第9383回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その13、モロー博士の島 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9383回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その13、モロー博士の島 ストーリー、ネタバレ」





 第9383回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その13、モロー博士の島 ストーリー、ネタバレ」です。120ページほどの中編です。まえがきと全22章(サブタイトル付き)で構成されています。ストーリーの紹介にあたりましては、原作とは別に章とサブタイトルをつけさせていただきます。


 ところで、20世紀後半は、ワトソン・クリックの遺伝子構造の発見以来、生化学・大脳生理学の世紀となりました。それでも、その解明は十分とは言えません。動物の人間化どころか、夢の解明すらいまだ未知の世界です。


 まして、ミクロ及びマクロ・レベルでの大脳の機能についてはいまだ端緒に就いたばかりです。「脳科学」を云々すること自体、呪術で癲癇(てんかん)を治すようなものです。疑似科学の域を超えていません。現在では、時代遅れ、陳腐化したと感じられる「モロー博士の島」ですが、その後の生化学の方向性とは異なるものの、その先見性には驚くべきものがあります。


 なお、文末にこの小説の映画化作品である「D.N.A.」(1996年)のストーリーについて、手抜きとなりますが、"MovieWalker"から引用することにします。生化学の進歩を一部取り入れた内容になっています。


「その13、モロー博士の島」

『プロローグ 遺産相続者である甥によるまえがき』

 「"私"の伯父であるチャールズ・エドワード・ブレンディックは、『レディ・ヴェイン号』の遭難と共に死亡したと推定されていたが、11ヶ月後に帆船式貨物船『イペカクワニャ号』上で救助された。やはり死亡せしものと推定される船長ジョン・デイヴィスの足取りとも一致しており、手記のの事実に間違いないものと思われる。


 なお、この手記については叔父は公表を望んでいなかったようであるが、私の判断で発表することとした」(要旨)


『第1章 火山島に到着するまで』

 ブレンディックは、レディ・ヴェイン号の遭難時、他の乗員2名と共に救命ボートで脱出しました。ボートの中では、水も食料もなくなり、あわや「メデューサ号事件」の二の舞という事態に陥りましたが、幸い乗員同士の争いで回避できることになりました。その際、ふたりは亡くなっています・・・・。


 そのままでは、衰弱死を迎えることになったはずですが、幸い近くを航行中のイペカクワニャ号に救助されました。漂流中のプレンディックを救助することに当たっては、船長のデイヴィスは実に消極的でしたが、積極的に救助を申し出たのは荷主でもある白髪の男の助手、モンゴメリー青年(モントゴメリー)でした。


 彼らが連れていた現地人は実に異様な風貌をしていました、衰弱しているブレンディックにとっては、悪夢のような異形の人間たちでした。白髪の男が所有する島に近づくと、島からボートで迎えに来ますが、ここで、ブレンディックは船長から元の救命ボートに強制的に乗せられ追い出されてしまいます。


 当初、白髪の男にはブレンディックを救助する気などなかったのですが、プレンディクが生物学者であることを知った彼は、島に置いてもいいと言い出します。その白髪の男こそが、モロー博士でした・・・・。


『第2章 人為的に生み出された動物人間』

 養殖のために多数のウサギを話した後、モンゴメリーはブレンディックを博士の研究室に連れて行きます。彼の説明では、錠のかかった多数の立ち入り禁止区画があるそうです。従業員は船で見かけた連中以外にも、異様な形相をした人ばかりでした。


 モロー博士の名前には聞き覚えがありました。10年ほど前に動物の生体実験で学会を追放同然になった男だったからです。そして、これまでに接触してきた数々の異形の者たち・・・・・。


 島に到着早々、ブレンディックはピューマの生体解剖を目撃することになります。禁止条項を破ったというより、その悲鳴に驚かされ、つい見てしまったというのが実情です。研究室の中からは、人間とも動物ともつかぬ存在が飛び出してきて、密林の中に逃げ込みました。


 その光景に驚いたブレンディックは、パニック状態のまま、密林の中に入っていきます。


『第3章 動物人間の集落』

 ブレンディックは夜のジャングルを徘徊します。島の中央部には火山がありました。そして、随所で出会う動物人間たち、共通しているのは人間であること、ですが、それぞれの動物人間がそれぞれの動物の要素を強く持っていたことです。


 ブレンディックはいったんモンゴメリーの元に戻ります。「きみは密林で何を見たんだ」とモンゴメリーに訊かれますが・・・・。もはやここにはいられないと考えていたのです、ブレンディックは逃げ出します。そこで出会ったのが、彼が「猿男」と名付けた男でした。猿男は話すことができます。


 島での勝手が解らぬブレンディックは、猿男についていくことにしました。連れて行かれた先は、見捨てた動物たちの集落になっていました。そこにいたのが、類人とヤギを掛け合わせたようなサチュロス、ブタ男にブタ女、ウマとサイを合成したような存在、クマとウシの合成物、さらにセント・バーナード犬を人間化したようなものまでいました。


 そんな動物人間たちの中で、猿男は五本指であることを誇ります。しかし、その集落の中で最も権威を振りかざしていたのが、灰色の毛をした動物人間でした。動物たちに、宣教師から教えられた戒律を復唱させます。


 「四本足で歩くなかれ、これ掟なり、我らは人間ならずや」、灰色の詠唱に続き、動物人間が復唱します。

「肉、魚を喰うことなかれ、これ掟なり、我らは人間ならずや」

「主(創造主)の手は創り手なり、主の手は傷つける手なり。主の手は癒す手なり」、延々と復唱が続きます。


 その時でした、モロー博士とモンゴメリーが銃器とムチを手にしてやって来たのです。動物人間たちはふたりを取り囲みますが、モロー博士は動物人間たちを威圧し、ブレンディックを研究所に連れ戻します。


『第4章 モロー博士の創りしもの』

 「ブレンディックくん、きみは誤解している。動物人間たちは人間から創ったものではない。動物を人間化しようとしたものだ。そのために大脳にも手を加えている。わしの研究成果は、異種動物間の移植・合成も可能にした」


 たしかに、複数の動物の特徴を備えた動物を見かけましたし、知能の高さは通常の動物には見られないものでした。一方、博士は現状での限界も告白していました。「彼らには時間経過とともに退行現象が見られる」、博士が見捨てた動物たちが寄り集まって、先ほどの集落を形成していたのです。彼らもやがて動物に戻るはずです。


 モロー博士は、ブレンディックに危害を与えないことを示すために、拳銃を貸与します。そして、博士は動物たちの点呼を取ります。「この中に掟を破ったものがいる」、それはヒョウ人間でした姿をくらましています。さらに、危険因子としてのハイエナ男・・・・。


 モロー博士の暗鬱な楽園も終りを告げようとしていました。


『第5章 反乱、そして、モロー王国の崩壊』

 事態が動いたのは、ブレンディックが島にやってきて1か月半も経った頃でした。問題を起こしたのは、島に来て見かけたあのピューマでした。いったんは捕獲され檻の中に入れられていたのですが、脱走したのです。そして、混乱する研究所内ではモロー博士も消え失せていました。ピューマを追って出かけたようです。


 捜索に加わったブレンディックは、モロー博士が殺されたことを知ります。そのことは動物人間たちの間にもたちまち拡がりました。「主は死んだ!」、動物人間たちが叫びます。反乱の主導者は、ピューマ男とハイエナ男のようです。たちまち、島中に殺戮の嵐が吹き荒れます。


 ブレンディックは、とりあえず博士の遺体を動物人間に手伝わせ研究所に運びます。そして、実験中の動物を皆殺しにします。しかし、モンゴメリーは灰色の毛に殺されました。一方、創造主の死を知った動物たちは浜辺に集まっていました。


 もはや、モロー博士の楽園の島に待っていたのは、動物人間たちの退行と死のみでした。ブレンディックは野生化する動物人間たちと共生することにしました。そして、10カ月近くが過ぎ去ります。その間に、あのピューマもハイエナ男も死にました。ブレンディックを慕っていたセント・バーナード人間も殺されました・・・・。


 そんな中、ディヴィス船長のイペカクワニャ号が漂着したのです。船長もクルーも死んでいました・・・・。


『エピローグ その後』

 ブレンディックは、島から水と食料を調達し脱出します。その後の経緯は甥が記したとおりです。島から帰還後のブレンディックは、島については一切、口を閉ざしていました。人付き合いも望まず、静かに余生を送ったそうです。


 『 ・・・・ 私はふと思うのだ。人間の理性の根源は日々の気苦労や罪の中にではなく、宇宙の広大な法則の中にこそ求められるべではいかと。人間は希望なしでは生きていけない。だから私は孤独ながらも精一杯の希望の言葉でこの物語を締めくくりたい。 』(橋本槇矩氏、鈴木万里女史共訳)







(追記1) 「D.N.A. ドクター・モローの島」のストーリーは次のとおりです。

 『 太平洋上を漂流中の国連の弁護士ダグラス(デイヴィッド・シューリス)は、通りがかった国籍不明の貨物船に乗っていたモンゴメリー(ヴァル・キルマー)という謎めいた男に救出された。船内には野生動物が積み込んだ船はやがて場所も定かでない熱帯の孤島に停泊。


 上陸したダグラスは、モンゴメリーからこの島の所有者が、行方不明のはずのノーベル賞受賞の天才遺伝子学者モロー博士(マーロン・ブランド)だと知らされる。彼は、博士の娘のアイッサ(ファイルーザ・バルク)と出会い、その美しい肢体に魅せられる。


 その夜、モンゴメリーはダグラスを部屋に閉じ込め、それが君のためだと言う。鍵をこじ開けて抜け出したダグラスは、モロー博士の実験室に迷い込む。そこで彼は、博士とモンゴメリーが人間とも動物とも見分けのつかない母体から、見たこともない形の胎児が取り出している光景を目撃する。


 博士は遺伝子を操作し、獣人というべき異形の生命体を作り上げていたのだ。恐ろしくなったダグラスは、アイッサの助けを借りて島から逃げ出そうとするが、無数の獣人たちに取り囲まれる。そこに異様ないでたちの博士が登場。


 連れ戻されたダグラスは、遺伝子工学の粋を極めて、“完璧に純粋無垢な”生物を産み出そうという博士の夢を批判する。やがて、掟を破って動物の肉を食べた豹男のローメイ(マーク・ダカスコス)が裁判にかけられて処刑されたことを契機に、獣人たちの間に不満の空気が生まれ始める。


 そしてついに、ハイエナ男(ダニエル・リグニー)をリーダーとする獣人の過激分子は、産みの親であるモローに反逆と復讐の牙を剥き、彼を血祭りに上げた。ダグラスはアイッサと共に逃げようとするが、彼女もやはりモローの創造物であった。


 アイッサはダグラスを守ろうと、獣人たちと戦って死ぬ。モンゴメリーも殺され、獣人の手に落ちたダグラスは一計を案じ、ハイエナ男たちを同士討ちさせて難を逃れる。かくしてダグラスは、生き残った獣人に見送られ、ボートで島を後にした。 』("MovieWalker"から引用)


(追記2) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。