有線放送の「週間J-POPチャート」というチャンネルが流れている場所にいることが多い。ここで流れる曲は私が趣味で聴いているものとは異なる場合が多いので、あくまでその場のBGMとして聴いている。
最近は大好きなこぶしファクトリーの「桜ナイトフィーバー」がよくかかるので、その時は気持ちがかなり盛り上る。この「桜ナイトフィーバー」だが、2月29日付オリコン週間シングル・ランキングで初登場1位を記録したようである。ハロー!プロジェクト所属のグループとしては、モーニング娘。'16、Juice=Juiceに続き、3組目の快挙である。
なお、同じ週の2位は放課後プリンセスの「純白アントワネット」なのだが、メンバーの道重佐保は、2014年までモーニング娘。'14のメンバーだった道重さゆみのはとこである。
有線放送の「週間J-POPチャート」チャンネルでは、モーニング娘。'15の「冷たい風と片思い」もずっとかかっている。
モーニング娘。は2014年からグループ名の最後にその年を入れるようになったのだが、2016年の現在はモーニング娘。'16ということになっている。「冷たい風と片思い」が収録された最新シングルは2015年12月29日に発売されたため、アーティスト名はモーニング娘。'15となっている。
モーニング娘。の新曲は発売されると何週間かは「週間J-POPチャート」のチャンネルで流れるのだが、あまり長くは流れない印象である。同じハロー!プロジェクトでも、こぶしファクトリーの「ドスコイ!ケンキョにダイタン」はかなり長く流れていたし、元モーニング娘。の田中れいなが率いるガール・バンド、LoVendoЯ(ラベンダー)の「いいんじゃない?」は新曲が出たいまもまだ流れている。
「冷たい風と片思い」は発売されてから2ヶ月になろうとしているので、気になって調べてみたところ、有線放送のランキングでずっと上位にいることを知り、驚いている。
まず発売された12月最終週に25位で初登場しているのだが、年が明けて最初のチャートで12位、その翌週に4位と大きく順位を上げ、その後、4位、5位、6位、7位、9位と、じわじわと順位は下げつつも、ずっと上位にとどまり続けている。
なお、前作の「oh my wish!」について調べてみたのだが、チャート圏外の「HOT SELECT」という枠に2週間流れていただけで、30位以内には一度も入っていなかった。
オリコン週間シングル・ランキングのアクションも調べてみた。モーニング娘。のシングルはだいたい発売初週が最高位であり、それ以降は一直線に順位を下げ、数週間で圏外になる。
たとえば、前作の「oh my wish!/スカッとMy Heart/今すぐ飛び込む勇気」は2位→24位→37位→123位、前々作の「青春小僧が泣いている/夕暮れは雨上がり/イマココカラ」は2位→25位→48位→98位といった具合である。
ところが、「冷たい風と片思い/ENDLESS SKY/One and Only」の場合は、1位→14位→8位→28位→158位→97位→75位と、ひじょうにおもしろい動き方をしている。
これはもしかすると固定ファン以外の人達が、楽曲そのものを支持しているということなのではないだろうか。
私はこの「冷たい風と片思い」という曲を、発売よりも前に聴いている。それは2015年12月8日に日本武道館で開催された、モーニング娘。'15のコンサートにおいてであった。
初めて聴いた時の印象は、ものすごく地味だなというものであった。同じシングルに収録された「ENDLESS SKY」と「One and Only」はアンコールで披露されたこともあり、とても印象に残った。「ENDLESS SKY」は2015年いっぱいで卒業することになっていたメンバー、鞘師里保の境遇にも重なる内容の曲であり、パフォーマンス中に鞘師里保が泣きかけてしまうという場面もあった。また、「One and Only」は歌詞が全編英語であり、曲調もひじょうにポップでキャッチーなものであった。
これに対し、「冷たい風と片思い」はコンサート本編の中で、定番曲の流れの中でパフォーマンスされ、あまり印象に残らなかった。
しかし、これが何度も聴いているうちに、じわじわとその良さが分ってくる。俗にいうスルメ曲というやつだろうか。
この曲の作者であるつんく♂のライナーノーツによると、当初は鞘師里保のソロ曲として書かれたようなのだが、最終的にグループ全員で歌うことになったらしい。
ファンキーなギターのフレーズとシンセベースを基調としたエレポップ風のサウンド、そこに切なさ炸裂のメロディーが乗る。このような構造のメジャーなヒット曲はじつはかなりユニークなのではないかと思うのだ。
思春期にはもちろん好きな人ができたりはするのだが、それも片思いで冬ともなると、さらに切ないわけである。そんな時、ある日突然、ヒット曲のあるフレーズがいまの自分自身の心境をまさに言い当てているように、リアルにヴィヴィッドに響いてきたことはないだろうか。
既婚者にしてナイスでメロウないい大人である私にとって、そのような感情は遠いいにしえの記憶にしか過ぎない。
それでも、私にはこの曲が今日の思春期を生きるいたいけな若者たちにとって、そのような曲になりうる可能性を持っているのではないかと思えるのである。
片思いをしているがその思いを伝えない、その理由は、それによって近くにいることが永遠にできなくなるかもしれないからである。
そして、まさに今日、つんく♂のライナーノーツを読んで知ったのだが、ここには、いまは近くにいるのだが、もう少しで離ればなれになってしまうかもしれないという設定まで入っているようである。
ここまでは想像が及ばなかったのだが、つまり、卒業ということであろう。ここには斉藤由貴や菊池桃子も「卒業」、あるいは柏原芳恵の「春なのに」といった、つんく♂が青春時代に親しんだであろう1980年代の卒業ソングクラシックスまでもが視野に入っている。そして、これをモーニング娘。を「卒業」する鞘師里保が歌うわけである。
私がこの曲の良さが分ってきた頃に注目した歌詞は、「究極の選択だけは 絶対したくない」という部分であった。つまり、相手に思いを告げることによって、恋が成就するか、もしくは永遠にもう会えないような関係になってしまうか、ということである。
そして、ライナーノーツによると、つんく♂本人のお気に入りは「離れ離れになるなら 一人ぼっちで居れるよ」という部分らしい。これは、「永遠に会えない状態になるくらいなら このままずっと会えなくっても、いつか会えるかもしれないって思っている方が幸せ」ということらしい。深い。
江戸時代に武士道を説いた「葉隠」によると、至極の恋とは「忍ぶ恋」、つまり相手に気づかれない恋だという。
そのような覚悟すら感じるところもあるのだが、「冷たい風と片思い」においては、最後に「気づいてよ」と切なく歌われ、ここがまたグッとくるわけである。
まったくの余談だが、私はモーニング娘。'16のメンバーでは佐藤優樹のことが好きすぎてつらいほどなのだが、「冷たい風と片思い」においても、ソロパートの「長くなっていた」の部分に最もキュンキュンしているわけだが、やはり全体的にも素晴らしい作品だと思うわけである。
モーニング娘。60枚目となったこのシングルだが、グループ史上19番目の売上げを記録している。このうち上位16位までは、国民的アイドルと呼ばれていた2002年までの作品で占められている。つまり、ここ13年間においては、「笑顔の君は太陽さ/君の代わりは居やしない/What is LOVE?」、「わがまま 気のまま 愛のジョーク/愛の軍団」に続き、3番目の売上げを記録している。
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