第9376回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その10~12、デイヴィドソンの不思議な目 ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9376回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その10~12、デイヴィドソンの不思議な目 ネタバレ」

 第9376回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その10、デイヴィドソンの不思議な目 その11、故エルヴシャム氏の物語 その12、森の中の宝 ストーリー、ネタバレ」です。


「その10、デイヴィドソンの不思議な目」(異次元テーマ)

 10数ページの短編です。主人公シドニー・デヴィドソンの同僚であるベロウズの一人称"私"によって、シドニーの身に降りかかった変異が語られます。


 シドニーが発作を起こしたのは、ハーロウ技術学校の実験室のことでした。器具の壊れる音とシドニーの叫び声に驚き、駆け付けたベロウズは、シドニーの目が見えないことに気づきします。しかし、目は見えないものの、音声などはきちんと聞こえていたのです。


 ですが、シドニーは別の物を見ていました、地球の反対側の海底の世界でした。そこには沈没船があり、自分に向って深海魚が襲ってくると喚きます。ただ、ベロウズの語りかける声は聴こえていますので、不思議なやり取りが進みます・・・・。


 ですが、シドニーの異変は長くは続きませんでした。視野の中にこちらの世界が見え始めたのです。そして、時間を追うに従って元に戻ります。あの症状はなんだったのか、いまだに解明はされていません。


 ただ、後日、ファルマー号なる沈没船の写真を見たシドニーは、自分が見たのはまさしくこの船だったと証言しています。シドニーの体験を、犬を使って再現しようとしましたが、いずれも失敗しました・・・・。


「その11、故エルヴシャム氏の物語」(ホラー)

 以下2編の短編は、創元版で既に取り上げていますので、既に書いているブログから再掲することにします。


 『 医師を目指す貧しい青年が主人公です。青年は、偶然エルヴシャムという老人に出会います。老人は、気に入ったのか、青年を自宅に招き、酒をふるまいます。老人は余命いくばくもないので、青年に全財産を遺贈すると伝えます。青年は半信半疑です。


 酒を飲みすぎたのでしょうか。通常では考えられないような酩酊ぶりです。幻覚まで見ます。あたかも、ドラッグ体験のようです。このあたりの描写が、実に活き活きしているのです。しかも、読者を誘導しているのです。やっとベッドに倒れ臥します・・・・・。ふらつく足で自宅に帰ったように思えたのですが、どうも老人の家に戻って寝ていたようです。


 体の随所に違和感を感じます。目で見える範囲の皮膚は、・・・・・。青年の心は、老人の体に入っていたのです。では、老人の心は、青年の体に入ったということでしょうか。老人の体をした青年は、今にしてやっと理解します。老人はやがて死ぬ、そして、青年が遺産を相続する、若い体の中で・・・・。老人の体をした青年は、経緯を書いたメモを残し、自殺します。


 ただ、老人の心を持った青年は、馬車にはねられ事故死しています。この部分のエピソードは不要だったのではないでしょうか。老人の心を持った青年が、遺贈された財産で裕福な人生を送る・・・・、といった展開の方が面白かったと思います。しかし、ヴィクリア朝の道徳観が、そんなストーリーを許さなかったということも事実です。ブラック・ユーモアあふれた怪奇小説です。 』


「その12、森の中の宝」(宝探しテーマ)

 『 ある中国人が、無人島に金塊を隠します。中国人は、白人2人を誘い、お宝を回収に向かいます。中国人は豪語します。「誰も、オレの金塊を奪えない」 中国人は、白人2人を出し抜き、隠し場所に向かいます。しかし、白人の一人が追いついた時、既に亡くなっています。掘った痕があり、金塊が見えます。


 しかし、白人は手に違和感を感じます。なぜか、ぴりぴりします。もう一人の白人が着いた時には、立つことができなくなっています。やがて死んでいきます・・・・。もう一人の男も・・・・。猛毒性の棘を持つ植物の存在を暗示して、物語は終わります。猛毒の存在を知ったからこそ、中国人は隠し場所にしたはずです。どじな中国人です。 』


(追記) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。