第9382回「日本文学100年の名作 その3、1918年 指紋 佐藤春夫 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9382回「日本文学100年の名作 その3、1918年 指紋 佐藤春夫 ストーリー、ネタバレ」





 第9382回は、「日本文学100年の名作 その3、1918年 指紋 佐藤春夫 ストーリー、ネタバレ」です。この作品は、「新潮版・昭和ミステリー大全集」の巻頭を飾っている作品です。このシリーズも全作品をブログに取り上げていますので、冒頭部分を除き再掲することにします。


 ≪ 佐藤春夫は、毀誉褒貶の激しい文人だったようです。代表作は「田園の憂鬱」、「晶子曼陀羅」などです。後輩にに対しては、好悪がはっきりしていたようです。ウィキペディアから引用します。


 『 俗に門弟三千人といわれ、その門人もまた井伏鱒二、太宰治、檀一雄、吉行淳之介、稲垣足穂、龍胆寺雄、柴田錬三郎、中村真一郎、五味康祐、遠藤周作、安岡章太郎、古山高麗雄など、一流の作家になった者が多かった。また、芥川賞の選考をめぐる太宰との確執はよく知られている。


 自分を慕う者の世話はどこまでもみたが、自分を粗略にした(と思った)者はすぐに厚誼を途絶するという、ものごとを白・黒でしか見ない傾向があった。三島由紀夫も第二次大戦末期には春夫のもとに出入りし、初対面の折に「大家の内に仰ぐべき心の師はこの方を措いては、と切に思はれました」と記したこともあるが、三島が長篇小説「盗賊」(1948年)の序文を川端康成に依頼したことが春夫は気に入らず、以後は疎遠になっている。


 檀一雄は、川端家に遊びに行っても酒が出ないので閉口していたところ、春夫の家を訪れた折には春夫が下戸なのにもかかわらず気前よく酒を振舞われて感激し、それ以後弟子を自任するようになったという。 』


 「指紋」は70ページほどの短編なのですが、改行が少なくびっしりと書き込まれていますので、実質的に中編小説です。阿片をモチーフにした耽美的な作品に仕上がっています。ド・クインシー(イギリス人)の「阿片服用者の告白」についても触れています・・・・。


「ストーリー」

 一人称"わたし、佐藤"(春夫?)で物語は進みます。友人のR.Nは渡欧していました。いよいよ帰国するとの連絡が入ったのですが、一向に帰ってきません。戻ってきたのは、1年以上たってからでした。久々に会ったRはすっかり変わっていました。どうも阿片を常用しているようです・・・・。


 佐藤とのわずかな交情の後、Rはすぐに長崎に行きましたが、半年後には、追われるかのように東京に舞い戻ってきました。「佐藤、金を出すから新居を建て、私を住まわせてはくれないか」、Rは実に裕福だったのです。彼の申し出るままに、新しい家に一緒に住みます。


 Rの様子がおかしいため、召使いも置けません。佐藤の家内は、Rを狂人だと考えていました・・・・。Rはめったに外出しません、外出する際には必ず佐藤が同行しました。そんな時に、浅草の映画館に行ったのです。上映されていたのは、「女賊ロザリオ」でした。


 運転手がテーブルにつけた指紋が大写しされた時、Rの様子が変わりました。Rに促され、最後まで観ずに映画館を出ます。さらに、唐突に長崎に一緒に行こうと言い出したのです。長旅に疲れ果てた佐藤を引き連れ、Rが向かった先は、阿片窟のあった廃屋でした。


 大家の妻は、借りるか検討したいと話すRに鍵を渡します。カミサンは、「この家は、幽霊屋敷なんですよ、何日か泊まった後、必ず店子が出ていくんですよ」と話します。正直なカミサンです。Rは勝手知ったる我が家のように地下に行きます。


 そして、帰国後、長崎で起こった殺人事件について話します。阿片で混濁していたRが目覚めた時、傍らに死体が転がっていました。当時は、自分が殺したと思っていたのですが、そこに遺されていた懐中時計には、映画に映し出された指紋と同一のものが残されていたというのです。


 映画「女賊ロザリオ」で運転手役を演じたのは、ウィリアム・ウィルソンという男優でした。現在、ハリウッドで俳優活動をしているようです・・・・。長崎での事件に煩悶していたRは、指紋に関してはエキスパートになっていました。懐中時計に遺されていた指紋は完全に記憶していました。フィルムも手に入れています。佐藤にも確認させます・・・・。


 同じ指紋は、世界でただひとつ・・・・、そのことから判断する限り、長崎の阿片窟での殺人犯はウィリアム・ウィルソンしかいないことになります・・・・。その後、R.Nは亡くなりました。彼の遺品はひとつの箱に入れています。


 そんな時に、地元紙が阿片窟で白骨死体が発見されたと報じていました。体格から判断すると外国人のようです。佐藤は、懐中時計、映画フィルム、新聞記事などを保存することにします。Rの遺品の中には、「月かげ」と題した手記がありました。阿片服用時に見た白日夢が綴られていました・・・・(かなりの長文です)。


 ところで、佐藤のカミサンは御近所の奥さん連中にぼやきます。「最近主人がおかしいのよ。R.Nさんのキチガイが伝ったのかしら」


(補足) 佐藤春夫の肖像写真は、ウィキペディアから引用しました。推理小説の体裁をとっていますが、やはり耽美小説です。結末も、白黒つけるという内容にはなっていません。佐藤春夫は、ド・クインシーの阿片世界を再現したかったのだと思います・・・・。 』


(追記) 「日本文学100年の名作」について書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"日本文学"と御入力ください。