ライ・クーダー『Into The Purple Valley』 | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

以前、 ライ・クーダーのデビュー・アルバムのプロモーション・フィルムを紹介しました。
http://s.ameblo.jp/ryusyun-sun/entry-12006553404.html


今回は、彼の初期3作品の中では最も評価の高い『 Into the Purple Valley 』を取り上げてみます。


これは、いつだったかは忘れましたが、10年以上前にディスクユニオンか、今はなきブックオフ原宿店(ここは場所柄、いいものが多かったですね)で500~700円ぐらいで購入しました。
ライ・クーダーで、レンタル店に比較的、置いてあるのは『Chicken Skin Music』『Paris, Texas 』あたりですね。


1971年の作品
紫の峡谷/ライ・クーダー

¥1,419
Amazon.co.jp


昔のアメリカのコメディ映画のワンシーンのようなジャケットですね。
悪天候の中、オープンカーで不安げなドライブを続ける二人(ライと妻のスーザン)


裏ジャケでは雨が上がって青空、笑顔で快適なドライブ



プロデュースは前作のヴァン・ダイク・パークスから、ジム・ディッキンソンとワーナーの社員プロデューサー、レニー・ワロンカーの共同プロデュースに交替しています。


ライはファーストでのストリングスを多用するヴァン・ダイクの音作りが気に入らなかったようですが、南部出身のジム・ディッキンソン(ピアノでも参加してます)がプロデュースに加わることにより、ライの希望した土臭い雰囲気に仕上がっています。


ヴァン・ダイク・パークスの、古きアメリカをテーマにしたアルバム『Discover America』を聴く限りではライとヴァン・ダイクの音楽的志向性は同じように感じられます。
ただし、ヴァン・ダイクの他のアルバムを聴くと分かるのですが、彼が目指しているのは、いまここの現実ではない異空間を音で作り上げることなんですね。
対して、ライはあくまでミュージシャンとしてルーツ・ミュージックを探求している人です。
そのあたりの音楽に対する姿勢の違いが、プロデューサー交替の真相ではないでしょうか。




まずは、この曲、
ドリフターズ (8時だョ!ではないほう)のレパートリーから"Money Honey"
50年代から60年代にかけて活躍した黒人男性ボーカル・グループです。



このツボを心得たドラムスの入り方いいですねえ。やはり、ライ・クーダーのバックで叩くドラマーはジム・ケルトナーに限ります。


エレキ・ギターとマンドリンはライの演奏による多重録音。ベースは前作と同じクリス・エスリッジ。このピアノはジム・ディッキンソンかな。
バック・ボーカルにはクラウディア・リニアも参加しています。


画像でも判るとおり、この曲はライ・クーダーのベスト盤にも入っている曲なので、彼の曲としてはキャッチーな方です。
オリジナルは30年代から40年代に活躍したR&Bシンガー、ジェシー・ストーン。


ライ・クーダーは1947年の生まれ。
戦前の古い歌などはオリジナルで聴いているはずもないので、このアルバムに収録されている古い曲はドリフターズのように、彼より1世代前ぐらいのアーティストのカバーで知ったようですね。


The Drifters (1953- )


他の収録曲では1940年代から活躍したフォーク・シンガー、シス・カニンガムの"How Can You Keep Moving"や伝承曲(トラディショナル)の"Taxes On The Farmer Feeds Us All"はピート・シガーの弟、マイク・シガーのバンドニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのカバーでライは知ったということです。
でもって、私はライ・クーダーのアルバムでこれらの歌を知ったわけです。
これも一種の「歌の伝承」ですよね。私は歌ってませんが(笑)


The New Lost City Ramblers
(1958-? )




ライ・クーダーの名人芸と言われるギター・プレイも実際に見てみましょうか。
この曲では押弦のフィンガー・ピッキングと小指にはめたボトルネットのスライドの両方を織り交ぜて演奏しているのですが、こういう場合のチューニングはどういうふうにやるんでしょうか?


曲はボブ・ディランに多大な影響を与えたフォーク・シンガーウディ・ガスリーの作品"Vigilante Man"です。



この曲のタイトル"Vigilante Man"とは
自警団員という意味で、労働者の反抗を暴力を使ってでも押さえ込もうとする人々のこと。
このウディ・ガスリーのプロテスト・フォークをアコースティック・スライドによるブルースっぽい解釈でプレイしています。



Woody Guthrie (1912-1967)




次の動画は水上を滑るカヌーから撮影されたもののようですが、いいですね。
ライ・クーダーの音楽はこういう自然の中で聴くとはまります。
私もキャンプによく行ってた頃、お世話になりました。
"On a Monday"をどうぞ



アコースティック・スライドの間奏が最高ですね。ジム・ケルトナーとクリス・エスリッジのリズムセクションもタイトでよし。


この曲の作者は刑務所に服役中のところを発見された黒人ブルースマン
レッドベリー



Leadbelly (1889-1949)


もの凄い数の歌を記憶しており、それを見事に歌ってみせ「歩くアメリカ民族音楽記念館」と呼ばれた男です。
さらに彼が歌ったのはブルースだけではなく、歴史上の出来事を伝承したバラッド、奴隷たちや囚人たちが歌っていた労働歌まであり、ウディ・ガスリーやピート・シガーのフォーク・リバイバルに直接、影響を与えることになります。

このアルバムの収録曲はすべてアメリカの古い歌のカバーなので、ライがどのような音楽から影響を受けて、彼の独自の音楽を形成していったのかが、よく分かります。




最後には、やはりアコースティック・ギターのインスト・ナンバーが聴きたいですね。
こちらはバハマのギタリスト、ジョセフ・スペンスの曲。
スライドなしのフィンガー・ピッキングも絶品です。
"Great Dream From Heaven"



この曲にしても、ラテン臭さが強くないので気づきませんでしたが、他にもカリプソ・ナンバーの"FDR in Trinidad"も収録されており、ライはすでにこの時期から中南米の音楽にもアプローチを始めていたことが判ります。
これが、1997年にキューバのミュージシャンとのセッションにより制作されたラテン・アルバムの世界的なヒット作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』へと結実するわけです。

ちなみに、 "Great Dream From Heaven"は日本のディープ・サウス、勝浦在住のギタリスト、 濱口祐自さんも「ええのおっ、この曲」と言ってレパートリーにしています。



正直、このアルバムはロック・リスナーの耳には退屈かもしれませんが、バーボンでも飲りながら、まったりするにはいいですね。



こちらは見開きのジャケ写真。目的地に到着かな



さすがは映画会社のワーナー・ブラザース。ストーリー性のあるアートワークです。
アナログのLPレコードも欲しくなる1枚ですね。