やっしーはとうとう……
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結局この一週間は俺にとって悪夢とも呼べる日々になった気がした。
でも反対にずっと見てきた二人が一緒になって、自分の中である意味この想いを改めて封印する機会になった。
最終日、蓮は昨夜から社長と一緒に飲み明かしたらしく、やや疲れた顔をしながら寝ていた。
今まで俺の前でさえ乱れた姿を見せた事がなかった蓮が、時々キョーコちゃんの名前を呟きながら……。
もうすぐまた二人は1ヶ月の遠距離恋愛だ。今度からは恋人という新たな関係になってだが。
ため息を吐きながら、一番効くであろう台詞を落とした。
「おーい、おはよう、蓮。そろそろ起きないと遅れるぞ。二日酔いだとしても、だからこそしっかり食べないとキョーコちゃん悲しむよ~」
「そ……ですね。でも朝ご飯……」
「俺が知ってる。早く着替えて行くぞ」
最後の仕事に近く、今までキョーコちゃんのチョイスで胃に優しい美容にもいい店に予約を入れて支度出来次第すぐに向かった。
「よく社さんが知ってますね」
「琴南さんとキョーコちゃんと来たからな」
琴南さんの名前を先に呼んだのは、せめてもの俺の気持ちの整理だった。
*****
side-Ren
空港近くのホテルの一室で再びハリウッドに渡る俺の為に社長が場所を用意してくれた。社長を含め、社さん、そして何よりキョーコとまた1ヶ月離れるのが寂しくて。
「今度また敦賀さんに会えるまでにもっと演技だけじゃなく、人間としても磨いてレベルアップできるようにがんばりますね」
可愛い事を言うキョーコも、目が潤んで余計にその魅力に頭がくらくらしてしまう。
「それ以上頑張られると俺が困っちゃうな。キョーコは今のままのキョーコが俺は一番好きだよ。それに磨かれるなら俺に磨かれて?」
「でも敦賀さんに頼りきってしまうのは嫌なんです。だから……」
他の誰でもない、俺の手で、そして俺の側で綺麗になっていくキョーコをみていたいから。
髪や頬、額など悲鳴が上がらない程度のキスを繰り返して抱き締める。
真っ赤な顔になりながらも、涙目で見上げられながら言われると、その口を唇で塞ぎたくなる。
「キョーコ、なんでもいい。何もなくてもいいから、メールだけでも頂戴。それだけで俺は1ヶ月頑張れるから」
「わかりました。渡された新しい携帯、頑張ってメールしますね」
最後にぎゅっと抱き締めて、ディープキスを堪能した後、名残惜しい気持ちを残しながら空港へと向かった。
「社長、キョーコの事、お願いしますね」
「わぁってるって。最上君の事は社にもしっかり言ってある。アイツ自身にもな」
「!? 社長、気付いて……」
社長はニィっと笑った後、リムジンの窓の外を見ながら言った。
「アイツはこの世界で人の新たな面を探したり、売り出したり、そういう事に長けてるからな。最上君に欠けていた自信に繋がる事をアイツはかなり売り込んで伸ばしてる。3ヶ月でやけにのびのびしたと思わなかったか?」
俺は彼女をどうやって磨いてあげられるんだろう……?
長いロスまでの飛行機の中で俺はずっとその事を考えていた。
***** つづく
人を育てるのが得意な人。
人を磨くのが得意な人。
どちらがどうとは言わないけど、ね。