか入っていないデモテープを暇さえあれば会社でも家でも聴きまくっているのだから。

 その夜、俺は野村を家に呼んだ。

「お前さあ、デビューしたくてバンドやってんの?」

「そりゃしたいですけど・・・・・。」

「メジャーデビュー?」

「はい。」

「じゃあ、もう結構売り込みしてんだ。」

「いえ、それはまだしてないです。」

「はあ?何で?」

「いや、まだオリジナルも少ないし・・・・・。」

野村のあまりにも消極的な人間性に、俺は絶句してしまった。

俺が野村の立場だったら、たとえオリジナルが1曲しか出来ていない段階でも、全レコード会社に売り込みすると思うから。

成功する者は、考えるよりまず行動すると思う。

頭で考えていたって、先には進まない。

行動して失敗したとしても、それは後悔しない。

何もしないでいつまでも、ああすれば良かった、あの時やっていれば・・・などと、ウジウジ考えている人生よりもよっぽど良いというのが俺の考えである。

 初めてライブを聴きに行った日から俺はホットスパイスの大ファンになったようで、毎月欠かさずライブハウスへと足を運んでいた。

あっという間に1年が経過した頃、俺は相変わらず会社でもデモテープを聴いている。

「お前、○○○○ーズ知ってるだろ?」

おもむろに社長が聞いてきた。

「そりゃ知ってますよ!」

「あいつらが所属してる事務所の社長は俺のお客さんなんだけど、デモテープ聴いてもらおうか?」

「エーッ?!ま、マジですか?」

「ああ、もう10年位の付き合いになるかな。」

「早く言ってくださいよ!!」

「最近会ってないから忘れてたんだよ。」

「マジでお願いしますよ!!」

「ああ、連絡してみるよ。」

意外だ!本当にビックリだった!こんな身近にそんな人脈を持った人がいたなんて。


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