私、実は若い頃、同棲していたことがあるんです。
もちろん、今の夫と結婚前にね。
当時、夫が一人暮らしで住んでいた1Kに私が転がり込んで・・・・。
そうなったいきさつにはいろいろと家庭の事情があったのですが、その話はまた別の機会に。
今回は、そのときにおこったある出来事のお話。
ある休みの日の朝。
猫の鳴き声で目が覚めました。
ニャ~~~~~~ニャ~~~~~~~~と、外でひたすら鳴いていて。
誰かを呼んでいるような、探しているような、そんな鳴き声でした。
そっとカーテンを開け外を見ると、隣に建っている家の屋根の上に白い猫が。
窓を開けベランダに出ると・・・・その猫ちゃんがだーーーっとこっちに駆け寄ってきて。
ベランダの下まで来て、こっちを見ながらにゃーにゃー鳴くのです。
当時住んでいた部屋は1階角部屋だったのですが、1階でも地面から2メートルほど高い位置に部屋があったのです。
こっちに来たがっていましたが、その高さを上ることができず。
するとその猫ちゃん、急にだーーっと行ってしまいました。
あら行っちゃった・・・と思ったら・・・なんと、部屋の反対側に周って、玄関側の方からニャーニャー鳴き声が!
あらぁ・・・・こっちから来た;;
反対側に周れば入れるってよくわかったね。
ここまで来ちゃったら、もう部屋に入れるしかないじゃない。
玄関を開けると喜んで入ってきて。
本当に綺麗な猫ちゃん。
頭をグリグリ押し付けてきて甘えてきたかと思えば、狭い1Kの部屋を走り回ってはしゃいだり。
本当に人間によく慣れている。
本当に真っ白なので、勝手に『しろ』と呼びながら、楽しい時間を過ごしました。
しろはいったいどうしたんだろう。
このあたりは大学が近くて、一人暮らしの大学生が多かったのです。
その学生が引越しをして、飼っていたしろを捨ててっちゃったのかな。
それなら、私がこのままここでしろと一緒に暮らしたい。
でもここのマンションはペット禁止。
飼うわけにはいきません。
それに万が一よその家の飼い猫だったらいけないので、夜には外に出してあげました。
しろも満足したようで、どこかへ行ってしまいました。
・・・・・・次の日の早朝。
玄関側からにゃ~~~~にゃ~~~~~と、しろが!
あ・・・・また来た・・・・・。
私は入れてやりたい衝動に駆られたのですが、夫が・・・「これ以上入れたらダメ!」と・・。
そのまましらんぷりしていたのですが、いつまでもいつまでも鳴き続けるのです。
このままだとご近所に迷惑がかかるので、夫は新聞紙を丸めて外へ行き・・・。
しっ!しっ!と、冷たく追い払い、しろはどこかへ行ってしまいました。
その後二人でしょんぼり。。。。。
夫だって、血も涙もない鬼じゃありません。
しろをかわいいと思っていた気持ちは同じ。
でも心を鬼にして、追い払ってくれたのです。
しろからしたら、お散歩からただいま♪って帰ってきたつもりだったんでしょう。
それなのに、昨日は優しくしてくれたのになんで??って、裏切られた気持ちになったんだろうな。。。
そう思うと胸が痛くて痛くて・・・。
中途半端な優しさは、余計に傷つけてしまうんだな。
全て私のせいだ。
本当にごめんなさい。
その日以降、ときどき遠くの方でしろらしき声が聞こえることがありましたが、その声が近づいてくることはありませんでした。
しろの事だから、いろんな人に可愛がられながら幸せに暮らしているだろう、そう思っていました。
・・・・・数か月後。
そんなしろのことも忘れかけていました。
夫は仕事で私は休みのとある日。
私は部屋でくつろいでいました。
すると、玄関の外からにゃ~~・・・にゃ~~~・・と鳴き声が!
あ!しろだ!
私はどうしようか迷いましたが、思い切って玄関を開けました。
そこには、少し印象の変わったあのしろが。
しろだ…また来てくれたんだ。
以前みたいな綺麗さは消え、薄汚れた雰囲気。
心なしか目つきが鋭くなったようにも思います。
しろの風貌の変化は、野良猫の厳しい世界を物語っているようでした。
そんなしろが、少し警戒しながらおそるおそる近づいてきて。
「しろちゃん・・・・あのときはごめんね・・・・頑張って生きてるんだね・・・」
私はしろにそう話し掛けながら、優しくなでてあげました。
しろはじーっとしながらひとしきりなでられたあと、決して部屋に入ってこようとはせず、ぷいと、どこかへ行ってしまいました。
私はそんなしろを、見えなくなるまでずっと…ずっと、見送りました。
それ以降、しろの声を聞くことも、姿を見ることも、ありませんでした。
しろ、どこか遠くへ行ってしまったのかな。
最後に、顔を見せに来てくれたのかな。
この場所をちゃんと覚えていてくれたんだね。
あんな酷い仕打ちをしたのに、また逢いに来てくれたんだね。
しろ、本当にありがとう。
大好きだからね。
※画像はお借りしました