「カーネーション」
第５回～第１週 「あこがれ」
（通りをしょんぼり歩いている糸子）
何で女に生まれてしもたんやろ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜小学校＞
奈津） 「男子と女子は生まれながらに
して体も違い、性質も違っています。
それで見ても、その務めがおのずから
違う事は明らかであります。強い事は
男子の持ち前で、優しい事は女子の
持ち前です」。
教師） はい、そこまで。では次…。
生徒達） はい！
教師） せっかくやから、是非小原さんに
読んでもらいましょうか。小原さん。
糸子） はい。
「我らの父は、一家の長として、家族を
率い、外でいろいろな仕事をして働い
ています。母は」。
教師） もっと大きな声で！
糸子） 「母は、主婦として、内にいて、
父を助け、家を整え、我らの世話をし
ています。男子と女子が、その務めを
全うすれば、家も栄え、国も栄えます」。
教師） はい、そこまで。
吉田さんはどうですか？
女子の務めはできそうですか？
奈津） はい、できます。
教師） さて、小原さんはどうでしょう？
糸子） は？
教師） 小原さんは女子の務めが
できそうですか？ どうですか？
返事がないですね。小原さん。
勘助） あ、イタタタタタ…！
（椅子ごと倒れる勘助）
教師） 何をしてるんですか？
勘助） 頭、頭！
教師） 何してるんや、もう！
見せてみい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（だんじり小屋の前で
だんじりを見つめる糸子）
（中に入り、だんじりに登ろうと
はしごに手をかける糸子）
泰蔵） 誰や！？
（驚き尻もちをつく糸子）
泰蔵） 何や、糸ちゃんか。
どないしたんや。
糸子） だんじり、乗りたいんや。
（外を確認し、戸を半分閉める泰蔵）
泰蔵） 乗れ。
（はしごを登り、
だんじりの屋根の上に立つ糸子）
（屋根の上に立ち、前を見る糸子）
糸子） 降りる。
（はしごを降りる糸子）
糸子） おおきに。
泰蔵） 気ぃ、済んだか？
（首を横に振る糸子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜吉田屋＞
奈津） ただいま。
女性） お帰り。
奈津） トメ子おばちゃん来てんの？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
トメ子） 離縁や。離縁しちゃる！（泣）
志津） あんな、そもそも男ちゅうんは
そんなもんやねん。あんただけと
ちゃう。女はみんな我慢してんねん。
トメ子） 嫌や！ 何で女ばっかり
我慢せなあかんのんな！ ここ見てや！
こんなに腫れてんやで。
（トメ子の額にアザ）
志津） どれ…ふ～ん。
トメ子） （泣）
克一） （せきばらい）
（部屋の外から目配せする克一）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（廊下に出て行く志津）
克一） 旦那迎えに来よったど。
はよ帰らせよ。
志津） そんなすぐよう帰さんわ。
克一） えぇ？
志津） まだ今泣いて、
離縁やちゅうて騒いでるとこやし。
克一） 離縁？ アホか！
志津） また殴られたんやて。
克一） 知るかいな。
適当に言うてな、追い払え。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
トメ子） なっちゃん。
奈津） 何？
トメ子） 結婚なんかな、
するもんやあらへんのやで。
女ばっかり損するんやから。
奈津） 今日修身で習うたとこや。
トメ子） え？
奈津） 「女子は男子をよう助けて、
仲良うしたら家も国も栄える」て。
トメ子） 仲良うでけたらな。
そやけど、そんな簡単に仲良う
でけへんもんやねん。
奈津） 何で？
トメ子） 何でて…何でやろ？（泣）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜小原家＞
善作） おい。
千代） え？
善作） 何で、糸子は外へ
遊びに行かへんねん？
千代） は？
善作） いやいや、いつも帰ってきたら
ビャ～ッ、飛び出していくやないかい。
何で２階でへばってんねや？ こんな
天気もええのに。
千代） さあ～。
善作） わいにしばかれて、
しょぼくれてんのちゃうか？
千代） ああ、そうですわ、きっと。
善作） 何？ ちょ…ちょっと待て。
「そうですわ」はないやろ！ え！
そもそもやな、お前がこう、しっかり
してへんさかいに、こないな事に
なんのや！ え！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
何で女に生まれてしもたんやろ？
女は男より弱ぁて、
だんじりも曳かれへん。
やりたい仕事もな～んもでけへん。
女が大人になったら、
年がら年中家おって、
一日中男に叱られて。
それが済んだら、台所で、
いわしばっかり炊くんや。
（二階の部屋で大の字に寝る糸子）
嫌や！ しょうもなさすぎる。
嫌や、嫌や！
女なんかほんまに嫌や！
糸子） （ため息）
何かおもろい事考えよか。
おもろくて、
楽しなってくるような事。
（絵を描いている妹）
糸子） ちょっと貸してみ。
姉ちゃんがええもん描いちゃるわ。
妹） ん？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
郵便配達） こんにちは～！
善作） へえ。
郵便配達） 小原糸子さん宛ての
お荷物です。
善作） 糸子宛てにお前のおふくろ
さんからや。何ぞ、送ってきたん
ちゃうか。
千代） うちから？ へえ～。
善作） はよ持ってっちゃれよ。
千代） 後で…これ終わったら。
善作） そんなもんええさかい！
はよ持っていっちゃれよ！
千代） へえ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
糸子） シャ～ってなっててな。
ここが、ヒヨヒヨ～ってなってんねん。
ドレムちゅうんやで。
妹たち） ドレム？
（ちらしの裏にドレスの絵を描く糸子）
糸子） ほんまはもっと
きれかったんやけどな。
妹たち） ふ～ん。
千代） 糸子。神戸のおばあちゃんが、
あんたに何や送ってきてくれたで。
糸子） おばあちゃんが？
千代） 開けてみいな。
糸子） うちが開けてええの？
千代） あんたのやさかい。
（包みを開ける糸子）
（中に金の模様が入った赤い箱）
糸子） うわ～きれいな箱や。
妹） きれえ。
妹） 箱や！ ええなあ。
妹） きれえ！
糸子） お母ちゃん、
おばあちゃん、箱くれた！
千代） ほんまや。きれえやなあ！
糸子） ぴかぴかや～！
外国のんかな？ うれしいな～！
何入れて使おかな！
（ふたを開ける糸子）
糸子） 何か入ってる。
（貞子からの手紙を読んでいる千代）
千代） 何や糸子箱ちゃうやん。洋服やて。
（包みをめくる糸子）
（中には淡いピンクのワンピース）
千代） 「外国のお客さんから頂いたん
やけど、おばあちゃんとこには男の子
しかおらんから、うちで着なさい」やて。
糸子） うわ～い！
わ～い、ドレムや、ドレムや！
あんたらこれがドレムやで！ ドレム！
千代） ドレム？ ドレスの事か？
糸子） どないしよう！ ドレムや！
千代） ドレスやて。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
うちはもううれしゅうてうれしゅうて
善作） 何じゃそら？
糸子） ドレスや！
やっとドレスちゅう名前も覚えて
糸子） おばあちゃん見て見て！
ハル） え？
うわ、珍しいもんもうたんやな。
糸子） ドレスやで！
ハル） 着てみいな。
糸子） え～え～恥ずかしいなあ～。
けど着てくるわ！
せやのにほんまに残念やったんは
千代） やっぱしぴったりや～。静子に。
ドレスはうちには、小さすぎた事です。
静子） きれえなあ～。
千代） 髪もな、ここに、リボンつけたら、
お人形さんみたいや。
糸子） うちかて着れる！
千代） 入らんもんは入らへんの。
しゃあないやんか。
無理したら破けてしまうやろ。
清子） なあ、うちも大きなったら着たい。
千代） せやな。静姉ちゃんにちいちゃ
なったら、あんたが着ような。
光子） うちも。
千代） せやな。清姉ちゃんちっちゃ
なったら、光ちゃん着ような～。
だんじりと一緒や。
手に入りそうで入らへん。
ほんでもよう考えたら、
１個だけだんじりとちゃうのは、
女のうちにも、いつかは
手に入るかもしれへん。
ちゅうところです。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
修身の教科書の内容にうんざりする。この
時代に生まれなくて本当によかったよ～。
何で女に生まれてしもたんやろ？
女は男より弱ぁて、
だんじりも曳かれへん。
やりたい仕事もな～んもでけへん。
女が大人になったら、
年がら年中家おって、
一日中男に叱られて。
それが済んだら、台所で、
いわしばっかり炊くんや。
そりゃ嫌だわ。嫌で嫌でたまらなくなるわ。
これくらいしっかり描いてくれると、糸子の
嫌になる気持ちが、リアルに伝わってくる。
ホント、今の時代に生まれてよかった…。
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