第27回「カラマーゾフの兄弟」(文学) | 新稀少堂日記

第27回「カラマーゾフの兄弟」(文学)

 第27回は、「カラマーゾフの兄弟」(文学)です。昨年のベストセラーと言えば、「女性の品格」とか、「ホームレス中学生」が浮かびます。しかし、隠れたベストセラーとして、この「カラマーゾフの兄弟」が50万部売れたとのことです。NHKのシリーズ番組の中での紹介です。正直、「本当かな」というのが実感です。


 現代人の感性を持った画家としては、1800年をはさんで活躍したゴヤが思い出されます。宮廷画家でありながら、彼の絵には自己主張かがあります。当時の画家は、芸術家ではなく職人でした。そういう環境の中で、ゴヤは現代人に通じる感性を絵画の中に、表現しました。


 そして、ドストエフスキーです。モチーフとして、「親殺し」を扱っています。粗暴であるが、情熱に動かされる長男・ドミートリイ。冷静な知識人である次男・イワン。真面目な修道僧である三男・アリョーシャ。さらに、庶子との噂があり、一癖も二癖もあるスメルジャコフ。そして、魁偉かつ俗物である父親のフョードル。


 これらの人物が織りなす、一大長編小説です。読破するのには、かなり時間がかかります。正直、漫画すら読まなくなった世代の人々が、50万人も、読もうとしたことが信じられません。舞台は、19世紀ロシアですが、登場人物の持つ「心の闇」と「信念の光」は、現代そのものです。


 ドストエフスキーは、第2部を構想していたようです。敬虔な宗教者である三男・アリョーシャが、信仰に疑問を持ち、皇帝暗殺を企てるストーリーのようです。当然、当時のロシアで出版される内容ではありませんが、・・・・・。


 ドラマの後半は、父親のフョードルが殺され、長男ドミートリイが容疑者として逮捕される一方、庶子スメルジャコフが父親殺しを告白する展開となります。そして、最も有名な挿話「大審問官」が提示されます。中世にキリストが降臨する話です。大審問官が、キリストと知りながら、異端審問で処刑します。実際、そのような発言をした大審問官も実在したようです。


 この小説は、多様です。宗教をどう考えるか、家族はどうあるべきか、それ以上に、個人はどう生きるべきか。50万部売れたと言うことに、疑問を感じていますが、読まれていることは良いことです・・・・。