第9401回「朝松健編 神秘界 その12 怪奇俳優の手帳 佐野史郎著 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9401回「朝松健編 神秘界 その12 怪奇俳優の手帳 佐野史郎著 ストーリー、ネタバレ」





 第9401回は、「朝松健編 神秘界 その12 怪奇俳優の手帳 佐野史郎著 ストーリー、ネタバレ」です。今回から現代篇に入ります。著者はホラー映画とかドラマでも存在感を発揮されている佐野史郎さんです。


 この中で触れられているラブクラフトの3大傑作が、「インスマウスの影」、「宇宙からの呼び声」、そして、「ダニッチの怪」です。「インスマウスの影」につきましては、『 1992にはTBSが佐野史郎主演・小中千昭脚色で翻案ドラマ(邦題:インスマスを覆う影)を制作するなど日本での作品の知名度も高い。 』(ウィキぺディア)として映像化されています。


 そして、10年後、ホラーシリーズの一環として企画されたのが「ダニッチの怪」でした。佐野さんらしく、テレビ・ドラマ界のインサイド・ストリーにもなっています。そして、主人公・丈健(じょう たける)は、佐野史郎さんの分身とも言えるキャラクターです。


 なお、本作は6ページ強の短編ですので、忙しい中、佐野さんが頑張って書かれたのだと思います。少し長くなりますが、「ダニッチの怪」が小説の中心になっていますので、少し長くなりますがストーリー部分を全文再掲することにします。御面倒でしたら読み飛ばしてください。


 『 本短編は、三人称で書かれています。ストーリーの紹介にあたり、便宜上、部とサブタイトルをつけています。


「第一部 ウィルバー・ウェイントリーの生と死」

 東海岸の都市、アーカムの奥地の山際に、ダニッチという村落があります。ある事件を契機に、従来立ち入ることのなかった村への道に、標識さえ取り外されました・・・・。


 ダニッチには、センティネル丘という小高い山があります。丘の山頂には、先住民族であるインディアンが造った環状列石がありました。1枚目の写真は、イギリス・スウェインサイドの環状列石です(ウィキから引用)。センティネル丘のものには、中央にテーブル状の岩が置かれています。




 前半の主人公は、ウィルバーです。ダニッチでは、近親結婚を繰り返してきました。そんな中でも、ウェイントリー家の祖父は異常な人物でした。娘に、ウィルバーを産ませたのです・・・・。ウィルバーは、さらなる奇異な人生を歩むことになります。


 異常な成長を示したのです。1歳の時には、既に歩き、明確に自己の意思を語り始めます。3歳を過ぎますと、既に青年の風貌をしていました。2メートルを超える巨人です。教育は、祖父が一族伝来の蔵書で行いました。そんな蔵書の一冊が、英訳版"ネクロノミコン"です・・・・。




 祖父は、ウィルバーが10歳になった頃、亡くなります。そして、母親も失踪します。村では、ウィルバーが殺したのではないかとの噂が流れます。ですが、ウィルバーは、村の人の噂なども気にしていませんし、付き合いもありません。家からは、異臭が漂い、ウィルバーはセンティネル山に頻繁に行っているようです。村でも、異常な出来事が起こっています・・・・。


 この頃のウィルバーは、山羊を思わせる風貌をしています。西欧人がイメージする悪魔そのものです。そんな彼は、しきりに各国の図書館と接触します。"ネクロノミコン"のラテン語版です。完全版は、世界に5冊しかありません。ですが、全ての図書館から、閲覧を拒否されます。


 ウィルバーは、再度、アーカムのミスカトニック大学に接触します。貸し出しは許可されませんが、何とか、閲覧だけは許されます。ウィルバーの興味は、英訳版に欠落している751ページです。そのページを読んでいる時に、アーミティッジ博士が、該当ページをのぞき込みます。


 『 ・・・・ "旧支配者"かつて存在し、いま存在し、将来も存在すればなり。我等の知る空間にあらぬ、時空のあわいにて、"旧支配者"のどやかに、原初のものとして次元に捕わることなく振舞い、我等見ること能(あた)わず。


 ヨグ=ソトホースは門を知れり。ヨグ=ソトホース門なれば。ヨグ=ソトホース門の鑰(かぎ)にして守護者なり。過去、現在、未来はなべてヨグ=ソトホースの内に一なり。・・・・ 』(大瀧啓裕氏訳)


 アーミティッジ博士は、閲覧を中止します。ウィルバーは、不本意ながら帰っていきます。その夜、事件が起きます。警備犬が、激しく吠えたのです。図書館で、ひとりの遺体が発見されます。ウィルバーが、犬に噛み殺されたのです。ウィルバーに関する事件は、これで終わったように思われたのですが・・・・。


「第2部 センティネル丘の怪異」

 アーミティッジ博士は、現場に残されたウィルバーの文書を解析します。暗号で書かれていたのです。多大な手間をかけ、解読します。アーミティッジ博士は、2人の同僚と共に、ダニッチ村へ行くことを決意します。ですが、村では既に事件が起きていました。姿なき怪物が出現したのです。


 村のある家が押し潰されていました。生存者はいません。状況がある程度わかったのは、事件の前にかけられた、電話による証言からでした。そして、ダニッチ村に赴いた3人は、さらなる事件が起こったことを知らされます。また、ある一家が惨殺されたのです。


 村人たちの注意は、センティネル丘に向かいます。姿なき怪物が、丘を登っているように見えたのです。アーミティッジ博士は、丘を目指します。村人たちは怖れて、同行しようとはしません。アーミティッジ博士は、ウィルバーの遺した文書から、"呪文"を割り出しています・・・・・。アーミティッジ博士と姿なき怪物の闘いが始まります。




 アーミティッジ博士の唱えた呪文に対し、空間から、「たすけてくれ、ちち、父上、ヨグ=ソトホース」という声が、轟き渡ります。怪物は、消滅します。博士は、「あの怪物とウィルバーは双子だった。祖父は、センティネル丘の上から、父親の名前を呼ぶことになるであろうと、語っていたという」と、同僚に語ります。


 村人たちには、ダイナマイトで環状列石を破壊するように指示します。この事件以降、ダニッチ村へのルートを表示する道路標識はありません・・・・。


(補足) すぐ上の写真が、ヨグ=ソトホース(ソトース)です。ウィルバーの双子の片割れは、ヨグ=ソトホースに似た形状をしていました。なお、いずれの写真もウィキペディアから引用しています。 』(以上再掲)



「その12 怪奇俳優の手帳」佐野史郎著

 「おはようっす」、「おはようございます」と活発な掛け声がスタジオ内を飛び交います。安藤プロデューサーは、スタッフ、キャストに今度の企画を説明します、「夏と言えばサザンです・・・・、いやホラーです。当局では10年前にラブクラフトの『インスマウスの影』を制作・放送し高視聴率を取りました」と切り出します。


 今度のサマー・スペシャルとして企画しているのが、やはりラブクラフトの「ダニッチの怪」の翻案ドラマです。企画段階から熱心に動いたのが、主演男優の丈健と美術スタッフのダイちゃんでした。脚本は大平万平、主演女優は香取まゆみに決定しています。まゆみは「インスマウスの影」にも出演していますので、丈とも顔なじみです。なお、前作のスタッフが再結集しています。


 撮影ロケ地は当初ダムが予定されていたものの、計画そのものがずるずると延び現在に至っているという限界集落でした。丈が見つけて来たのですが、「秘境温泉シリーズ・愛の逃避行」の撮影だと住民には説明しています。


 なんせコピーが、「夏のホラースペシャル10周年記念番組/H・P・ラヴクラフト原作『ダニッチの怪』/山が叫び、うなる 村の怨霊の仕業? あなたはこの恐怖に耐えられるか」ですから、そんなこと住民には言えなかったのです。ですが、このようなことは、この業界ではままあるそうです。


 ラストにヨグ=ソトホース(ソトース)が登場するドラマですから、CGには金をかけるそうです。限界集落での撮影は順調に進みます。旅館で出たのが、前作「インスマウスの影」での連続死でした。安藤プロデューサーが放送中止を懸念して手回ししたのです。


 最初に亡くなったのは、エキストラとして出演していた村娘です。撮影の翌日、御神体を祀っている洞窟の近くの浜辺で変死しました。この事実をプロデューサーが封印できたのも、ドラマとの関連性が希薄でしたし、村人たちも望んでいなかったからです。そしてその後、製作スタッフも亡くなっています・・・・。


 現地ロケの最終日には、クライマックス・シーンが撮られます。そこで事故は起きました。転落しようとしたまゆみを丈が助けようとして、ふたりとも落下したのです。丈が目を覚ましたのは、病院のベッドの上でした。彼が最初に案じたのが、まゆみの安否でした。


 安藤プロデューサーは、「丈さんが助けたって、マスコミが大騒ぎですよ」、ドラマは今回も好視聴率を獲得しました。ところで、美術のダイちゃんが「インスマウスの影」製作の時に作ったのが、クトゥルフの石造、「根供呂埜身昏(ネクロノミコン) 死霊秘法」、「エーリッヒ・ツァンの音楽」をイメージしたSP盤でした。丈が預かることになります・・・・。


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