嫌われ剛の生涯[5]放浪 | オカハセのブログ

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正直なところ順也は引っ張り凧になっていたため剛に付き合う余裕がなくなっていた。恩は決して忘れてはいなかったのだが自分のチャンスを逃してまで手間のかかる剛の相手をする訳にはいかなかった。順也は24歳だし活発な時だった。
剛は、そういう順也の状況をうまく飲み込む感覚が欠けていたから、順也に対して逆恨みの気持ちにしかならないという非常にイタイ人間なのだ。

剛はとうとう楽器を全く手に取らずに一日中酒を飲んでは吐いて、吐いては飲みを繰り返し風呂もろくに入らず外にもほとんど出ずにひきこもりになってしまった。
剛は既に生活保護に頼って生きていたのだが、毎日酒浸りで精神科も通院しなくなり、何回かの役所職員の通達も無視していた為、とうとう生活保護を切られることになってしまった。
なんとか面接して「土木作業」「警備員」「パチンコ店員」「工場のライン作業」など転々としたが、どこも1か月と持たず、しかもひとつの職場をやめると2~3か月は仕事を探さずにひきこもりになっているため、滞納した家賃は膨れ上がり電気も水道も止められるという悲惨な状態だった。
何度も死んでしまおうかと思ったが何とか思いとどまった。
そしてとうとう部屋を夜逃げした。
路上で毎晩サックスを吹いてなんとか食事代と寝るためのサウナ代にして過ごしていた。
順也は剛の状況を知っているのだか全く顔を出さない。なんだか剛は何のために自分の街にいるのかわからなくなって来た。なまじ自分の汚点を知ってる連中の街はいるのが苦痛になって来たので、旅に出た。
旅先では最初のうちはジャズメンには歓迎された。
しかし少し深い付き合いになると最後は必ずジャズメンとケンカして離れる。長くても1ヶ月は持たなかった。
剛は薄々と「俺はどうやら職場にしてもジャズシーンにしても1ヶ月しないうちに嫌われるんだ」ということを認めざるおえなかった。でも何故嫌われるのかが今ひとつわからない。自暴自棄で破滅的になっている時の自分が嫌われるのはもう充分わかったいたけど、結構楽しくやっている最中でもいつの間にか孤立してしまう。
そんなことが理由で、剛はあちこちを転々とせざるを得なかった。









長谷川孝二