第9373回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その7、マハラジャの財宝、その8&9、他2作、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9373回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その7、マハラジャの財宝、その8&9、他2作、ネタバレ」

 第9373回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その7、マハラジャの財宝、その8、塀についたドア その9、ダイヤモンド製造家、ストーリー、ネタバレ」です。


「その7、マハラジャの財宝」(奇妙な味、ブラック・ユーモア)

 一読すると、その馬鹿馬鹿しさゆえに、一生忘れることのない短編です・・・・。便宜上、サブタイトルをつけさせていただきます。


『マハラジャが設置させた巨大金庫』

 ヒマラヤに近接するミンダボアを統治していたのが、マハラジャのラジャでした。この地域は、多宗教国家であったインドでもムスリムが支配的なエリアでしたし、ラジャ自身、敬虔なムスリムでした。そんなラジャが最近とみに蓄財に勤め始めたのです。兵士への給料の不払いに始まり、塩税、通行税などを次々と上げていきます。その富は想像を絶すると言われていました。


 そして、イギリス人商人に命じて作らせたのが、金庫室とも言うべき難攻不落の巨大金庫でした。謁見室の背後に作られた金庫から出て来た時には、財宝の輝きに圧倒されたのでしょうか、ラジャの顔が赤らんでいたと言われています。一日に一度は必ず金庫の中に入っていたようです。「マハラジャは毎日、財宝を数えに行かれるのだ」、もちろん、その噂は全インドに流布されました。


 ですが、金庫を開ける番号を知っているのはラジャだけでしたし、鍵を持つ者もラジャしかいません。ところで、次なるマハラジャの世襲者が従兄弟のアジム・カーン、ラジャを補佐する大臣がゴーラム・シャーでしたが、ラジャのやり方には反発を抱いていました。


 ただ、アジム・カーンとしては今ことさらに動く必要はありません。待っていれば、いずれラジャの死と共に、マハラジャのの地位は転げ込んでくるのですから・・・・。積極的に動いていたのが、ゴーラム・シャーでした。優柔不断なアジム・カーンの背中を押し、ついにクーデターに打って出ます。


『破れぬ金庫』

 追いつめられたラジャに止(とどめ)めをさしたのは、従兄弟のアジム・カーンでした。アジム・カーンは早速兵士たちに命じて、金庫を開かせようとしました。しかし、番号を知るのは死せるラジャのみ、鍵も見つかりません。工具で壊そうとしましたが、金庫はびくともしません。


 そして、爆薬を用意し、金庫の扉ごと吹き飛ばそうとしたのですがが・・・・。一方、一地方の反乱とは言え、大英帝国としても無視することはできません。送り込まれてきたのが副総督でした。まさしく爆破が行われようとしていた時に現地に到着したのです。


 副総督は迅速に対応します。アジム・カーンも血祭りにあげていたゴーラム・シヤーを逮捕させたのです。そして、問題は金庫です。開かない以上、最も手っ取り早い方法は、金庫を作った商人を呼びつけることでした。そして、金庫はついに開きます・・・・。


 あとわずかですが、以下、結末まで書きますので、ネタバレになります。


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 金庫室にあったのは、積まれたバーボン・ウィスキーの空き瓶の山でした。ムスリムの戒律は、厳しく飲酒を禁じています。そこで金庫室の中で飲み、空き瓶は金庫室の中に隠していたのです・・・・。


(蛇足) 巨万の富がウィスキーだけで消えたとは思えないのですが・・・・。いずこかに、未発見の財宝は隠されているのでしょうか。副総督の野望も、もちろん消えています。



「その8、塀についたドア」(異次元テーマ、ファンタジー)

 以下の2編は、既に書いているブログから再掲することにします。

 『 ある政治家に、人生の岐路ごとに現われるドアの物語です。最初に現われたのは、就学以前の子どもの頃です。彼は、緑色のドアの向こうに広がる秘密の庭園で不思議な体験をします。そして、(日本での)小学校、高校生の頃、二度現われるのですが、結局ドアを潜ることをしませんでした。


 彼は、常にそのドアのことが気になるのですが、現われるのは稀です。その後、主人公は政治家となります。この一年、3度ドアを見かけたのですが、結局中に入ることはありませんでした。彼は悔いています。ここまでが、彼が友人に話した話です。しかし、その後行方不明になり、そのドアを潜ったことを暗示して物語は終わります。余韻をひくストーリーです。 』


「その9、ダイヤモンド製造家」(リドル・ストーリー)

 『 人工ダイヤモンドが発明される以前の話です。ダイヤモンドを製造を可能にしたと自称するみすぼらしい男が、主人公のもとを訪れます。主人公は半信半疑です。2度ほど金を無心しますが、そのまま、その男は連絡が途絶えます。


 はたして、そのみすぼらしい男は、本当のことを語っていたのかという物語です。真実であれば、主人公は、大変なチャンスを逃したことになります。果たして・・・・。ダイヤモンドが黄金であれば、現代でも通用する話なのですが。 』


(追記) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。