息子は3月に親元を離れ東京で予備校に通っています。5月、彼は台東区根岸にある正岡子規の旧家「子規庵」を見学に行ったそうです。司馬遼太郎の「坂の上の雲」で知りファンになりました。その折、子規庵にて糸瓜(へちま)の種をプレゼントされました。実際に庭の糸瓜から採った種です。
正岡子規の机に座る息子。庭には糸瓜が植えられている。
子規ファンにとって「糸瓜」は特別な植物です。子規は結核を患い34歳という若さでこの根岸の家で亡くなりました。糸瓜は寝たきりの病床からでも見えるよう植えられました。また糸瓜水は痰(たん)を取る薬として当時使われていました。亡くなる前日に詠まれた「絶筆三句」から子規と糸瓜の関係性の深さが読み取れます。
●糸瓜咲いて痰のつまりし仏かな
●痰一寸糸瓜の水にも間に合わず
●をとといのへちまの水も取らざりき
「糸瓜咲いて」その可憐な花を眺め、「仏かな」死期を悟るも、「痰一寸」それもつかの間、苦しさにかき乱され、「へちまの水も取らざりき」自身の運命を悔やむ辞世の心情が、身内の不幸のようにリアルに感じ取れます。
さて、息子がもらった糸瓜の種ですが、東京の寮では如何せん育てられず、大分で育ててほしいとお願いされ、妻がプランターに植えました。
以下、観察日記です。
5つの種の4つから芽が出て・・・
6月に茎が伸びツルを巻き始め・・・
7月猛暑に負けず背を伸ばし・・
健気に黄色い花をつけ・・・
8月、ついに、実をつけたのです!
植物好きで”目がいい”妻が見つけて、私に教えてくれました。とても、とても感動しました。それは真夏の東京で受験勉強に励む息子の姿に重なりました。さっそく、↑の糸瓜の実の画像を息子にLINEでおくりました。
ここで一句。
●実が生りて息子にライン子規へちま
妻も連作で詠みました。
●糸瓜生り息子の便り待ちわびる
子規庵の糸瓜が、我が家にとって「特別な夏」の思い出をつくってくれました。