あの人の事、許してあげてね。
私が心から慕う人に、そう言われた事がある。
別に、あの人に謝ってもらいたいとか。
許してほしいとか、言われた事は無い。
だから私と、あの人をよく知る当人以外の人に、そう言われた日は本当にびっくりした。
私だって迷惑をかけたのだから、きっとお互い様だった。
人間だもの、自分の事を、周りでとても悪く言われていたのが聞こえてきたら、悔しくなったり不条理だと感じるのは当然の事。
だけど、まさかそんな風に間接的に言われるなんて夢にも思わなかった。と同時に、ずっと引きずってきて重かった失望の荷が、肩から背中から、スーっと下ろされていく体感を心と身体の両方で感じた。
ささくれだった傷を柔らかく癒してくれる言葉だった。
私達の周りには、人を癒す言葉と、人を滅ぼす言葉の両方が存在している。
癒す言葉にはバトンが付いている。
だから自分が癒された言葉をバトンにして、私は今日の貴方に渡したい。
許してあげてね。
貴方が、ずっと許せなくて心が疲弊して、明日が見えないなら、受け取って下さい。
そして又、そのバトンを貴方の大切な誰かに繋いでほしい。
あの時の貴方と、あの人は、二人とも生きるのに精一杯だった。不器用で、不必要に傷つけあったけど、それが、その時の精一杯だった。
不完全な人間同士がぶつかり合った。
バトンを渡していこう。貴方の次に、癒される誰かのほぐれた心を思い浮かべながら。