第9397回「日本文学100年の名作 その7、1921年 件、内田百閒、ストーリー。ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9397回「日本文学100年の名作 その7、1921年 件、内田百閒、ストーリー。ネタバレ」





 第9397回は、「日本文学100年の名作 その7、1921年 件、内田百閒著、ストーリー。ネタバレ」です。内田百閒がらみで書いたブログは、映画関連の4件のみです。鈴木清順監督作「浪漫三部作 ツィゴイネルワイゼン」(※)と黒澤明監督作「まあだだよ」(※)をいずれも2回に分けてブログに取り上げています。


 前者は内田原作の「サラサーテの盤」を原作とした清順監督の意欲作でした。一方、後者は内田百閒(ひゃっけん)の後半生を描いています・・・・。「まあだだよ」の感想部分の冒頭部分を引用することにします。


 『 1993年に公開された黒澤監督の最後の作品です。


 主人公は、内田百閒(ひゃっけん)夫妻とその門下生です。内田は、夏目漱石の門下に属する作家ですが、多数の幻想小説を書いています。代表作としては、「冥途」、「旅順入場式」などが挙げられますが、いずれも幻想的な短編です。作風としては、漱石より、泉鏡花に近いと思います・・・・。


 夏目漱石のデビュー作は「吾輩は猫である」ですが、決して名無しのネコが主人公ではありません。苦沙弥(くしゃみ)先生と、友人と門下生の交友を描いた小説です。当然、苦沙弥先生は、漱石自らをモデルとしています。成熟しつつあった明治国家の情熱が、かれらの会話から、ユーモアをまじえて、あふれ出しています。ある意味、いまひとつの「坂の上の雲」という読み方もできます。


 ですが、黒澤監督が描こうとしたのは、内田百閒です・・・・。何故、漱石ではなく百閒なのでしょうか。門下生たちは、内田に理想の教師像を求め続けます・・・・。内田は、門下生たちの愛情を自然体で受け止めます。私自身、戦前の書生気分は好きではありません。また、彼らが繰り広げる宴会についても、好感がもてません。いやらしく感じられるのです・・・・。


 一方、苦沙弥の借家で繰り広げられる会話には、時代が持つエネルギーを感じます。物理学者は物理学者らしく、美学者はもったいらしく、経済を学んだ者は、利を説きます。変らないのは、苦沙弥先生だけです・・・・。そんな会話を聞いている"ネコ"は、やはり世間の猫たちの間でも先生と呼ばれます(決して尊敬の対象としてではありませんが)。


 黒澤監督が、内田を選んだのは、やはり謙虚さからではないでしょうか。漱石に自らを比すのではなく、内田に止めたと・・・・。映画では、実際の内田の人生とは少し変えています。ですが、法政大学の教鞭を取っていたのは事実です。物語は、法政大学を辞めるところから始まります・・・・。 』(以上再掲)



「その7、1921年 件」内田百閒著

 10ページほどの掌編です。「よって件(くだん)の如し」、その「件」です。三日間の寿命を与えられて"生れ"た「件」は、予言を伝えたのちに、即座に殺されます。ですが、「件」はどのように予言をしていいのか分かりません。夜空には黄色い月が掛かっていますが、地上を照らそうとはしませんので、まったくの暗闇です。


 一日目は何も予言しませんでした。「件」の予言を聞きたくて人々が集まってきます。二日目もやはり不発でした。三日目、最後の日はさらなる期待をこめて大勢の人々が集まりました。ですが、「件」が何か話そうとすると、人々は逃げ出すのです・・・・。「恐ろしい、聴きたくない!」


 期待をこめていただけに人々は、逆に恐ろしい予言を聞きたくなくて逃げ出したのです。「私は予言を話さず、長生きできるかもしれない」と「件」はそう考え、二、三度あくびをします・・・・。


(補足) 冒頭の写真はウィキペディアから引用しました。この小説を読んで連想したのが、フレイザーの「金枝篇」です・・・・。


(追記1) 既にブログに取り上げている※印をつけた作品は、次のとおりです。興味がありましたらアセスしてください。

「ツィゴイネルワイゼン、感想」http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11758864811.html

「   〃   、ストーリー」http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11758971106.html

「まあだだよ、感想」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10863131068.html

「まあだだよ、ストーリー」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10863368103.html


(追記2) 「日本文学100年の名作」について書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"日本文学"と御入力ください。