そこにはない空間 -


私がよく舞台に立つ役者に言うことです。
本番前のお客さんのいない劇場で、一瞬でもいいから、舞台上に立って、客席の端から端までの空気をめいっぱい吸い込んでおいでってね。

よくあるんです。
客席を意識されていない芝居が。
いや、客いじりをしろって言っているわけではありませんよ?
意識の問題です、意識の。

舞台はライブです。
ライブに重要なのは一体感です。
お客さんのいる客席と舞台上の一体感があって、始めて成立するものなのに、そこにいないんです。
お客さんが(汗)

稽古は本番と同じように。
本番は稽古と同じように。

よく言われることですが、その稽古の段階で、「お客さん」を意識されてますでしょうか?
「客席という空間」を意識されてますでしょうか?

たぶん、ほとんどの方が意識をされていないように思います。

スタニスラフスキーの中に、こんな演劇論があります。
第一の輪、第二の輪、第三の輪が存在すると。
難しい理論なので、すっごい簡単に言っちゃいますと、
・第一の輪:独り言(誰かに向けられたものではない表現)
・第二の輪:会話(特定の誰かに対して発せられた表現)
・第三の輪:演説(第二の輪をおこなった上で意識は別の空間や次元への表現)

今書いている私のこの日記は、読んでくださっているみなさんに向けられたものではありますが、
実は意識はこれを強制的に読ませているen塾生たちにだったりします(笑)

これが第三の輪です。
目の前の対象を通過させて、別のなにかに向けている。

この第三の輪の中にお客さんがいるんですね。
またお客さんは、この第三の輪の中だけに存在を許されるんです。

きっと稽古の中では、この第二の輪(相手役)は意識されていても、第三の輪のお客さんは意識されていないように思います。

だから!
せめて、本番前のお客さんのいない劇場で、一瞬でもいいから舞台上に立って、端から端までの空気をめいっぱい吸い込んで。
それをするだけで、自分の中に、
あっ、この空間も存在するんだ。
って身体に覚え込ませることができるんです!

お客さんのいる客席を、自分の中に意識できたとき、
始めてそこがライブ空間(演劇)になります


ってなかんじで、今日はこのへんで!