第9399回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その19~21、マジック・ショップほか、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9399回「創元・岩波ウェルズ傑作選 その19~21、マジック・ショップほか、ネタバレ」




 第9399回は、「創元・岩波ウェルズ傑作選 その19、マジック・ショップ 20、ダチョウの売買 21、世界最終戦争(ハルマゲドン)の夢 ストーリー、ネタバレ」です。


「その19、マジック・ショップ」(ファンタジー)

 この短編を再読しての第一印象が、桂正和さん作「電影少女」の世界を想起したことです。この短編では、不思議なビデオショップではなくマジック(手品)商品を扱う店が登場します。そして、子どもの心を癒すのは、ボーイッシュなあいちゃんでなくマジック・グッズの数々でした・・・・。


 ジップの父親は、そのマジック・ショップを何度か見かけていますが、近づくと何故か消え失せてしまったという説明のつかない経験があります。リージェント・ストーリーの絵画店と孵化器販売店に挟まれた間口の狭い店なのですが、入ろうと思うとマジック・ショップなどありませんでした。


 事態が動いたのは、息子のジップを連れて散策していた時のことでした。気が付くと、マジック・ショップのショー・ウィンドウを覗いていたのです。ジップに手を引かれ中に入ると、店主らしき人物が次々と商品を取り出してきます、空中から、手のひらから、胸のポケットから・・・・。


 ジップは夢中になります。「御代は結構です」、店主はジップのリクエストに応え、さらに次々とマジック・グッドを取り出してジップを魅了していきます。また、一部のマジックについてはネタを明します。店主が次に連れて行ったのが、駄々っ子が開けようとしても開かなかったドアの部屋でした、


 ジップのリクエスト商品を次々と取り出します、ジップのポケットなどから・・・・。「おいくらですか」、父親は少々息子の誕生日プレゼントとしては高額すぎると考えていたのです。店主は答えず、さらなるマジックを見せます。「ジップ、きみはいい子だね」、そう言った店主はジップを消失させます・・・・。


 抗議しようとしましたが気が付くと、父親はリージェント・ストリートの路上に居ることに気づきました。近くでジップも何箱も賞品を抱えて立っていました。あらためて見つめましたが、絵画店と孵化器販売店の間にはわずかな壁しかありませんでした。先ほどの店はなんだったのでしょうか。


 店主に連絡先を教えているのですが、請求書は送られてきません。ジップはおもちゃに夢中になっています。「その兵隊人形、動くのかい?」と訊くと、ジップは「人間のように動くよ。そうでなければ、つまんないよ」と答えます。


 父親はその後、何度かあの店のあった場所に行きましたが、わずかな壁があるのみです・・・・。



「その20、ダチョウの売買」(奇妙な味)

 以下の2編は既にブログに取り上げていますので、再掲することにします。


 『 ミステリと言っていいかもしれません。物語は、富豪であるヒンズー教徒のダイヤモンドが、ダチョウに飲み込まれたことから始まります。ダチョウは5羽いるのですが、どのダチョウが飲んだのか分りませんし、しかも、船の上です。ダチョウの持ち主は、自分のものだと主張します。当然、2人の間で争いが生じます。しかし、所有権は、船の上でもあり、はっきりしません。


 ダチョウの持ち主は、1羽を除いて4羽のダチョウをオークションにかけます。1羽は自分の運試しのために、取っておいたのです。先に解体されて、ダイヤモンドが出てしまえば、後のダチョウは二束三文となりますので、解体は、全てのオークションが終わり、下船してから行なうことが条件となります。


 はたして、ダイヤモンドはどのダチョウから出てきたのでしょうか・・・・。ですが、下船してからの解体ですから、ダイヤモンドが誰の手に入っていたのか分りません。そして、数日後、筆者は、富豪のヒンズー教徒とダチョウ飼いが仲良く街を歩いているのを見かけます・・・・。 』(以上再掲)



「その21、世界最終戦争(ハルマゲドン)の夢」

 『 汽車にたまたま乗り合わせた男の物語です。時間があるため、筆者は相席の客の話を聞くことになります。その男は、夢が現実か、現実か夢か分らないというのです。しかも、「夢のほうが現実に思える。しかし、その夢も見なくなった、夢の中で自分は殺されたから」と。 長い話が始まります。


 彼が夢で見て世界は、はっきりは分らないが、200年ほど未来のようです。彼の仕事は政治家であったが、愛のため、すべて政治の仕事は、捨てたといいます。しかし、戦雲が迫っていたのです。それを阻止できるのは彼だけだったのですが、それでも愛を取ったといいます。


 彼の愛した女は、世界を救うように頼みますが、聞き入れません。戦争が始まります。戦争はまたたく間に全世界に拡がります。彼と愛人の女は、逃避行を続けますが、戦争は2人を直撃します。そして、愛人は銃弾で亡くなります。さらに、彼も銃剣で刺し殺されます・・・・。この短編が公表された11年後、第一次世界大戦が始まりました。予言的な短編です。 』(以上再掲)


(追記) 「創元・岩波ウェルズ傑作選」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"岩波ウェルズ"と御入力ください。