人は、そうそう簡単に自分を変えることはできない。
でも、昔のその人と比べたら、信じられないくらい変わってしまう人もいる。それも、悲しい変わり方をしてしまう人が・・。

私には父方の従兄がいる。父の妹の息子・長男であるその従兄は、子供の頃とても素直で、人当たりもとても良い人だった。私と余り年も変わらないし(従兄が1つ上)、優しい従兄がとても好きだった。私には、兄弟がいなかったし、その従兄も下に弟しかいなかったため、とても良くしてもらったと思う。その母である叔母も「Yちゃん(私の名前)みたいな娘が欲しかったわ~」といつも可愛がってくれた。同居していた祖母のいう事を、忠実に守る従兄としても、親戚の間で評判だった。祖母がきれい好きだったため、その従兄は、毎日家の中をぞうきん掛けしていた。それも、水拭きと乾拭きの2度も。従兄は、若白髪でも有名だったが、それはストレスが原因だったのだと思う。その証拠に、就職を機に東京に出て来てからは、見事な黒髪に戻った。親戚はそんな従兄を「おばあちゃんの言う事を素直に聞いて、ストレスがすごかったんだね。かわいそうに・・。就職をきっかけに、独り立ちしてよかった」と話していた。

思えば、従兄の人生の歯車は、その母である叔母が41歳と言う若さで亡くなったことから狂い始めたのかもしれない。当時、その従兄は大学受験を控えていたが、浪人。2浪したが、結局大学進学はあきらめて、上京後父の一番上の兄のコネでN○Tという大企業に就職した。

親戚一同、就職したその従兄を祝福し、亡くなった彼の母も喜んでいることだろう、と噂したものである。その後社会人になった従兄は、大学進学をあきらめきれなかったらしく、社内の奨学制度を利用して大学入学も果たした。きっと簡単にはなれなかったであろう奨学生となった従兄を、私も含め、私の親戚は皆とても誇りに思ったし、ほめたものである。

従兄は、いつだって物静かだし、律儀そうな風貌だった。それは、結婚しても変わらず、私は彼のお嫁さんを「一流企業に就職して安泰だし、誠実な従兄と結婚できて、幸せだよなぁ」と思ったものである。その思いは、ずっと続いていた。そう、つい最近まで。

法事等で顔を合わす従兄の奥さんと話した時、良く私は「Y君(従兄の名前)がご主人だなんて、幸せですよねー。みんな、Y君の事ほめてますよ。誠実だし、お給料も良い会社勤めだし」、と軽口をたたいていたが、その度にその奥さんは「皆さん、良く言いすぎですよー。そんな立派な人じゃないですよ」と微笑みながら答えていた。その返答を聞いて私は、「謙虚な人ですてきな奥さんだなぁ」なんて思っていた。

一時は、従兄でなければ、私が結婚したいくらいだとまで思っていたのだ。真面目に。

・誠実
・謙虚
・物静か

従兄に抱いていたイメージである。私だけでなく、私の両親はもちろん、他の親戚だってそう思っていたに違いない。

ところが、この1年で従兄の仮面がはがれていく事が次々と起こった。つづく