新稀少堂日記 第4回「安楽病棟」(ねたばれミステリー) | 新稀少堂日記

新稀少堂日記 第4回「安楽病棟」(ねたばれミステリー)

 帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏は、ストーリーの構成も、文体も非常に素晴らしいところのある作家です。直木賞を未だにとっていないことが、不思議に感じられます。経歴も、文学部卒業後、医学部を新たに受験し、卒 業したとのことです。精神科医のかたわら、小説もお書きになっています。

 
 では、この小説の完成度はと言いますと、さほど高くないのが実情です。しかし、重たい問題提起をしています。内容は、タイトルのとおりです。認知症病棟での不可解な老人達の死を描いています。そして、老人達の生と性も、・・・・・。最初の数章は、入院患者の手記風の内容です。数々の認知症の症例が紹介されていきます。


 主人公は、新任の看護師(女性)です。しかし、病院の看護勤務にも慣れ、時間が経つうちに、病院内で不可解な現象が起きていることに気付き始めます・・・・。ミステリーとして傑作というよりも、社会派ドラマです。何年かに一度は、医師による「安楽死」が報道されます。殺人罪で、起訴されたと・・・・。

 

 この小説の良さは、医師の視点から、オランダの安楽死の事情を詳細に説明している点です。オランダは、ドラッグ関係でも、喫茶店でオープンに販売するなど、ヨーロッパだけでなく、世界一先進的な国家ではないでしょうか。ドラッグの害よりも、地下に潜ることよるマフィアの暗躍による被害の拡大の方を重視したためと言われています。




 そして、「安楽死」についても、先進的です。では、日本人はどのように望んでいるのでしょうか。最近、「後期老人」の保健制度の問題が話題になっています。支払については最小限に、受取につきましては最大限に、誰しもの願いです。民主党の主張は、素晴らしいのです。では、それで制度が成り立つのでしょうか、・・・・。


 「1984」とか、「素晴らしい新世界」が成立するのであればいいのですが・・・・。ゾンビたちは、「ナイト・オブ・リビング・デッド」(ゾンビの雌伏期)から、「ドーン・オブ・ザ・デッド」(ゾンビの全盛期)を迎えようとしています。ゾンビの主張に全面的に迎合する必要はないのですが、・・・。「子どものすねをかじる親」たちは、やはり異常です。私も踏み込んでいる「ゾンビ」(生ける死者たち、別名「老人」といいますが)が、青年たちの肉・脳をむさぼることには、抵抗があります。


 日本も、本格的にロメロ・ワールド(ロメロ監督の描いたゾンビ世界)に入っています。その一石が「安楽病棟」です。ですが、著者は決して安楽死を容認していません・・・・。小説の完成度とは別に、考えさせられる小説です。