しょくばの方にオススメ&お借りして、
『風雲児<上・下>』という
タイ・アユタヤを舞台にした
歴史小説読みました。
タイに住んでいる日本人なら、当然名前くらいは知っているであろう、山田長政。
江戸時代初期に、
日本からタイ(シャム)に渡り、
アユタヤ日本人町の頭領となり、
アユタヤ国王から王女を下賜され、
アユタヤ国の高官まで上り詰め、
属国・リゴールの国王にまでなった人。
しかしその出自は、駿河の国の町人出身で、
沼津藩で駕籠かきをしていたような
いわゆる平民の身分。
もしかしたらこの出世ストーリーは、
下剋上の戦国乱世の記憶も新しい
<江戸初期>という時代背景があったからこそだったのかもしれないな、と思う。
もしもこれが戦国の血なまぐささも薄れた江戸中後期であったらば、感覚として、そこまでの攻めの姿勢はなく、受け…もとい守りの姿勢をとってしまい、そもそもシャムに行こうとか、ましてや外国でひと旗あげようとか、そういうハードルがもっと高かったのではないだろうか。
物理的にも、
・家光による鎖国制度が行われる以前
・戦の経験を持つ浪人たちがアユタヤに多く身を寄せていた
ことにより、
日本国との貿易のつながり、日本人傭兵隊の強さを保つことが出来たからこその出世であったとも言えるだろう。
つまるところ、
山田長政という傑人
×
時代の追い風
この2つが上手く折り重なることによって、
この出世ストーリーが確立したのだろうと
小説を読みながら、改めてそう思った。
ところで、恥ずかしながら私はそれまで
長政についてあまり詳しくは知らなかった。
Wikipediaで書かれている程度の知識はあったものの、それは表面上のみの薄っぺらいもので、血肉の通うような情報ではなかった。
今回読んだのは、山田長政に関する物語をいくつか読んだ上でのオススメとして紹介してくれた小説なだけあって、とても面白いものでした。
正直なところ、史実としては怪しい部分も多く、創作がこの小説のほとんどを占めているだろうとは思っています。
本書では、日本人傭兵隊は全員が志願して加わっているように思えるものだったが、実際のところ、ルイス・フロイス著の『日本史』でもシャム人が日本人を奴隷として買い求めていた旨が記されており、日本人傭兵隊にも恐らくこうした奴隷が含まれていたのではないかと思う。
秀吉による「伴天連追放令」の中でも日本人を国外に奴隷として売買するのを禁じようとしていたことから、日本人奴隷は公然として起きていた。
そうした日本人奴隷がシャム人に使われていたのだろうとは想像に難くない。真実は定かではないけれど。
しかし史実どうこう以上に、
ぐいぐいと迫り来る展開に先が気になって
ページをめくる手が止まらず、
切迫した戦いのシーンでは息を詰めながら、
そうしてあっという間に
上下巻の2冊を読み終えてしまいました。
特に 船戦のシーンは面白い!
投げ炮烙や火船の登場には、本当にワクワクした。
船の強さが段違いに格上の異国の船ですら、得意とする奇襲戦で撤退させる。
元・村上水軍の人物なども登場し、その戦い方に痺れるしかなかった。
中でもスペイン船(だったと思う…)に仕掛けた奇襲作戦は、本当にもう、さすがだな、と。
奇襲を警戒する敵船に、わざと正面から燃えさかる船を近寄らせてそちらに注意を寄せ、その隙に背後から夜陰に紛れて音も立てずにそっと小舟で近づき、気づけば敵船に乗り込んでいたなんていう下りは、もう本当、最高すぎる!
この戦い方、忍術で言うなら「水月の術」!
…という、卒論テーマが「忍術」の日本史学専攻者。ふふふ(*´艸`*)
いやあ、実に面白い。
こういう奇襲戦法は本当に大好きです。
話戻して。
この小説では、全体的に、
・長政の人徳
・運と時の流れ
によって立身出世を進めていく中で、この船戦の前後では、積極的戦略においてその地位を確固たるものにしている様子が顕著なので、他の見どころに比べると「長政って大胆で頭の良い人なんだな」と思わせてくれるシーンでもありました。
滾る!!物語を読んでいて、もうひとつワクワクしたのが、在住者ならではの「知っている」という優越感。
日本人町のあるアユタヤ周辺の地理的な情報はもちろんのこと、ロッブリやチェンマイ、ピサヌロークのようなタイ国内の身近な地名が出てきたり、アユタヤ国のナレスワン王の存在、雨季のタイミングやスコールの強さ、ゾウさんの戦い方…
もちろんそれらを詳しく知っている訳ではないけれど、他国が舞台の物語よりもずっと、想像力に現実味を帯びていて、それが楽しくて楽しくて。
長政が国王に任じられたリゴールの地も、サムイ島やタオ島のあたりかなあって考えたら、青い海や緑の山々の情景まで浮かんでくるようで、いっしょに旅をしているようで面白い。
登場するシャム人の性格にも、思わず笑ってしまう。
「ここの人達はみんなが昼寝をするのですか」
「ああそうじゃ。どんな火急の用があっても、かまわずに寝る」
『風雲児<上>(白石一郎)』「黄金の都」より
なんだか…なんだか想像がついてしまって、その様子に困惑する姿まで思い浮かぶようで、ついつい笑みがこぼれてしまう(*´艸`*)
実に面白い!
長政の最期は毒殺によって終わるのだけれど、その犯人も「なるほどな」というものだった。
史実では犯人は分かっておらず(裏で操る者の想像は難くないが)、物語の上では大いに創作だろうと思うものの、ストーリーの構成上として上手いとしか言いようがない。
なるほどな。
今まで山田長政に関しては、そこまで強い関心はなかったのだけれども、これを機に彼に関するいろんな物語や文献をあたってみたいと思いました。
あとはもう一度、
タイの歴史に関するものを読み返したいな。
そして何より、彼らが生き抜いた
アユタヤに行きたい。
ただの歴史小説ではなく、
好奇心を大いに引き出してくれた2冊でした。
面白かった〜!ヾ(*´∀`)ノ