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佐保姫の号

P.9


さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり


馬場あき子『桜花伝承』


桜はまことに不思議な花で、殊に強く年齢を意識させる花です。

年々の巡りに出会うたびに、ああ去年見た桜は、などと季節の循環を思う。

そして去年見た桜を今年もまた見ることによって、円環的に繰りかえす季の巡りとともに、去年と今年の時間の直線的な過ぎゆきをも同時に意識します。

季節の巡りの円環的時間と、身体を過ぎてゆく直線的時間、そんな二つの時間が交差することで、螺旋状に時間が過ぎて行くのを実感することになるのではないでしょうか。

桜がしみじみと己の齢を感じさせるのはそこに理由があるように思えます。

馬場あき子さんはそんな桜を見つつ、己が身は「幾春かけて老い」ゆくのだろうと詠います。

自らの身の中心を勢いよく流れてゆく水流の音さえ聞こえるようだというのです。

老いの意識を詠いながら、この一首からは若々しい身体から発する輝きと、それを自ら讃美するようなある種の陶酔感さえ感じられますが、それはおそらく見事に張りつめた韻律の故でもあるのでしょう。


『NHK短歌』2015年1月号より 抜粋

『NHK短歌』2015年1月号