新型コロナウイルス 抗体検査の新しい報告、心筋炎を起こす?、医療崩壊危機の現実 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

まず、本日の最新の厚労省HPからのデータです。

重症者数は211人と少し増えました。全国で2800床程度整備された重症者用ベッドの8%弱程度です。

死亡者数は全国で+10人です。

 

むしろ先日は東京では1日で熱中症による死亡者が14人ですから、全国では100人以上が熱中症で1日に亡くなっていることになり、概算で新型コロナの10倍の死者を出しています。

 

一方で注目したいのは、ここ数日入院患者の数自体は低下していることです。(下図)

 

これをもってピークアウトした、というつもりはありませんが一つの変化であると思います。

 

さて、先日、東京理科大教授が会見で明らかにした報告によると、

都内でボランティア362名に対して新しく行った抗体検査の結果、ほとんど全ての人に何らかの抗体反応が見られたということが報告されました。

カットオフ値として定めた陽性に達していたのは1.9%だったとのことですが、

これにしても厚生労働省が以前に行った検査結果の0.1%よりもかなり高い結果でした。

 

抗体検査は陽性と判定するカットオフをどの程度に設定するかによって、陽性率が大きく変わってしまいますが、

ほとんどの人で何らかの反応が見られたということに、驚きました。

 

これが、新型コロナウイルスに対する抗体を多くの人が持っていることによるものか、

もしくは過去のコロナウイルスに対する交叉反応かはわからないようですが、

少なくとも現在、感染者として報告されている「全国累計PCR陽性者」の約5万人よりもはるかに多くの方が新型コロナウイルスに感染していたということに間違いはなさそうです。

 

たとえば1.9%だとしても、都内だけで26万人以上の人がすでに感染していたことになりますね。

そうすると、重症化率や死亡化率は今まで考えられていたものよりさらに低いことになります。

 

ちょっと余談になりますが、

ドイツ、フランクフルト大学からの報告で、呼吸器症状から回復した患者100名を対象に、

2-3か月後の検査で78%に心臓MRIでの以上所見や60%で心筋炎を認めたという報告があります。

そのことをメディアで見かけて不安という方から、事実ならば恐ろしいと先日コメントいただきました。

 

私は原文の論文も読みましたが、

このウイルスがドイツの感染者について、少なくとも一時的に心筋に感染し少なからず影響を及ぼすことは事実のようです。

 

ただ、この研究は対象が「呼吸器症状から回復した方となっており、多くが比較的症状の重い患者となっています。

具体的には、無症状は18人、軽症から中等症が49人、重症で入院を要したのが33人、

入院患者のうち挿管による人工呼吸が2名、その他のCPAPなどの挿管を要しない人工呼吸機器を要したのが17人という背景です。

つまり、この研究の全体100人のうちの33%が重症で、19%が人工呼吸器を要した集団なので、

現在日本でみられているような大部分が無症状、軽症という背景とはかなり対象患者の背景が異なり、重症割合が多いです。

私は無作為と言えど、この研究の対象集団は症状の重い方の割合が高いというバイアスが加わっていると思います。

 

実際には、軽症、無症状の患者の方がもっと多いわけですから。

当然、軽症、無症状者の割合が増加すれば60%, 78%という数字はその何分の一かに激減するでしょう。

 

また、limitationに記載されていますが、2-3か月経過しても症状が持続していた、いわゆる特別に治りが悪い患者さんも何人か含まれており、そのことで%が上がったことも論文内に書かれています。

若い患者さんが含まれておらず、平均年齢が49歳という点も重症者が多かった要因でしょうし、

重い肺の基礎疾患であるCOPDの方が11例、喘息がある方が10例というのも、一般母集団と比較して格段に割合が高いと思います。

 

また、あくまで感染後2-3か月時点での状況を見たに過ぎず、長期的な影響についてはこの研究ではわかりません。

この後、多くの人が回復するものなのか、何らかの異常が続くのかわからないからです。

程度問題ですが、多くの場合で回復するものと思われますが。

 

さらに、日本でこの結果をそのまま受け取るべきではないと思います。

ドイツでの新型コロナウイルスによる死者数は約9200人ですが、人口は日本の2/3程度ですから、

単純計算で日本の約15倍弱の死亡を出しているからです。

 

私は、少なくとも日本で新型コロナウイルス感染による心筋症や、

そのことで症状を出している患者が大量に病院に押しかけているというようなことは全く耳にしません。

 

また、様々なウイルスが心筋炎や心膜炎を起こすということ自体、

これも新型コロナウイルスに限っての特別なことでもないことは医学では常識です。

むしろ、心筋炎と言えばほとんどがウイルスが原因です。

 

 

上記は、心筋炎のガイドラインから抜粋していますが、

風邪ウイルスを含めて、ほとんどのウイルスが心筋炎を起こし得ることがよく理解できると思います。

インフルエンザやRS、アデノウイルスなど、一般的な感冒のウイルスですね。

 

結論として、いつも不安を煽るメディアが「ドイツで新型コロナ感染者の6割が心筋炎」と切り取って報道することは、

結果的に脅威を誇張する悪質な印象操作になるということです。

 

ウイルスによる心筋炎は恐ろしい病態ですが、新型コロナに特別なことではありませんし、

上で述べたように、60%という数字は研究対象をよく見れば感染者全体にあてはまる数字ではないです。

特に日本と、ドイツでは人口あたりの死亡者数が15倍も違います。

 

さて、最後に医療崩壊についてですが、

私はある種の医療崩壊を危惧しています。

 

新型コロナによる入院患者数は減少しつつある、

重症ベッドは8%程度しか埋まっていない、と前半で言っていたのに何をいってるの?と思う方が多いでしょう。

 

私は「新型コロナ患者が急増して病院が一杯になって医療崩壊」というメディアの叫ぶ医療崩壊については、

現在の状況ではまだ余裕があると見ておりますが、

 

ちなみに、医療崩壊の指標として、同じく厚労省HPに下記のような指標があるので、皆さんも見てください。

約半数程度の地域で一部(5-20%)なんらかの医療の制限をしています、というような状況です。

 

私はむしろ、今後中長期的に別の医療崩壊が起きるのではないか?と思っております。

これは現在、軒並み、病院やクリニックの財政が悪化しているからです。

 

私の所属している病院でもここ3か月程度、赤字が継続しています。

病院の財政悪化は、最悪は病院の倒産、そうでなくとも人員削減や安価な医療消耗品への切り替えなど、

様々な面で医療の質の低下をもたらします。

 

このことについて、次回述べたいと思います。

 

 

 

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