例えば
昨夜のような涼しい夜に

僕は、
あの夜のことを思い出すことがある。

キミが、
突然、この世からいなくなった
9年前の秋。


もう、うちに来なくなった
9年前の秋。


あの夜にキミは
いなくなった。


キミは
氷の枕で普通に寝てて
何が何だか
分からなかった。


葬儀で読んだワープロ打ちの弔辞は
ご両親にお譲りしたし、
もう手元にはないし、
内容も、覚えていない。

弔辞を述べながら、僕が泣いたから
みんな、泣いたのか。

みんなが泣いたから、僕が泣いたのか。


書いた内容にウソはない。


ただ、
一度も本人に言ったこと
ないことばかりで。


きっと、キミが耳にしたのなら
照れくさそうに
そっぽを向いてしまうような
セリフばかり。

そんなことは、生きていれば、
いつか言えるだろうと思ってたし、

生きていれば、言う必要なんて
なかっただろ?


キミが吸ってたタバコの銘柄も

キミが聴いてた音楽も

キミが煙になったとき、
空はどんな色だったかも

もう、いろんなことを
思い出せないようになってきた。

あれから9年が経ち
僕はもう30になろうとしてるのに


前に進めないまま


キミは、
今も変わらず

長い髪に、咥えタバコで。