トム・ブラウン・ジュニアの「ヴィジョン」(2) | akazukinのブログ

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「日本史のいわゆる「非常時」における「抵抗の精神」とは真理追求の精神、科学的精神に他ならない」野々村一雄(満鉄調査部員)

トム・ブラウンがまだサバイバル・スクールを開こうと決心する以前の話し。


グランドファーザーと別れてから自己の探求をひとりで続けていた。


ヴィジョン・クエストというインディアンのシャーマンが自分のヴィジョンを太古の精霊に問いかけるとき行なう儀式をしていた。


儀式を行うに当たり、訓練なり修行を積んだ後、資格が与えられる。


私たちが知っているものを例にあげるなら、伝統的な職人の弟子の育て方にみられる。 内弟子に入門しての修業の過程に似て、師匠から許可を得て免許皆伝独立できるものと想像する。


技術だけでなく精神性も寝食ともにし生活するうち伝授される。


スピリチャルな世界が現実世界に反映されるなら同じ仕組みがひな形として取り入れられてもおかしくない。


イルミナティのピラミッド型構造やカーストが、自然に反した別の目的を持った次元のものだとわかる。 それがあたかも自然であるかのように私たちは教育されている。



一人一人違うヴィジョンが示されヴィジョンが示されたらそれに従って生きるのがシャーマンの定めのようだ。


それができなければ死ぬしかない。


だから、誰でもシャーマンになれるものではない。


そのヴィジョンを成就させない限り次のヴィジョンが得られない。


ある日、著者はスピリットに導かれるという初めての経験をした。



私たちは森の中を歩き、メディスン・キャビンを過ぎて、パイン・バレンの端まで行った。 生い茂った森は突然開けて、多くのブルドーザーが地面を掘り返し、人間たちが木を切り小川を広げる作業をしているのが、目に飛び込んできた。 巨大な看板が舗装道路に立てられていて、そこには「原子力発電所建設地」と書かれていた。


彼らが破壊していたのは、グランドファーザーが好んで薬草を集めに来ていた場所で、多くの動物が生息していた。 私も幼い頃から良く知っていた場所だったが、今や、大地は切り刻まれて血を流し、木は死にかけ、小川の自然層は掘り返されて、巨大な不毛の荒地と化していた。 すべての野生生物が消えていたのだ。 ブルトーザーの唸るような音と人間たちの話し声のほかには、何も聞こえなかった。


私は横に立っていたスピリットに向かって、このような狂気の沙汰をやめさせることはできないのかとたずねた。


「この連中は、大地や動物や自分の孫たちにどんなひどいことをしているか、わかっていないのかな?」


スピリットは何も言わずに、建設地入り口の前に集まっている人々を指さした。 彼らは歌ったり、建設反対の看板を掲げたりしていた。 また、別のグループは請願書を持って通りを行き来したり、演説を行なったり、人々に話をしていた。


多くの人がその輪に参加したが、それでもブルドーザーは動き続け、木はどんどんと倒されていった。 知識人たちが集まって抗議し、著名な人々が請願書に名を連ね、未来の子どもや孫たちが危険な状態に置かれるというのに、建設現場の人々が工事をやめないことが信じられなかった。


スピリットは、大きなトレーラーの中にある事務所へと私を連れて行った。 全員がビジネススーツを着こんでいて、電話が鳴り響き、人々の会話は耳を覆うぐらいうるさかった。


その中に、大きな机に座った男と口論をしている若い男の姿があった。 (中略)若い男は原子力発電所の建設を中止するように迫っていた。 明らかに、彼は抗議のデモや会社の悪い評判を気にしているようだった。 机に座っていた年配の男は、抗議する人々の前に行って必要であれば、発電所の建設は不可欠でまったく安全には問題ないと嘘をつけと、若い男に命じた。 年配の男はさらに言った。


「巨額の金がすでに動いているんだ。大きな商売になる。一握りの人間たちが抗議したからといって、邪魔されるわけにはいかないのだ。政府も我々の側についているし、必要なら警察を呼んでデモを静めればいいじゃないか。 人間の記憶なんてたいしたことはない。 発電所が建ってしまえば、みんな忘れてしまうさ」

(中略)


暗いスピリットの影が、初めて私に語りかけた。


「おまえ自身も経験したように、また、今の光景で見たように、抗議や請願書が何の役にも立たないことがわかったであろう。 もし、うまくいったとしても、勝利はほんの束の間だ。 金と権力がいつでも大衆に勝ち続けるのだ。 人々を結びつけるパワフルな意識がまだ育っていない。 すべての人々が一つのスピリチュアルなマインドとして融合しない限り、抗議はまったく意味をなさないのだ」


彼はさらに続けた。


「人々が一つの集合意識を持つためには再教育しかない。 原野という共通の場所に戻り、古来の道を学び、創造の法則に従って新しい決定を下すということを教育していかなければならない。 彼らは原野の意識に加わる必要がある。 なぜなら、それこそ鳥の群れの一羽が方向を変え、残りの鳥たちがすぐそれに続くという意識にほかならないからだ。 変化が訪れるためには、まず再教育が必要なのだ」


「どんな再教育をすればいいのですか?」


私はたずねた。


「おまえが、あの机に座っていた男を原野に連れ出して、母なる大地のすぐそばで暮らすことを体験させたら、彼の心はすべて変わってしまうだろう。 原野の純粋さに触れた者は、もはや自分の母親を破壊することなどできない。 抗議や請願書では彼の心を変えることはできないから、原野に連れ出さなくてはならないのだ。 彼はまず自分の起源(ルーツ)を知り、金や権力は肉欲の偽りに過ぎず、スピリットこそ真実なのだということを理解しなければならない」


(『ヴィジョン』、420~423頁)



多くのものが、思い立って挫折しただろう。


しかし、意識が変わるまで行動し続けなければならない。◆