その日、朝10時に家庭訪問で娘の担任の先生がいらっしゃるので、忙しくしていた。
おまけに、義父が楽しみにしている町内のお茶会も10時から。そこに早めに義父を送り届けなくてはいけない。

ところが、その日に限っていつもは8時過ぎにリビングに降りてくる義父が、降りてこない。

朝ごはんも盛って、お茶も淹れて・・と用意は整ったのに、階下から義父を呼んでも「わかった・・」と返事をするだけ。8時半過ぎてやっと、降りてきた義父。でも、食卓に着こうとせず、玄関で靴を履こうとしている。私が「お義父さん、どうしたの?今日は色々と忙しいから、早くご飯食べてください」と言ったら、義父は「いりません!」と語気を強めて言い返してきた。

私「え?どうして?今日は、娘の先生も来るし、お茶会にもお義父さんを連れていかなくちゃいけないし・・」

義父「そんなもの、行きません!」

私「どうして?昨日の夜には、楽しみにしてるって言ってたじゃない?」

義父「とにかく、行きません!」

私「じゃぁ、ご飯は?」

義父「それも、いりません!」

私「一体どうしたの?ご飯は食べないとだめだよ」

義父「何もいりません!」

そういうと、義父は靴を履こうとしている。

私「今日も暑くなりそうなのに、ご飯も食べないでどこへ行くの?」

義父「ワシなんて、くたばってもいいんだ!」

それからは、玄関先で押し問答になった。私には訳がわからなかった。昨日までは普通にしていた義父。今日のお茶会も楽しみにしてると言っていたのに・・。

でも、私の手を振り払って出て行こうとする義父。それを必死に止めようと私の声も大声になっていった。

私「どうして?どうしてそんなこと言うの?それに、どうして今日なの?もうすぐ先生が来るのよ!家庭訪問が終わったら、散歩でも何でもつきあってあげるから、とにかく家にはいてください!」

そう叫ぶ私に義父は、こう言った。

義父「ワシのことが気に入らないんだろう?昨晩、アンタ、家を出て行っただろう?ワシが気に入らないから、出て行ったんだろう?そんなにワシのことが気に入らないのなら、ワシが出て行ってやるわ!」

私「夜家を出て行った?私が?何を言ってるの?昨日は、早く寝たからいないように見えただけですよ、お義父さん!」

そう言っても、義父は全く私の話なんて、耳に入らないようだった。

私「お義父さん、お願いします。こんな暑い中空腹のまま歩いたら、倒れちゃいます。今だけは、今だけは家にいてください。後で絶対に散歩へ連れて行ってあげますから!」

義父「ワシなんて、もうなってもいいんだ!死んでやる!」

その台詞を聞いたとき、私は冷静さが飛んだ。

前にも書いたけれど、義母、つまり義父の妻であるお義母さんは、自死している。

私「お義父さん、言っていいことと悪いことがあるでしょ!お義父さんは、お義母さんをどんな思いで、見送ったんですか!遺された人がどんなに悲しい思いをするのか、一番お義父さんがよく知ってるでしょう!今度は又その思いを、Kさん(主人)にさせるつもりなんですか!」

近所にも響くような大声で、義父を怒鳴ってしまった。そして、その時

「その台詞を、アンタが言わしてるんだろうが!」

そう、義父が言い放ったのだ。

私「・・・私がですか?」

思わず掴んでいた義父の腕を放してしまった。義父は、掴まれた腕がやっと自由になったとばかりに、「だから、ワシのほうから出てってやるんだ!」と言った。

もうその後は、私も泣いてしまい、話し合いにならなかった。仕事中の主人に電話して、止めてもらったけど、無駄だった。どうしても外に行くと言い張る義父を止める元気もなくなっていた私は、とりあえず、薬だけ飲ませると、何も言わずに出て行く義父の背中を見送った。

つづく