第9400回「トリック 山田奈緒子関連本 その9、死人の意識を読みとる男 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9400回「トリック 山田奈緒子関連本 その9、死人の意識を読みとる男 ストーリー、ネタバレ」

 第9400回は、「トリック 山田奈緒子関連本 その9、サイ・トレイラー 死人の意識を読みとる男 ストーリー、ネタバレ」です。シリーズ屈指の本格ミステリ作品に仕上がっています。佐野史郎さんが、「ゾーーーン!」の奇声と共に白目を剥いていました。


「その9、サイ・トレイラー 死人の意識を読みとる男」

 『 最大の謎は、「サイ・トレイラーは、過去の隠された殺人事件を暴き、遺体を捜しだすことができるのか」と言うものです。その事実の前には、都市伝説である"人面タクシー"は、些細な謎です。本格推理ですので、登場人物(容疑者)を紹介しておきます。


① 深見博昭(佐野史郎さん)・・・・霊力によって、過去の事実を追跡する"サイ・トレイラー"。まっ赤な髪、まっ赤な服に、黒いマントを羽織る摩訶不思議な人物。成仏できずこの世をさまよう霊は、集合し"ゾーン"を形成すると主張。サイ・トレイリングにあたり、甲高い声で「ゾ―――ンッ」と叫ぶ。


② 岡本・・・・上田に、深見の能力を鑑定した依頼人。3年前、婚約者・恭子が"人面タクシー"に乗った後、行方不明となっている。もちろん、岡本の最終目標は、恭子を探し出すこと。


③ 小早川・・・・深見が報酬1千万円を要求したため、スポンサーとなる。職業はエッセイストであり、金持ちでもあるが、最近は金回りが悪くなっている。恭子の叔父であり、目的はもちろん、肉親として恭子の生死を確認すること。


 恭子が行方不明となった3年前の"人面タクシー事件"では、恭子を含めて4人の女性が行方不明となっています。上田は、「どんと来い!超常現象」によって、ワイドショーに出演し、超常現象のコーナーまで持っています。その上田のコーナーで、深見が行方不明者のサイ・トレイリングを行なうことになったのです。


 もちろん、ワイドショーは、カメラで深見のサイ・トレイリングを追います。そして、深見は次つぎと犠牲者となった遺体を発見していきます。こんなことは可能でしょうか。深見は、あくまで成仏できない霊が存在する"ゾーン"が、彼に語りかけてくると主張します。ただし、恭子の遺体はいまだ発見されていません。


 最も単純な推理は、深見が女性たちを殺し、そして、自らその犯罪を暴いたと言うものです。ですが、犯人がそんなことをするでしょうか。ここから、物語は急速に展開していきます。人面タクシーが現われたのです。上田、奈緒子の目前に出現し、体をすり抜けて行ったように思えたのです。人面タクシーは、プラズマのような光を発していました。


 さらに、ホテルに宿泊していた岡本が、8階の部屋から飛び降り自殺したのです。深見にも小早川にもアリバイがあります。サイ・トレイリングは可能なのか、人面タクシーは実在するのでしょうか、数々の謎をはらんで、一挙に大団円を迎えます。以下、最後まで書きますので、ネタバレとなります。


 人面タクシーが、奈緒子たちに向かって突進し、すり抜けて行ったと思われた現象のトリックは、いわゆる心理トリックです。強烈なライトに目がくらました後、直進せず、急カーブします。そのために、視力が復活したとき、タクシーが直進したように思えたのです。それを、確実にするために、工事用ライトの移動を利用しています。


 ですが、最大の謎は、どのようにして、隠された犯罪の犠牲者の遺体を発見できたのかということです。人面タクシー事件の犯人は、エッセイストの小早川(③)でした。婚約者の岡本(②)も、深見も、小早川が恭子を殺した段階で、犯人だと分っていたのです。


 それを、わざと見逃して犯罪を繰り返させたのです。恭子殺しだけでは、無期懲役で20年経てば、出所してきます。それが、深見には許せなかったのです。深見は恭子の実の父親だったという設定です。それ以降の殺人を、深見は岡本に目撃させていたのです。


 分ってみれば、深見のサイ・トレイリングの謎も単純です。では、飛び降り自殺と見せかけた岡本殺しは、どのように実行したのでしょうか。ホテルの部屋を取ったのは、深見でした。8階と3階の同じ間取りの部屋を取っていました。


 明るいうちに、3階の部屋に連れて行きます。部屋の外は、すぐ屋根になっています。警察が来たら、屋根伝いに逃げるように言い含めておきます。昏睡させた岡本を8階に移動します。暗くなってから、警察がやってきます。屋根伝いに逃げようと、窓から・・・・・。


 小早川は、恭子の遺体を隠した場所に向かいます。それこそ、深見の狙いだったのです。小早川も、深見も逮捕され、一件落着となります。「お前らのやったことは、まるっとお見通しだ」(私の記憶)


 被害者はなぜ人面タクシーに乗ったのでしょうか、そして、誰が目撃したのでしょうか。ストーリーとして無理があります。ラスト、深見は小早川の犯行を暴くために、奈緒子を誘導したと語ります。はたして、そうなのでしょうか。ワイドショーが動いた段階で、深見の思惑は達成できています。


 それとも、深見は自らを裁くために、奈緒子を誘導したのでしょうか。岡本を殺しただけでなく、3人の女性殺しには、刑事責任は別にしても、道義的な責任は免れません。はたして、・・・・・。メインの大トリックだけで通した方が、ミステリとしても優れていると思います。優れたミステリは、枝葉で装飾しましても、幹の部分は見失っていません。 』



「山田奈緒子の視点」

 上田次郎さんは、ワイドショーの「どんと来い、超常現象」というコーナーも持っています。そんな上田さんにパラサイコロマカデミアンナッツ(パラサイコロジーアカデミー)の学長である深見博昭(①)から挑戦状を叩きつけられることになりました。


 ところで、"私"は誰もが認める超売れっ子マジシャンですが、天は二物を与えるものなのですね、あっ、忘れていました、美貌もいれたら三物でしょうか。ワイドショーがらみで、今回も"私"も上田さんの応援に呼ばれることになりました。ゲストは深見です。


 深見は三年前にワタリゴメ(渡米)し、ハーバード大学で客員教授を勤める傍ら、オオノウセイリガク(大脳生理学)、シンノマナブ(心理学)、ノリガク(法学)の博士号も取得したシンススムキエーイ(新進気鋭)の学者でした。


 事前に会っての出演でしたが、番組内で深見は挑戦状を叩きつけて来ました。上田が敗ければ、ギャラ・印税など一千万円を深見に払うという挑戦を受けることにしたのです。もちろん、深見の挑発です。その金を上田のために出すと言ったのが、失踪中の恭子の親戚である小早川(③)でした。


 かくして、サイ・トレーラーと超天才マジシャンのバトルが始まりました。恭子失踪の影に、婚約者・岡本(②)がいました。深見は強いアリバイを主張しています。それでは、岡本と深見が共犯ではないかと、"私"は考えました。しかし、岡本が密室状態のホテルの八階から飛び降りたのです。


 岡本の死からわずか後に、さらなる死が待ち受けていました。深見が死んだのです。脈はありませんでした。"私"と上田さんは、深見の書斎を調べました。多数の洋書などの中から目についたのが、「快楽殺人にとりつかれる心理」でした。


 そこには、「快楽殺人者は殺すことが目的、だからやめられない」と書かれていました。、突如小早川さんが山林には入ったかと思うと、一心不乱に何かを掘り始めたのです。出て来たのは、あれほど捜索しても見つからなかった恭子さんの遺体でした。


 火の車だった小早川は多額の保険を恭子さんにかけて殺していたのです。そのためにも、恭子の死体は必要だったのです。そこに、さっそうと現れたのが、死んだはずの深見でした。脇の下にボールをはさみ脈を消していたのです。


 深見は恭子の実の親でした。小早川に極刑を課すためにさらなる殺人を示唆していました。深見は"私"を称賛します。「きみは立派なサイトレイリリングだ」と・・・・。「サイ・トレイラーもメニューに加えようかしら、お安くしますよ、エヘヘヘヘッ」


(追記) 「トリック 山田奈緒子関連本」につきましては、随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"奈緒子関連本"と御入力ください。