やっしー可哀想過ぎでしょうか……
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「キョーコちゃん、でもね。俺もキョーコちゃんの事を考えて一生懸命頑張ってるんだ」
「それはよくわかってますよ」
「でもね、でも頑張ってもやっぱり蓮のあの格好良さの前には、俺の頑張りなんて塵か砂みたいに飛んでっちゃうんだよ」
キョーコちゃんはくだをまいて机に伏せた俺の手をぽんぽんと叩いてくれる。こういう優しさが身に染みるんだよな……
大体、俺は本人に何を言ってんだか。バカか、俺は。
「私は明日オフですけど、そろそろ社さんは明日の仕事を考えて帰った方が良いですよ」
「そうだね。じゃ、俺支払ってそのまま帰るから。今日はありがとう」
「えっ、そんな! また奢って貰う訳にはいきません!」
「いつもそうだからいいでしょ。じゃ、おやすみ。送ってあげられなくてごめんね」
こんな時、運転できれば送って……あ、もろ飲酒運転か……
*****
いつもの大音量のラバー製目覚ましの音で目が覚めた。
あれ? ここは俺の部屋だ……
あの後、レジに言って会計して、領収証を貰った所まで記憶はある。
だが、その後の記憶がない。
そもそもキョーコちゃんは蓮が送って帰ると言ってたのに、俺が愚痴を溢してたのは誰だったんだ?
「もぉーっ、今日は久々のオフだって言うのにうるさいっ!」
そこにはなぜいるのかわからない人がいて……
「「きゃ~~~~~!!?」」
お互い昨日の事を思い出すまで、真っ青になっていたのだった。
琴南さんの話によると店の外に出るなり、千鳥足になった俺を放って置けず、タクシーを捕まえて同乗したものの、今度は中で寝てしまいタクシーの運転手に部屋の中まで連れて来て貰ったらしい。
そのタクシーで帰ろうとしたら、さっさと行かれてしまって帰る手段が無くなってしまった、というのが実態らしい。
聞いてるうちに俺も思い出してきた。また琴南さんに美容を謳い文句にしてる店を紹介しがてら、下見ついでに愚痴ってたのだ。
「もう調子は悪くないですか?」
「えっ?」
「昨日はずっと胃が痛い、頭が痛いって言ってらっしゃったから」
「俺……そんな事言ってた?」
何を言ってんだ、俺。本当に頭が痛い……
ふと会話が途切れて琴南さんの視線の先を見て凍った。
「この写真、私に会う前のあの子のものですよね」
慌てて倒したってもう遅い。相手は驚異の動体視力保持者だ。
「えっ……うわわっ……み、みた?」
「見てないか見たかと言われれば見ましたが、本当の事を教えて下さったら見なかった事にします」
ふーっ、俺は長い溜め息を吐いた。
「俺とキョーコちゃんが初めて作品で出会った時の写真なんだ。新開監督のね」
「初めての写真が着物っていうのもあの子らしいって言うか……」
二人してフフっと笑ってしまった。
「社さんは今日も仕事ですよね。私は適当に帰りますから」
「ごめんね、今度必ずお礼するから」
「また同じ事になるんじゃありませんか?」
「そうかもしれないけどね……」
なんとなくキョーコちゃんとは違う、暖かい気持ちがふわりと俺の胸に入ってきた一瞬だった。
***** つづく
二股ではありません。
あくまで言い張る私。
でもキョーコ大好きな二人はここに結託す、って感じ?